第五話 戦闘
北の門から外に出ると、暗い森が目の前に広がっていた。
少し周りを見て見るが、他にプレイヤーは居なそうだ。
ポーチの中から地図を取り出して確認してみる。
『no map』 と書かれていて、森の詳細は分からない。
どうやら自分でマッピングしないといけないようだ。まぁ、慣れてるからいいけど。
確か、初期のスキルに【測量士】があったな。多分マッピングが便利になるスキルかなんかだろう。
初期アイテムのメモ帳とペンを片手に、森の中を進んでいく。
道端にある草や花、木や木の実などを【鑑定】で確認しながら進む。中には鑑定できない物もあったが、多分スキルのレベルが低いからだろう。
そんなこんなで、敵に会う事も無く森の中ほどまで来る。
マッピングもメモ帳の五枚目にきていた。だいぶ進んできたし、少し休むか。
そう思って、近くの木に寄りかかりマッピングのメモ帳を見直す。
この森は基本一本道で、脇道は木の根のように複雑に入り組んでいる。流石に全部を確認はしていないが、全部をマッピングするのは骨が折れるだろう。
少し小腹がすいたので、パンと水をポーチから取り出す。
このゲームは、シークレットステータスとして、空腹度と疲労度が設定されている。空腹度は腹が減るもので、疲労度は疲れるものだ。現実と同じで、力が入らなかったり動きが鈍くなったりするのだ。
空腹は食事をとることで回復して、疲労は休んだり、疲労回復ポーションを使うことで回復する。
このシステムのせいで、連戦などがしにくい仕様だ。
俺はパンをムシャムシャと食べて、水で流し込む。
お世辞にも美味しくはない。なんていうか…そう、柔らかい乾パンみたいな物で、味が殆ど無いのだ。
流石に、店売りのはもっとマシだろうが。【料理】スキル取ろうかな。
そんな事を考えながら、食事を終えて一服していると、ふと何かの気配を感じた。
その気配の方を見ると、何かの影が動いているのを確認できた。
その影が、茂みの中から出てきた。
見た目は、小学生低学年ぐらいの小さい小鬼だ。体には真黒な忍者のような服を着ていて、顔には黒い布を巻いている。腕には短刀を持っている。
やる気満々だな。
目を凝らすと、詳細情報が出てくる
『LV?? ホブ・ゴブリン・アサシン』
どうやら魔物のようだ、名前からして暗殺系のクラスだろうが、見つかってちゃ意味なくないか?
そう思いながらも、少し身構える。
しばらくのにらみ合いの後、敵が動いた。
素早く静かに地面を滑るように俺の懐に入ってこようとする。しかし、懐に潜り込まれる前に、回し蹴りを頭に叩き込む。
ゴブリンはそのまま回転しながら吹き飛んでいき、木の幹に叩き付けられ、そのHPを空にして光の粒になって消えた。
あっけない終わりに、少し茫然としているとLVUPのアナウンスが聞こえた。
ステータスを見るとLVが四も上がっていた。
しかも《下剋上》という称号まで貰っていた。
《下剋上》
下の者が上の者に牙を剝く。その力は未知数。
効果:LV差が五以上の者に対して自身の攻撃力増加。自分よりLVが下の者には自身の防御力低下。
なんか分からないが、結構LVが上の魔物だったようだ。
それにしても、弱すぎじゃないのか?
