第十話 ダンジョン Ⅱ
「スズ、チェンジ!…スラッシュ!」
「ファイアーランス!」
「アースブレイク!」
前で敵の攻撃を防いでいたタンク役のスズがスキルの[バックステプ]で後ろに退避して、代わりに前に出たコウの片手剣アーツの【スラッシュ】を食らい、よろめく敵。その隙をついてアリスの初級炎属性魔法の【ファイアーランス】が敵を貫く。最後に、残りのHPをシュリの広範囲アーツ【アースブレイク】で削りきる。
「結構いけるっすね」
「そうだな。スズが意外に堅いから安心だな」
「うん、これぐらいならまだ大丈夫だよ。でも、結構戦闘頻度が増えてきたよね」
「まだまだ序盤だからな。中盤を超えると常に戦闘になるから、今のうちに体力を温存しておけよ」
「……疑問なんだが、お前もこのルート通ったって事だよな。どうやったんだよ」
「そんなもん、必要最低限だけ排除して特攻だが、何か?」
「…いや、流石に無理だろ」
「しょうがない、後半の事もあるし。中盤までは俺が引っ張っていくよ」
今までアリスの横でただ眺めてただけだし、少しは仕事しますか。
念のためにステータスは一切上げてないし、手加減すれば普通に戦っている風は装えるだろう。
右腕に腕盾を装備して、左腿にガンホルダーを装備して皆の少し前に出て進む。
歩いている途中で、後ろの方から「ガシャ」と、嫌な音が聞こえた。
恐らく床に設置されている感圧式の罠に、誰かがかかったのだろう。
この罠は、重さで発動するタイプの罠で、見分けはつかない。確か、盗賊には罠発見の専用アビリティがあったはずだ。
今の面子では…シュリがそのアビリティを持っているはずだが。あぁ、無理だな。だってバカだもん。
「…あの、なんか足元で音がしたんだけど」
「お前かよ!」
よりによって、一番回避できる可能性の高いシュリが引っかかるとは。
事前に周りに注意しろって言っておいたのに。流石シュリだな、うん。
数秒もたたないうちに、シュリの上の天井に無数のトゲが生えて結構な速さで落ちて来る。
肝心の真下に居るシュリはなぜか動かない…いや、動けないようだ。
「お兄ちゃん助けてぇ~~」
情けない声を出す朱里。シュリの足元を見ると、虎バサミのような物がしっかりとシュリの足首を噛んでいる。
「スズ、コウ、アリスは早くこっちに来い!シュリは動くなよ」
「は、早く~~」
腰のポーチから四本の投擲用のナイフを出し、落ちて来る天井の四隅の壁に刺して落ちて来るのを防ぐ。その間に、ケルベロスを抜いてシュリの足元の虎バサミのばね部分を撃ち抜く。
「ガシャ」という音がして、虎バサミの拘束が緩む。緩んだのとほぼ同じくして、ナイフが折れて天井がシュリの頭上まで迫る。
咄嗟の判断で、右腕の腕盾のギミックを発動する。
腕盾から伸びる細いワイヤーがシュリの腕に巻き付くと、そのワイヤーがものすごい速さで巻き取られて、シュリの体が引っ張られる。
寸での所で、何とか潰されずに済んだ。
シュリは、ワイヤーに引っ張られてあっちこっち埃塗れで、ばっちい。
「も、もうちょっと優しくしてほしかったっす…ガクッ」
「はいはい。まったく面倒事ばっか起こすな、お前は」
シュリの腕からワイヤーを巻き取って、しょうがないから手を掴んで起き上がらせる。その時に一瞬力が入り過ぎて顔がキスできそうなぐらいまで接近する。
なぜかその時顔を赤くして視線を逸らした。照れんなよ、こっちも恥ずかしくなるじゃねえか。
「おい、さっきのは何だ?」
「ん、これか?」
腕盾からワイヤーナイフを稼働させる。
これは、細いワイヤーの先に短剣を付けた物で、腕盾内部に巻き取り式の構造を装備しているため、様々な使い方ができる便利品なのだ。
「なんだそれ、便利じゃねえか!なぁ、少し使ってみてもいいか?」
「いいけど、多分無理だぞ」
腕盾を外してコウに渡すが、片手で持とうとして落としそうになり両手でしっかりと持ち直す。
「おま…重いぞこれ」
「そりゃそうだろう。壁盾に使う重くて堅い金属を使ってるからな。しかも、ワイヤーも結構長くて14mは伸びるから、その分の重さもあるしな」
腕の装備を外して、何とか腕盾を装備するもまともに動かせないようだ。
まぁ、ベースのグローブもかなり厚めの皮を使っていて、その上を鎖で補強し更に薄くてもかなり重い頑丈な鉄板で覆っているのだ。
本当なら結構な腕力のパラメーターが無くては装備できないが、俺にはあまり関係ない話だ。
ちなみに、この装備結構高かったので、分割払いで買ってあるのだ。
「くっそぉ。全然動かないぞ」
「まぁ、特別製って事だな」
少し悔しそうに装備を返すコウ。まぁ、こればっかりはしょうがないんじゃないかな。
再度腕盾を装備して、軽く休憩してから進行を再開する。
しばらく周りに注意を払いながら歩いていると、突然俺の左右の壁が開き中からホブ・ゴブリン・ナイトが出て来る。
通路が狭いので殆ど触れるぐらいの場所に直ぐに迫るが、慌てないで左右のゴブリンを見て対策を考える。
右のゴブリンはまだ剣を構えてる状態だ、危険度は低い。もう片方はすでに赤く光る盾を前にして俺に突っ込んでくるところだ。恐らくアーツの【シールドバッシュ】だろう。これを食らうと数秒間気絶状態になり、完全に無防備になるのだ。
攻撃の的を盾を構えているゴブリンに絞り、盾の隙間を狙って素早く抜いたケルベロスで打ち抜く。
僅かに怯んだところに蹴りを入れ、壁に叩き付ける。壁にぶつかったゴブリンは気絶のエフェクトを出している。
後ろに気配を感じて、身を捻り上段からの縦切りを躱す。そのまま体を捻り蹴りを腹に当てそのまま蹴りあげる。落ちて来るタイミングを見計らって、右腕で殴り後方に吹き飛ばす。
気絶していたゴブリンが起き上がり、切りかかって来たのでポーチから片手剣を出してその攻撃を受け止める。相手の剣を弾き、そのまま切りかかるが盾に阻まれる。気にせずそのまま畳掛けるように、左右上下から切り付け、壁に押しやる。
盾を横に蹴りつけ、盾の隙間から片手剣アーツの【ストライクスラッシュ】で突き刺す。
そのまま削りダメージによりHPがゼロになる。
横から風を切る音が聞こえ、右腕を翳すとそこに剣が当たり鈍い衝撃が伝わってくる。
左手の剣を放して、ケルベロスを抜き【パワーショット】を無防備な腹に撃ちこむ。その衝撃で緩んだ剣を弾き、腕盾のギミックを発動して短剣を出し、アーツの【シャープエッジ】を放つ。
【シャープエッジ】の三連突きが決まり、HPがゼロになり光の粒になって消える。
「…俺、ゲームなら勝てると思ってたが、無理な気がしてきた」
「同じくっす」
「アイ、でも、多分アオちゃんは、今のでも、手抜き」
「…よし、もういい。俺が先行する。アオ代われ」
「まあいいけど」
何やら刺激してしまったのか、かなりやる気を出している。
その親友の背中を見ながら、俺はポーチからクッキーを出して、アリスと後ろで食べながら歩くのだった。