第二話 準備
「で? 何の用なんだ?」
俺は目の前で腹筋をしているムサイ青年を見ている。
彼の名は竹山功だ、見た目は中肉中背で無駄な筋肉は無いが、見る人が見ればそこそこ鍛えているとわかるだろう。短く刈り込んだ髪の毛は鈍い金髪だ、目つきは鋭いが全体の雰囲気が緩い為あまり怖くは無い。
「98…99…100っと、ふぅ~ わりぃな、呼び出しちまって」
「ああ、それは良いんだけど。 少し予定が押してるから簡潔に頼むよ」
「おう! 用事は一つだ! あおはRDOって知ってるか?」
「あぁ、さっき特集やってたやつか…まあ、少しは知ってるよ」
「なら話は早い、どうだ一緒にやらないか? 鈴たちもやりたいんじゃないか?βテスト参加してたし」
「あぁ、やるのは良いんだが…かなり人気なんだろ? 今からでも買えるのかな? まあ、アテはあるんだけど」
まあ、この竹山こと竹もゲーム好きで、妹ズも良くゲームの話をして盛り上がっている。まあ、竹には俺が居ない間妹ズに変な虫が付かないようにしてもらったり。竹のお母さんにも家事全般お世話になっていたので、まあ、俺としては断りにくいわけで…
「確かβテスターは、優先購入券が配布されてるはずだから、鈴と朱里ちゃんはお金さえあれば問題ないと思うぞ? 問題はあおとアリスちゃんだな…」
「うん、あんまり使いたくない手だけど、アテはあるんだよね、竹ん家にはお世話になってるし・・・何とか交渉してみるよ」
「…そうか、何か悪いな でも恩なんて別に感じなくても良いんだぞ? 俺も母も別に好きでやってたんだし…」
「いや、恩義はきっちり返すのが性分だからな。まあ、やってみるよ」
そうなのだ、竹ん家にはかなりお世話になったのだ。
俺が小等部2年生の時に母さんに付いて行くことになったとき、妹ズのお世話を竹ん家に頼んだのだ、それから帰ってくるまでの9年間おせわになっていたのだ。
「まあ、成果は明日学園で話すよ、んじゃな」
「おう、わざわざ悪いな~ あ、何か食ってくか?」
「あぁ~いや。時間無いし、また今度いただくよ」
はぁ、早くも貸しを返してもらうことになるなんてな。竹の家を出て、少し憂鬱になりながらケータイを開いてとある所に電話をかけた。
◆
バスを降りて、大きなビル群の間の細い路地を進む。
数分歩くと、目的の喫茶店があった。どこにでもあるような、いたって普通の洋風の喫茶店だ。
「いらっしゃいませ~ お一人様ですか?」
「いや、連れが先に来てると思うんですけど…あ、居ました」
店内を見回すと、一人のスーツを着た男性が目にとまった。
その男性のテーブルの向かい側の席に着く。
「待っていたよ、葵ちゃん。あ、ケーキ食べる?」
俺が席に着くなりそんな事を言って、ウエイトレスを呼んだ。
直ぐにウエイトレスさんが来て、注文を取ってくれる。
「チョコレートケーキとホットミルクで」
「じゃぁ、僕は…オリジナルブレンドコーヒーで」
「かしこまりました~」
お冷を手で弄びながら、ニヤニヤしながら俺を見てくる。
はっきり言って、気味悪いぞ。
「ハァ…いつ見ても君は可愛いなぁ~」
「キモいぞ…んで、例の物は?」
「あぁ、しっかり確保しといたよ。ついでにインストールもしといたから、直ぐに始められるよ。そこで、お願いがあるんだけど」
「嫌だ!」
「そんなつれない事言わないでさ~、お仕事の話だよ」
「仕事?今度は何をさせる気だ?」
「いや、簡単だよ……」
◆
「じゃあ、考えておいてね~」
「あぁ、返事は今月中にする」
はぁ、すっかり遅くなっちゃったな。
店を出る頃には、かなり時間が経っていたが、お昼過ぎに何とか間に合った。あの眼鏡め、無駄に話長引かせやがって。
てか、忙しいんじゃないのか?『いや~、恩人である貴方の為なら全然問題ないですよ 優秀な部下も多いしね』とか言ってたけど。なんかすいません優秀な部下の人、と心の中で黙祷した。