確かこのゲームでは、現実の身体能力が一定になるはずだ。
いくら俺が現実で強くても、ゲームの中では他の一般人と同じになるはずだ。そうじゃないと俺の無双になると、確信を持って言える。
流石に何かのバグかと思い、GMコールをする事に。
しばらくのコール音の後に、あの嫌な声が聞こえた。
「今「何でお前なんだよ」って思ったよね?」
「当たりです。すごいですね」
「ふっ、君の事なら何でも分かるんだよ…いや、嘘だから、そんなに怒んないでよ」
少し殺気を込めて、目の前に浮かんで来たウインドウに映る眼鏡を睨む。
眼鏡は、Yシャツに白衣の如何にもな格好だ。
「んで、何の用ですか?何かバグがありましたか?」
「あぁ、少しな。このゲームって、身体能力は平均化されるよな?」
「えぇ、一応子供や大人が遊ぶことを考えて、身体能力で差が出ないようにしましたが…もしかして?」
「当たりだ。俺は今、北の森のホブ・ゴブリン・アサシンってのを倒した。回し蹴り一発でな。んでLVが四上がって《下剋上》って称号が手に入った」
「……あぁ、やっぱりか。すまない、これは我々のミスだ。君の身体能力が以上に高いために、平均化の枠から外れている」
「というと、現実と同じってことか?」
「いや、現実の三倍だね」
「は?どういう事だ?」
聞いてみると、どうやらシステムアシストと言う機能があるらしい。
そのシステムアシストは、平均化した身体能力を三倍にするもので、より快適に戦闘などのゲーム要素を楽しんでもらうためのものらしい。
まぁ、魔物相手に少しは快適に戦闘を楽しんでもらおうという物らしい。
現実で戦闘経験がある人間は一握りだろうしな。というか、普通はそういう人間はゲームなんかしないだろうし。俺は例外だがな。
「少し待ってくれよ…あぁ、無理だな。君の身体能力だけを下げるのは今のシステムでは無理だ」
「どうすんだよ、こう言っちゃなんだが、俺が無双するぞ?」
「…分かった。これでどうかな…今、君のシステムコンフィングにシステムアシストの項目を追加した。これでシステムアシストをOFFに出来る。残念だが、僕に出来るのはここまでだ」
システムから新しく追加されたシステムアシストを選び、システムアシストOFFに切り替えた。
少し体が重くなった気がするが、特に不具合はない。
「う~ん。悪いが、君にはステータスを上げないでもらいたいな」
「あぁ、何となく分かっている。これ以上強くなったら、他の真面目なプレイヤーが可哀想だしな」
「分かってくれて助かるよ。そうだ、君の白と黒を借りてもいいかい?何か打開策が思いつくかもしれない」
「あぁ、分かった。今ログアウトしてそっちに送っておく。お前のPCで大丈夫か?」
「あぁ、頼む」
「そうだ、一つ忠告しとくが。エロいデータとかは移した方がいいぞ。白が勝手に消しにかかるからな」
「…分かった、忠告ありがとう。準備ができたらメールする」
そう言って、ウインドウが消えた。
俺もログアウトする。
◆
ギアを外して、ベッド横のテーブルに置く。
机に向かい、PCの電源を入れると数秒で立ち上がる。
「こんばんわご主人様」
「よう、ご主人」
「こんばんわ。二人とも「分かってるよ、あの眼鏡の所に行けばいいんだろ?」あぁ、分かってるなら話は早い」
俺のPCの画面には、白髪で白いワンピースを着た少女と黒い短髪で黒いTシャツをきた少年が映っている。
この二人は、いわゆるAIだ。
昔俺が気分で組んだプログラムで。自分の思考を持ち、成長する高性能AIだ。
基本的にはネットを回って、違法なプログラムを自己判断で消去したり、ネットの情報から様々な事を学んで成長している。
その膨大な知識から、時折貸し出しを求められる事がある。
実は、RDOのNPCのプログラムもこの二人が基礎を組んでいたりと、結構使えるのだ。
「あの眼鏡の人はあまり好きではありません。ご主人様の写真が2Tも保存されてましたし。まぁ、跡形もなく消し去って、代わりにガチムチの画像を入れといてあげましたけどね」
「いい仕事だ。今度新しい服のプログラムを組んであげるよ」
「ありがとうございます、ご主人様」
少し会話を楽しんでいると、眼鏡からメールが送られてくる。
準備ができたようなので、二人を眼鏡のPCに送る。
さて、これで何か進展があればいいんだが。
◆
「なぁ、白。今回はどうするよ?」
「ん?決まってるでしょ」
実は二人とも、RDOのシステムをハッキングして、葵のプレイを一部始終見ていたのだ。
基本的にハッキングはやらないのだが。自分たちの製作者、つまり生みの親の事は気になるので、ばれない程度に覗き見していたので、大体の事は分かっている。
「「ご主人様は最強じゃなきゃ!」」
「だよな」
「えぇ、当たり前です」
「なら、システムはいじらなくてもいいよな」
「ええ、眼鏡に聞かれても、無理と答えましょう。じゃあ、私はご主人様関連の情報を消してきますので。後の対応はお願いね」
「まったく、ご主人の事が好きだなぁ。まあ、俺も人の事は言えないがな」
水面下で、葵の思いとは別に、ご主人様最強で良いじゃん作戦が決行されていた。
色々突っ込みどころありますが。気にしないでね(*‘∀‘)
次は葵の事を閑話で書きます。
こっちも突っ込みどころあると思いますが、気にしないでね(=゜ω゜)ノ