第十八話 さくらいろ Ⅰ
遅くなりまして、すいません。少し病気で入院してまして…
次回はサクラ中心の話を書きたいと思います。
「おじさん、寝ないで下さいよ」
飲み始めてから数十分すると、おじさんは完全に酔いつぶれていびきをかいて寝てしまっている。まぁ、絡み酒よりはよっぽどいいのだが。
「はぁ、またかい。アオちゃん、こいつの事は任せてくれていいよ。何かあるといつも酔いつぶれるんだよ、そのおかげで酔っぱらいの扱いも慣れたもんだよ」
「はぁ…じゃあお代を」
「いいっていいて。こいつが払うんだろ?ついでに全額払ってもらえばいいさ。それよりも今度ウルフの肉お願いね」
「はい、時間がある時に」
酔いつぶれたおじさんをおばちゃんい任せて、バカップルに挨拶して店を出る。
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裏道から表通りに出る所で、探し人と出会った。
「あ、お姉ちゃん!」
「あ、こんな所に居たのか。探したぞ」
裏道を曲がった所で麦わら帽子の女の子が、木箱に座って足をぶらぶらさせながら表通りを眺めていたのだ。女の子は茶髪の少し跳ねた髪で活発そうな女の子だ。少し古い白のシャツに茶色の膝丈のスカート姿だ。
女の子にポーチから麦わら帽子を取り出しかぶせてあげる。女の子の顔が満面の笑みに変わり、年相応の可愛いらしさを感じる。
昔の妹ズもこんな風に可愛かったな~、などと少し年寄りくさい事が思い浮かぶ。
「今度は無くさないようにしなよ」
「うん、ありがとう!」
「あ、待ってお姉ちゃん」
そのままその場を去ろうとしたら、女の子に呼び止められた。
女の子はスカートのポケットを探て何かを探しているようだ。少しすると、少し古びた硬貨のようなものを取り出した。
「コレ上げる。お金無いからお礼!」
女の子から硬貨を受け取る。硬貨のような物は直径十センチ位で、何かの装飾が施されているが相当古いものなのか擦れておりよく分からない。
『***の硬貨』
???
「鑑定」してみたがよく分からなかった。元々そういう物なのか、それとも俺の鑑定のLVが低いからかは分からない。一応好意として受け取っておく。
「じゃあ、またね…」
「あ、私はシンシアていいます」
「お…私はアオ。じゃあ、またねシンシア」
「バイバイ、アオお姉ちゃん!」
『町娘シンシアとの絆ができました。以降コールでの連絡が可能になりました』
シンシアと別れると、システムコールが聞こえた。
このゲームではNPCでもある程度の関わりを持つと、フレンドリストにNPC用の別枠ができてコールにより互いに連絡が取れるようになるのだ。今の所俺の場合はフレンドよりもNPCの方が五倍近く登録されている。
別に、人見知りとかじゃないんだけど。この姿だとかなり目立つから、人目を避けてたら自然とこうなったんだよ。
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俺はサクラに合うために、サクラの店に向かっていた。サクラの店は薬屋で主にポーションなどの消耗品を扱っている。
店は西の宿街の奥まった所にある古い木造の一軒家だ。
「サクラ居る?」
「アオさぁ~~~ん!!」
少し建て付けの悪いドアを開けると、サクラが文字通り飛んできたので咄嗟にドアを閉めてしまった。 「ドンッ」とすごい音がしてドアに何かが当たった衝撃が伝わる。ドアを開けるとサクラが顔を抑えて床を転がっていた。
「ひ…ひどいですよぉ~」
「自業自得だからな」
転がっていたサクラが俺を見上げて愚痴る。
別に俺は悪い事はしてないんだが…
しょうがなくサクラに手を貸して起き上がらせる。サクラの鼻っ面が少し赤くなっているが、放っておいても大丈夫だろう。
店の中にある椅子に座ると、サクラが対面にある椅子に座る。
「アオさん、何か御用でも…はっ!ついに禁断の恋に「無いから」…ですよね~」
「いつもの薬草の納品だよ…ほら」
「あ、はい。これまた多いですね」
サクラに採ってきた薬草を渡す。サクラに出会ってから時たま薬草を納品して、各種ポーション類を貰っている。どうせ買うなら物々交換の方が早いでしょ、との事だ。
サクラは受け取った薬草を鑑定してポーチにしまい、代わりにHPポーションを六本渡してくる。
