第八話 攻略への一手
朝、いつも通りに起きてこれまたいつも通り隣で寝てるアリスを起こす。毎日毎日、いつの間にか布団に潜り込んで来て一緒に寝ている困った子だ。
「ほら朝だぞ、起きろ」
「うぅ~ん……おはよう葵。昨日もいい抱き心地だったわよ。」
「おはようアリス。いつも言ってるけど、男の布団に潜り込むのは感心しなぞ?」
「私は有象無象には興味ないわよ。あっ、可愛い可愛い葵は例外よ?おはようのキスを所望するわ」
「はいはい。馬鹿なこと言ってないで、起きて朝食の準備手伝ってくれよな」
「私は本気よ? まあ、じっくり攻略するわ…」
え?この子誰かって?皆大好きアリスちゃんです。
アリスは別に無口な子じゃないんですよ?日本語の発音が苦手で、単語での会話が基本になっているので無口に感じるだけだ。 ちなみに俺と二人っきりの時は英語で話すことが多い…
「今日は洋風にするから、卵焼いといてね」
「アイ、半熟は、まかせて」
アリスに卵を焼いといてもらう間に、寝てる二人を起こさなくては。絶対に声かけただけじゃ鈴は起きないだろう。すんなり起きてくれればいいんだけど…
二階に上がりいつも通り声をかける。
朱里の部屋からは音が聞こえるが鈴は無反応だ。なんだかんだ言っても、朱里は朝は強い。一方、鈴は壊滅的に朝が弱い。
しょうがないので、鈴の部屋に入る。え?女の子の部屋に入るなんて、男としてどうかしてるって? 起きてこない子が悪いんです。それに一応妹だしね?
鈴の部屋は、まあ、普通だと思う。
壁紙は薄いピンクで、右側にベッド、左側に机とPC、机の横に棚がある。棚の上にはクマのヌイグルミがあり、棚の中はゲームが半分以上占めている。
部屋の住人はベットで寝息を立てている。掛け布団を捲るが起きる気配が無い。
鈴は白地にピンクの花柄のパジャマを着ているが…パジャマが捲れ上がってキワドイ。ボタンが外れて胸がみえそ…みえ…み…
うん、何にも無かった。いや、まさかアオより無いなんてね…なんかごめんなさい。
「ほら、鈴起きろ~」
「もう少し…あと五時間だけ寝かせて」
「長いわボケ! しょうがないな~」
「・・・!? 痛い、いぁぃ~ ちょ、もう起きてますから、もう起きてるから~~~」
「やっと起きたか。早く降りて来なよ」
「容赦ないよね…」
何時もの事だが、起きるのを渋ったので四の字固めで起こしてあげた。起きない子が悪いんです。
下に降りるとすでに朱里とアリスが朝食の準備を終えていた。
今日は目玉焼き、サラダ、自家製食パン、カボチャのポタージュだ。基本朝はアッサリめにしている。
鈴が起きてきたので皆で朝食を食べる。
朝食後は身だしなみを整えて学園に行く支度をする。いつもの事だが、アリスと朱里に支度を手伝ってもらうのはどうかと思うよ?
まあ、前に一度パジャマで登校しそうになってから、誰かが面倒見るようにしたけど。情けないよ長女さん…
いつも通りに竹と合流して登校する。妹ズと竹はRDOの話をしているみたいだ。
「今って攻略どうなってるんだ?」
「あれ、知らないの?今はフィールドボスの居るダンジョンが見つかったんだよ」
「アイ、でも、攻略はまだまだ」
「そうそう。このダンジョンが城みたいなので、かなり入り組んでるみたいだから迷いまくりらしいいっすよ?」
「あぁ、ダンジョン内は地図が使えないのか。まぁ、じっくりマッピングして攻略するのが一番だな」
フィールドボスか…確か、町を中心に四つのエリアを一つのフィールドと括っていて、フィールドボスは、次の町のフィールドを開放するために倒さないといけない敵だったはずだ。
そのフィールドボスは四つのエリアのどこかにあるダンジョンに居るらしい。
「確か、今のマッピングの状況は20%だっけ?まったく、一日に一回しかも三時間しか入れないとか結構厳しいよな」
「まぁ、しょうがないんじゃないの?制限が無いと簡単に攻略されちゃいそうだし」
「まぁ、確かにそうだろうな。でも、そこまで大変なのか?」
「まったく、お兄は分かってないんだよ!あの入り組んだ通路、トラップ部屋の数々、制限時間。本当にめんどくさいんっすよ」
「そうか?…まぁ確かに面倒だけどな。最上階に行くのに一回罠に落ちて最下層まで落ちないといけないとか、開発者はよっぽどの捻くれ者だろうな」
眼鏡の事だ、普通に最上階に行こうとして、初期位置に戻されるプレイヤーを見てほくそ笑んでるだろうな。
まぁ、俺にはそんな甘い罠は効かなかったけどな。
「…今なんて言った?」
「ん?だから、開発者は「その前だ!」…最上階に行くのに一回罠に落ちて最下層まで落ちないといけないんだよな」
「お兄ちゃん、何で知ってるの?」
「あぁ、たまたま北の森を散策してたら見つけたんだ。暇だったから入って最上階の門の前までマッピングしたんだよ。でも、眠かったから引き返して寝た…ちょ、お前ら近い」
俺がそんな事を言ったら、四人が俺に詰め寄ってきた。
いや、流石に近いっての。当たってるから、二人分だけど…
「さて、これは詳しく聞かないとなぁ…」
◆
家に帰るなり、強制的に妹ズにギアを被せられてRDOにログインさせられた。
ログインするなり、コールがきて酒場に集まることなった。
少しアルコール臭い、西部劇に出てきそうな酒場で、五人で集まって話をしている。
もちろん、話の内容はダンジョンについてだ。
「さて、聞かせてもらおうか」
「聞くも何も、ただ普通に最上階まで行っただけだよ」
「それを聞きたいんだよ。ねぇ、どんな仕掛けを使ったの、お姉ちゃん?」
「仕掛けも何も…普通に一部屋ずつ見て回っただけなんだけど」
三人がぽかんとしている。
なぜかアリスだけは、俺の膝の上に乗ってミルクを飲んでいる。
流石に慎重さがそこまで無いので、髪の毛のいい匂いが…
「よし、分かった!今から行くぞ!」
「今からかよ!?……まぁ良いけど」
「よし、準備をして十分後に広場で待ち合わせな」
「「ラジャー!」」
そう言って、三人とも風のように酒場を出ていった。
「アリスは行かなくてもいいのか?」
「アイ、アオちゃん成分を、補給する方が大切。女の子の方が、柔らかいし、なんか、興奮する」
最後の方は聞かなかったことにしよう、そうしよう。
そう思いながら、葡萄酒をお替りして、アリスと二人でのんびりするのだった。