少し大きい紙袋を持って玄関を開けた。
今更だと思うけど、妹ズには甘いかもしれないけ。だけど、久しぶりに妹ズと一緒に何かできるのはかなり楽しみだ…
「ただいま~」
「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」
「・・・すいません間違えました」
あれ?おかしいな、我が家に帰宅したと思ったら、玄関で家の妹ズがメイドさんになっていたでござるの巻き。
いや、何を言ってるか分んないかも知れないんだけど、俺にもわかんないんだが、誰か説明お願いします。
まあ、こんな所で考え事してないでさっさと入るか、どうせヘッドギヤ欲しくて朱里あたりが二人をそそのかしたのだろう。
行動力は認めるけど、もう少し考えることを学ぶべきだな朱里は…
30分後…
「…と言う事だ、朱里はもっと考えてから行動するように」
「はい…すみませんでした」
みっちり説教したのですっかりしょぼくれている…やりすぎたとわ思わない。え?なんでかって? メイドの注意しようと玄関開けてみたら、あら不思議。バニーガールが三人居ました。おい、そんな装備品(コスプレ衣装)どこで手にいてたんだよ。
なんか、鈴が恥ずかしそうに朱里の後ろに隠れてこちらをチラ見している。いや、恥ずかしいなら着なければ良いのに。
アリスは良く分かってないみたいでこっちを見つめてくる。やめて、そんな純粋な目で見つめないで、なんかこっちが悪い気がしてくる。
朱里は顔を真っ赤にしながらこっちを潤んだ目で見ている…そんなに恥ずかしいなら着なけりゃ良いのに、てか自分で用意して自分から着たんじゃないのか? それと、二人を道ずれにしないで欲しい。
と、こんなことがあったのでしっかり説教しておいた。今は普段着で朱里だけリビングでお説教していた。鈴とアリスは台所でお茶してもらっている…
「あの、葵お兄ちゃん、お話があるのですが…」
「うん、大体言いたい事は分かっている、RDOやりたいからヘッドギヤ買って欲しいんだろ?」
「うぅ…その通りです」
「それで、三人だけじゃ嫌だから俺もやらないかと…」
「……」
「んでお金は全部俺のポケットマネーで 2万5千円×4人で…」
「十万円になります…」
「…」
「…」
いやいや、そんな潤んだ目で見られても…いや、だからって土下座しようとしないで、あぁ、もう分かりましたよ、鈴とアリスも聞き耳立ててるし、あんまり虐めると後々めんどいし…
「まあ、俺も興味あるし…買ってもいいんだけど」
「それじゃあ!」
「…ただし、条件をつけます」
「もしかして…いや、兄弟なのに一線を越えるのはどうかと… あぃたっ」
まったく、何でこんな子に育っちゃったんだろう。チョップされた頭を抑えながら涙目になっている朱里はほっといて、条件何にしようかな…
「さて、朱里はほっといて、条件は三人違うものにするか」
「馬鹿って…え? 今の流れは『まったく、お前ってやつは…』とか言いながらイチャイチャするんじゃないの?」
「んじゃ、鈴からだな、無理なことは言わないから安心していいよ」
何時の間にか部屋に入ってきていた鈴、アリスを朱里の横に座らせる。朱里が『なっ!スルーですと、まさか焦らしプレイっすか?』とか言ってたが…スルーしよう、うん。 いちいち突っ込むとかめんどくさいし。
「まず鈴だけど、確かRDOには料理のスキルがあったよね?」
「はい、ありますけど。もしかして?」
「そうです、せめて人が食べれる物を作ってもらいます 期間は一ヶ月とします」
「……」
「何も、一人でやれとは言わない。誰かに教えてもらってもいいし」
条件:RDOで料理をして、リアルで人が食べれる物を作れ! RDOはかなりリアルなシステムが多いらしいし、料理も練習ぐらいにはなるだろう。 ああ、やっぱりかなり沈んでる。まあ、初めて作ったのが大失敗だとそうなるのかな?