この物々交換のレートは薬草四本に対しポーション一本だ。確か薬草二本でHPポーションが作れるらしい。そのHPポーションが大体一本100Dで薬草が一本20Dなのでお得なのだ。
ポーション類の値段が少し高いようにも思えたが、このゲームは基本的にPTでプレイするこ事を前提にしているらしい。だから、ポーションなどの回復系のアイテムは高めなのだ。それに何もしないで休んでいれば自然回復するしな。
「そういえば、サクラは新しい町に行かないのか?」
「あぁ…えっとですね、まだ行かなくてもいいかなっと、思ってて…」
気になったので聞いてみると歯切れの悪い返事が返ってきた。
今は午後四時半過ぎか…確か境まで四十分ぐらいだから、間に合うかな…
「サクラ、これから時間あるか?」
「え?え~と、二時間ぐらい大丈夫ですけど?」
「んじゃ、散歩でも行くか」
「え?あ…ちょ、アオさん」
少し強引にサクラの手を取って外に出る、表通りを少し早歩きで歩きながら目的地への最短ルートを頭の中で描く。
歩きながらとある人物にコールで連絡を取る。
「…いいですかね?」
『まあ、アオちゃんの頼みなら断らないさ。準備をしておくよ』
「ありがとうございます。はい、それでは……サクラ?」
「ひゃい!?」
「疲れたか?」
コールしている間にも気になったが、サクラの顔が少し赤く握った手に少し汗をかいていた。
そこまで速いペースで歩いていなかったはずだけどな。
「なんでもにゃいです、きしにゃいでくだしゃい…」
「まぁそう言うならいいけど」
サクラを引っ張って細い裏道を歩く。時たま知り合いに会い軽く挨拶しながら、目的の場所にたどり着いた。
辿り着いた場所は北門のすぐ近くの二階建ての家だ。広い庭にはきれいな花が植えられており、その庭の一角には大きな物置のようなものがある。
「ほら、着いたぞ」
「…えっと、ここは?」
「知り合いの家だ。少し待ってて」
サクラを外に待たせノックをして家の中に入る。家の中はシンプルで机と椅子が部屋の中央にある以外は特に家具は無い。
何度か呼んでみたが返事がない。もしかしたら準備をするために馬小屋に居るのかもしれない。そう思い裏口から馬小屋に向かう。
馬小屋の中には馬が五頭いて、出入り口に近い所に繋がれている一頭の茶色い毛並みの馬の所に一人の老人が居た。
「ジェダムさん、こんにちは」
「おぉ、アオちゃん。丁度準備が終わった所だ」
「いきなりなのに、ありがとうございます」
「いいってことさ、困った時にはお互い様だろ」
少し曲がった腰を伸ばし、笑顔でそう言ってくれる。
ジェダムさんとはちょっとした成り行きで知り合い、馬の鞍に使うウルフの皮を集める依頼を受けそれ以来よく世間話などをする仲だ。
このジェダムさん、昔は商人として各地を渡り歩き商売をしていたらしい。その商いの時に出会った女性と所帯を持ち今は馬主として隠居暮らしをしている。
ちなみに奥さんは宿屋をやっていて、今はその宿で寝泊まりしている。
「そうそう、この手紙を向こうの町の門番に渡してくれ」
「いいですけど、これは?」
「うむ、息子が向こうに居るんだが足がなくてな、向こうに行くならついでに届けてもらおうと思ってな」
「なるほど…分かりました、ちゃんと届けますよ」
「おう、よろしく頼むぞ。こいつは大人しいが少し怖がりでな、魔獣や魔物にびっくりすることがるかもしれん。なるべくなら避けて行ってくれ」
「はい」
鞍をつけ終わった馬の手綱をもって外に出て、鞍の調子を確認して静かに飛び乗る。
鞍の固い感触と、馬独特の揺れを感じながらサクラの所までゆっくりと歩かせる。
「ほぇ~~」
「サクラ、なにボケッとしてるんだ。ほら」
突っ立っているサクラに手を差出し、馬に乗るのを助ける。俺の後ろにサクラを乗せ、馬をゆっくりと歩かせる。
裏道を人に気を付けながらゆっくりと歩いていき、北門から外に出る。
「少し走らせるから、しっかり掴まっててね」
「ふぁい!」
手綱をしっかり握り、軽く馬の腹を足で叩き馬を軽く走らせる。馬の走りに合わせて後ろから抱き付いてくるサクラの感触が背中越しに伝わってくるが、不可抗力であり俺は悪くない。
森の中をそれなりの速さで走ると、風を切る感覚が気持ちいい。後ろのサクラのことを気にしながら、なるべく走りやすい道を選んで駆け抜ける。