ブラック国家に召喚された勇者なんだが、もうだめかもしれない。
アイデアの一つをメモしたものです。
佐藤雄一はしがないブラック会社のサラリーマンだ。残業時間は天井しらず、休日も出勤し休む暇さえない生活を送っていた。雄一の肉体と心は限界が近づいていた。
そんな雄一は自動車を運転していた。時刻は午前一時。車道に走っている車は雄一しか居らず、疲れた体に鞭打ちながら帰宅しようとしていた。
そんな最中だった。体が揺さぶられるような地震を感じた。揺れはどんどん大きくなり、車を急停車して、揺れが収まるのを待とうとした。
しかし、揺れは小さくなるどころか大きくなり、急に体が浮遊感に包まれた。
「はあああああああ!」
落ちているのだ。地割れでもおきたのか。地面がなくなり車ごと落ちているのだ。
ろくでもない人生だった。こんな終わりは嫌だったが、どうしようもなかった。
そして、怒涛の展開に頭がついてゆかず、意識が途絶えた。
その日、一人の男が失踪した。
エルダント王国の王座の前に雄一はいた。周りには鎧に包まれた兵士と、上品な服を着た太った男。それとメイド服を着た女性がいた。
雄一は意識を取り戻すと魔法陣が書かれた部屋に倒れていた。車はどこにいったのか知らないが、そばにはなかった。
雄一は説明がないまま連れられて今に至るというわけだ。
王座には赤い王冠、白いひげ、豪華な服を着ている老人がいた。
「わたしはエルダント王国の王。エルドラである。そなたに願いがあり、召喚をさせてもらった。願いとは魔王にさらわれた我が孫娘のエリーゼを救出してほしいのだ。」
「はあ」
言葉は通じるようだった。しかも、異世界だった。しかし、王が言った内容を雄一は受け入れる事が出来なかった。考えてもて欲しい。知らない場所に連れてこられて、魔王だの姫だの言われても、反応に困ってしまう。
「あの、そんな事言われても、困ります。早く家に帰してください」
あの地震で生きているのは不思議だが、生きている以上、会社に行き仕事をしなければならない。雄一の頭の中は会社の事でいっぱいだった。
「それはできぬ。そなたには姫を救ってもらうまでは帰すわけにはいかぬ。さあ、行ってもらうぞ」
「いや、かえしてくださいよ」
しかし、その言葉を聞かなかった事にしてエルドラは雄一に何かが入った小さな袋と木の棒を渡していた。
「これは旅の路銀と武器のヒノキの棒だ」
「へっ?」
雄一は目の前のおっさんが正気かどうか疑った。百歩譲って、姫を救出するのはまだわかる。しかし、助けるための支援がヒノキの棒? どうなっているのか?おかしいだろこれ。しかも、その袋には大した金が入っているとは思えなかった。
「さあ、行け! 勇者よ。姫を助け、魔王を倒すのだ」
「えええ! 魔王倒すのかよ」
聞いてない。そんな話は聞いていない。
しかし、雄一の言葉は誰にも届かなかった。
王の隣にいた兵に両腕をつかまれ、雄一は出口に連れ去られた。
「さあ、行け!」
「お前が行けええええ」
こうして、雄一は理不尽だが、旅に出ることになったのだ。