第十一話 ダンジョン Ⅲ
「うをぉぉぉぉ!!」
「そこの部屋に入れ!」
「補助かける。ウインドブーツ」
アリスの補助魔法が発動し、移動速度が上昇する。
前方には通路を埋め尽くすほどのゴブリンの大群が。その大軍をスズが先頭に立ち、吹き飛ばし効果のあるアーツ【シールドスマッシュ】を使い通路を確保する。
安全圏であるセーフティエリアである部屋の扉をコウが蹴り開ける。
その後にシュリ、アリスを抱えた俺が入り。最後に敵を食い止めていたスズが入り、素早く扉を閉める。
「ふうぃ~流石に疲れたなぁ」
「同意だよ~。きつ過ぎっすよ」
「何だお前ら、だらしないな」
「あ~、はいはい。ソウデスネ」
皆少々疲れているようなので、休憩することに。
部屋の中には大きなテーブルに椅子が六脚ある。壁際には小さなテーブルの上にチェスがやりかけの状態で設置されている。
このダンジョンの部屋は、このセーフティエリアのように結構調度品も凝っている。まあ、大概の物は壊れていたりするのだが。
この部屋はセーフティエリアと言い、魔物の侵入できないエリアで休憩用に適度に設置されている。
今はダンジョン攻略開始から二時間経っている。今の場所は大体半分ぐらいだろう、少しペースを上げないといけないだろう。
俺が屋台で買っておいた軽食用の卵サンドを出して、皆で食べる。それだけでは疲れが取れないようで、疲労回復ポーションを二、三本飲んでいる。
さて、これからどうするか。流石にさっきのゴブリンの群れに突っ込むのは無理そうだし、だからとい言って、避けて遠回りすると時間がやばいし。
しょうがない、あまり使いたくなかったが、ショートカットで行くか。
「少しいいか?」
「ん?どうした?」
「ぶっちゃけるが、今のままだと普通に行くと時間内にボス部屋までたどり着けないと思う。このまま最短ルートで行ってもゴブリンの群れに時間を取られる。だからと言って、遠回りしても間に合わない。という事でだ。ここで諦めて次に頑張るか、ショートカットして無理矢理にでもボスに挑むか。お前達で決めろ」
俺が言い切った後、少しの静寂がその場を支配する。
皆何か悩んでいるようだ。多分ゲーマーとしての一番に攻略したい気持ちと、俺というチートを使ってクリアする事に対する罪悪感に悩んでいるのだろう。
まぁ、俺としては結構どうでもいいけど。
「私は…あんまり気が進まないな」
「う~んウチは微妙っすね…」
「俺はクリアしたい。ゲーマーとして、こんな絶好の機会を逃して、他の奴に一番乗りをしてほしくはない」
「…アオちゃん。そのショートカットって、ゲームの仕様として、存在してる?」
「ん、まぁそうだな。普通のプレイヤー用に用意されたルートではないと思う。でも、一応しっかりとゲームの仕様として存在するルートだ」
公式の説明では、このフィールドボスのダンジョンは、最初に攻略したPTにレアな装備や称号などが用意されている。しかし、一回クリアされた後でも何回でも挑むことができる仕様だ。しかし、二回目以降のクリアの報酬はかなりランクが落ちるらしい。
でも、そこそこの稼ぎにはなると思うので、金稼ぎなどの目的の高レベルによるスピード攻略用の高難易度のルートが用意されていてもおかしくない。俺が今行こうとしているルートがそうだと思う。
「アイ、なら簡単。ズルじゃないなら、行けばいい」
「それはそうだけど…でも…」
「そうだな、俺は行きたい。もしかしたら俺らの後の奴らがクリアするかもしれない。そうなったらかなり悔しい。ここまで案内して貰ったアオにも悪いと思うし…ズルじゃないならいいじゃねえか」
「…そうだね、分かった。私もゲーマーとして一番乗りはやりたい」
「纏まったみたいだな、んじゃ言っとくけど、ここからは今のLVだと地獄だからな」
マッピングメモの裏ルートを見直して、最短のルートを通ることを考え、道を組む。
「簡単にまとめると、今居る部屋の隠し扉を通って、一回最下層の地下五階まで降りる。その後わざと罠を使って一気に六階まで行く。そこで一回全ての部屋の扉を開けて、一番奥の通路に行く。この時敵は倒さないこと。すると落とし穴の罠が発動するから、落ちてる時に横穴に入る。穴の奥の広場で中ボスだと思う奴を倒して、鍵を手に入れて、もう一回横穴に戻り下に降りる。んで、鍵を使って扉を開けて中の魔法陣を使い、最上部のボス部屋の横に出る。これがショートカットのルートだ」
「も、もう一回言って欲しいっす。頭が追いつかない…」
「シュリじゃないけど、結構複雑で覚えきれないよ」
「よし、俺はアオについて行く!」
「……まあ、一応の流れの説明だからな、俺の後ろについてくればいいよ。一応敵はLV20代だけどかなり賢いAIが設定されているから、極力スルーで行くぞ」
このショートカットコースは、かなり敵がめんどくさいのだ。これまでの雑魚とは違い、しっかり連携するし、それぞれのポテンシャルも高い。まぁ、スルーが前提の設定だろう。
壁際にあるチェス盤に近寄り、白の駒を動かす。すると自動で黒の駒が動く。このチェスに勝つことで隠し扉が出るのだが、結構な困難度だ。
面倒なので、速攻で勝ちを決める。するとチェスの置いてある小さいテーブルが地面に埋もれていき、代わりに階段が現れる。
「んじゃ、簡単に列を決めるぞ。俺が先頭で、アリスをシュリがおんぶする。コウがその後ろで左右を警戒し、スズが殿で敵の攻撃を受け止める。アリスはスズのHPを半分以下にしないように注意して、移動速度の上がる補助魔法を俺意外に常時かけておいてくれ」
「アイ、了解」
「おう、俺はシュリに敵を近づかせなければいいんだな」
「私は殿だね。頑張るよ!」
流石はゲーマーだな、切り替えが早いしかなりやる気に満ちている。
シュリがアリスをおんぶして、アリスに補助魔法をかけてもらい早速階段を駆け足で降りる。
長い階段を五分ばかり駆け下りていると、開けた場所に出る。
薄暗いジメッとした空気が肌に触れ不快感を煽る。通路はさっきまでの通路の三倍近くは幅があり、天井はかなり高い。足元には所々水溜りができていて、その水面に通路の左右にある松明の火が映る。
「ギギィ」と何かがこすれる音と「ガチャガチャ」と鎧が鳴る音が聞こえる。早速お出ましのようだ。
「走るぞ!列を乱さずに、俺について来い!」
「「「「了解!」」」」
薄暗い通路を列になって疾走する。
その先には真っ赤に光る二対の目が二個三個と徐々に増えてきて、こちらを見ている。
さてと、少しは頑張るかな!
予想より長くなるかも(*‘∀‘)