第十六話 女神リアヌ
「終わったか?」
「おう、一応は終わったぞ。残りの装飾品とかは売って金にして配るわ」
そう言って、俺とアリスにドロップの取り分のウインドウを見せる。
俺は金属数個と長銃だ。確認は町に戻ってからでいいだろうと思い、ウインドウのアイテムをそのままポーチにしまう。
全員の支度が終わったのを見計らって、先頭に立ち扉に触れる。
扉に触れた瞬間、目の前が一瞬白くなる。
気が付くと、古い石造りの遺跡のようなところに立っていた。青い空と白い雲を眺めながら、これは、洗濯物がよく乾きそうな天気だなと思いながら周りを見ると、何が起こったのか分からずにその場に立ち尽くす他のプレイヤーが居た。どうやら彼らにもここが何処だかわからないらしい。
遺跡はピラミッド構造で、中央から石畳が俺らの居る所まで伸びていて左右に石柱がある。遺跡の中央には
ワンピースを後ろから引っ張られ、振り向くとアリスが呑気な顔で立っていた。
「で、此処何処よ?」
「何処って…そんな事俺が知るかよ。てか、コウ達は?」
「ん?あの子達ならどこかに居るんじゃないの?私はたまたま葵の匂いがしたから来ただけだし」
「お前は犬かよ…」
「クンクン…いい匂よ。でも現実の方が好きね」
「嗅ぐなよな…」
アリスとそんな事を話していると、遺跡の最上部の所に一人の女性が現れた。
銀色の長い髪を揺らし、白い布のウエディングドレスのような物を着ている。姿勢よく此方を見つめてくるその姿は、凛としていて見る者を引き付ける魅力がある。
『冒険者達…我が子らよ。彼の者の配下である一柱の討伐、感謝いたします』
綺麗な澄んだ声が響く。彼の者の配下…多分俺らが倒したゴブリンの王の事だろう。
何でだろうか、初めて見るはずのこの女性に既視感と言うか何か変な感じを覚える。
「…なんかあの人、何となく葵に似てるわね」
「……あぁ、なるほどな」
きっと眼鏡が作ったキャラだろう、今度会ったら眼鏡割ってやろうかな。
『貴方方の活躍により、私の力も少し取り戻すことができました』
『以下の条件が開放されました』
・第二の町への道
・控えスキル枠
・ギルド設立
・デスペナルティ緩和
女神さまの言葉の後に、システムメッセージがこの場に居る全員に届いたようで、その場が少し騒がしくなる。
『残りの配下も貴方方ならきっと勝てるでしょう。彼の者の復活を阻止するためにも、貴方方のお力をこれからもお借りします』
そう言って女神様は遺跡の奥に行って、しばらくするとウインドウが出てきて、さっきまで居た場所に戻るか町に戻るかの選択肢が出てきた。
「アリスは町に戻っててくれ」
「葵はどうするの?」
「せっかく森の奥に来たんだし、採取しながら戻るさ。もしもコウ達が居たら俺のことは気にしないでいいって言っておいてくれよな」
「分かったわ。気を付けてね」
「あぁ」
アリスが町に戻るのを見てから俺も森に戻る。
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元の場所に戻るを選択して戻ってくると、城の前に立っていた。周りには誰も居なく、どうやらコウ達は町に直接戻ったようだ。
俺は何時もの採取コースを辿って町に帰る。
採取コースは特に人目に付きにくい奥地を回るコースで、結構質の良い薬草などの素材が採れるのだ。採った薬草などは最近知り合った調合師のサクラにポーションの素材として売ったりしている。
薬草などは所々で群生しているので、全部採取するのではなく半分ぐらい採取しておいて次の採取の時のために残しておくのだ。
たまに岩などに鉱石が露出していることがある。本来は鉱石の採取はつるはしなどの専用の採取道具が必要だが、面倒なので素手で鉱石のみを毟り取って採取する。
現在採取することができる功績は亜鉛鉱石、すず鉱石、銅鉱石、鉄鉱石の四つだ。時折宝石の原石が採れることもあり、ガーネット、白水晶、エメラルドなどが採れる。
採取が大方終わり、ポーチがいっぱいになったので町に戻ろうと道に戻る。
戻ろうとした時、町の方から多くの足音が聞こえてきた。少し目を凝らしてみるとかなりの数のプレイヤーが列になって歩いているのが見えた。
どうやら早速第二の町に向かうのだろう。
ついつい昔の癖で傍の木の上に隠れる。やっぱり長年の癖は抜けないものだな、ゲームとはいえ武装して警戒している相手を見るとつい癖で隠れるのだ。
集団を木の上に隠れながらざっと見渡すと、コウ達と見知った顔も数人見えた。
集団が通り過ぎてから静かに地面に降りる。集団の足音はそのまま森の奥地に消えていった。
そのまま道を辿って森の出口まで来て、一番高そうな木に登る。
きの上から周りを見渡して、ある物を探す。
「お、あれかな?」
何本か向こうの木に小さい麦わら帽子が木の枝にひっかかっているのが見えた。木の枝を飛び移りながらその木に行き、帽子を取って地面に降りる。
麦わら帽子は赤いリボンが特徴の子供用のものだ。
ダンジョンに挑む少し前に女の子に頼まれていた物だ。
風で飛んで行ってしまったらしいが、町の外は子供が出てはいけないので困っていた。そこに丁度俺が通りかかって探してほしいと頼まれたのだ。
ポーチに空きがないのでそのまま手に持って町の門をくぐる。
♦
女の子との待ち合わせ場所は、女の子の家の地図を描いてもらったのだが…如何せん子供の絵だから分かり難い。
しょうがないので他の依頼を済ませながら探す事にした。
「今受けてる依頼が二十五個で…今終わらせる事の出来るのが十個か。まずは裏道のおばちゃんの家に薬草を届けるか」
職人街の裏道を歩き、少し古ぼけた家の扉を叩く。
「アオです。依頼の品の薬草2ダース持ってきました」
少しすると扉が開き、中から恰幅の良い赤毛のおばちゃんが出てくる。
「おや、アオちゃん。いや~ありがたいねぇ、こんなに仕事が早いなんて思わなかったよ。流石爺さんが紹介するだけのことはあるねぇ」
「いえいえ、これが依頼の品です」
「はいよ…あら、これなかなか良いものじゃないか。調合ギルドに売れば私の依頼料より貰えるんじゃないかい?」
「そうなんですか…でも手持ちの薬草それしかないんで気にしないで受け取ってください」
「…分かったよ、ありがとうね。はい、依頼料だよ」
そう言って手渡してきたのは銀貨一枚と亜鉛貨六枚だ。この世界の金銭のレートは白金貨が十万円、金貨が一万円、銀貨が五千円、半銀貨が千円、銅貨が五百円、半銅貨が百円、亜鉛貨が十円だ。一円単位は無いらしい。
もらった硬貨を財布に入れる。硬貨はアイテム化して使うが、硬貨の保存は財布に入れて行う。勿論落としたり無くしたり、最悪スリにあう事もあるので最低限のお金しか入れないのが普通だ。まぁ、俺は盗られる事は無いだろうけど、普段からあまり金を持ち歩く癖がないので金貨二、三枚しか入れていない。
おばちゃんと少し雑談した後他の依頼をこなす。
最後の依頼が終わる頃には結構な時間がたっていた。残念ながら最後まで女の子は見つけられなかった。
しょうがなくおっさんの店に向かう。新しい鉱石も手に入ったし、腕盾もかなりボロボロになったので直してもらわないとな。
薄暗い裏道を少し早歩きでおっさんの店に向かうのだった。