まあ、アレは失敗とかの次元じゃないと思う…これ以上は本人の名誉のために言わないでおこう…
「分かりました、私がんばります!」
「うん、無理の無い範囲でがんばれ。 次はアリスだな」
「アイ、私に、不可能は無い…はず?」
「いや、俺に聞かないで… アリスの条件は、友達を作ること」
「シィー、無理」
「判断早すぎ!…まあ、よく考えてみな? RDOはオンラインゲームなんだし、いろんな人がプレイするんだよ? 気が合う人ができたり、よく話す人ができたりするんじゃないのかな?」
「アイ、否定はできない」
「ゆっくりでいいんだ、そうだな…2ヶ月の内にフレンド5人でどうだ?」
「……」
条件:友達5人作りましょう! アリスは、かなり考えてるみたいだ。アリスは少し特殊な環境で育ったからな、無理も無いかもしれないが。
学校では俺の隣の席で、殆ど後ろをくっ付いてくるし。クラスの人と話してるのも殆ど見たことが無い。
でも、鈴と朱里とは一週間位で仲良くなったんだ。何とかなると思うんだが。
「アイ、分かりました。やってみます」
「うん、素直でよろしい。がんばってね。 最後に朱里だけど」
「完璧超人の私に…不可能は無い!バッチこいっす!!」
「今度の一学期の期末試験で赤点取らないように!」
「……」
「こら!逃げるな!!」
「うあぁぅ・・・無理だよ~ てか、何で私だけRDO関係無い条件なの~~」
即行逃げようとした朱里の首根っこを捕まえて逃亡を阻止した。まあ、運動神経は抜群だが頭は残念な朱里なのでテストは散々な結果なのだ。
テストではいつも2~4教科は赤点がある。その度、鈴や竹に泣き付いているのだ。さすがにそろそろ勉強に身を入れてもらおう。
「まあ、テストまではあと3ヶ月位あるんだ。一番期間長いんだし、いけるだろ?」
「お兄ちゃん!甘いよ!あまあまだよ、蜂蜜の蜂蜜割ぐらい甘いよ!」
「はあ、そこまでか。まあ、しょうがないな。週一で勉強見てあげるよ、なるべく分かり易く教えてあげるから…がんばろうな」
「…うん がんばってみる、私はやればできる子だもんね」
「……うん、そうですね。がんばろうね」
「なんか、間があった気がするけど。まあ、そんなことはいい!問題はRDOだ」
いつもの事ながら切り替え早いな~とか思う、まあ、妹ズの苦手を克服させる為にもなかなかいい条件だと思う。
RDOのことを考えるとなんだか久々にワクワクしてきた、俺だって男だ。ゲームが嫌いなわけではない、妹ズみたいに得意なわけじゃないけど。
人並みには好きだと思う…いや、殆どやったこと無かったんだけどね。
「よし、早速買いに行こう! 早くしないと買えなくなるかもだよ?!」
「あぁ~、朱里。残念なお知らせだけど…第一期発売分の7000セット売り切れだってさ。ケータイで調べたらニュースになってるよ」
「なっ!そんな、ばか…な」
「アイ、びっくり。発売から、5時間だよ?」
「うん、予約できないのに、優先券もちの人1000人引いたとしても、6000台が5時間とか、やっぱり人気だね~」
さて、妹ズがションボリしてるし、そろそろとっておきを出しましょうか。 とっておきを出した後、葵が妹ズに抱きつかれて嬉恥ずかしな状態になったのは…まあ、しょうがないことなのだろう。