天狗と姫1
ああ、逢いたい・・・
願う
どうか、いまひとたび
貴方に・・・逢いたい
四人が御影の城に帰り着いたときには、戌の刻を優にまわっていた。彼らは城に入ってすぐ、こけしだらけの焔の部屋に向かった。
「だいぶ遅くなっちゃったわね。」
部屋に向かう途中、千尋が独り言のようにつぶやいた。
「片道一刻かかったんだからしかたないだろう?」
悠がとりなすように言う。
「まあ、そうだけど。」
そうこうしている間に、焔の部屋の前についた。
「父様。・・・千尋です。」
「ああ、千尋。戻ったか。入りなさい。」
「失礼します。」
千尋たち四人が襖を開けると、焔、栴桜、栴蘭、閻禾が数刻前と何も変わらぬ位置に座っていた。どうやらずっとこの部屋にいたようだ。
「おかえりなさい。随分時間がかかったのね。」
特に叱るふうでもなく、穏やかに笑ってそう言ったのは栴桜だ。
「はい。なにぶん遠かったので・・・」
千尋は、この数刻の間にあったことを、親たち四人に話した。四人とも静かに聞いていたが、千尋の話が終わると、栴蘭が口を開く。
「なあ、それなら聯。おまえ、一年間御影の家で剣の腕鍛えてもらうってのはどうだ?もちろん、焔たちが良ければ、だが。」
かなり突拍子もない提案に思えたが、栴蘭は本気のようだ。
「別にかまわないぞ。なあ、悠よ。」
問われた悠は、数度まばたきをして、
「ああ。俺は別にいい。だが、聯はそれでいいのか?」
「はい。ぜひお願いしたいです。」
どうやら迷いは無いようだ。
「じゃあ、決まりだな。うちのをよろしく頼む、千尋ちゃん。」
唐突に話を振られて驚いた千尋は、
「あっ、はい。」
という間の抜けた返事をしてしまい、頬が朱に染まった。
「っははは。それじゃ、俺と閻禾は帰るわ。」
栴蘭のその言葉に、栴桜が軽く目を見張る。
「兄上、本気ですか?もう亥の刻をまわります。夕餉もまだとられていないでしょう?今晩は泊まっていかれては・・・?」
「いやー、そうしたいところなんだが、明日も朝から用があってな。」
「・・・そうですか。では、お気をつけて。」
「おう。」
「お邪魔しました。」
栴蘭と閻禾の二人は、短い挨拶をし、御影の城を後にした。
「それじゃあ、聯君の部屋を用意させるわね。すぐ済むから、千尋の部屋で待っていてもらえる?」
栴蘭と閻禾が立ち去ってすぐ、栴桜がそう言った。聯は、はい、とうなずき、千尋も彼とともに首肯する。
「用意ができたら、呼びに行かせよう。」
「わかりました。」
千尋の返事と同時に、千尋、聯、悠、遙が立ち上がり、焔の部屋を後にした。
千尋の部屋に着いてすぐ、悠と遙が妙に作り物めいた笑顔で口を開いた。
「じゃあ、あたしたちも聯君の部屋の用意、手伝ってくるから。」
「準備が整ったら、俺らが呼びにくればいいな。」
そう言って、足早に立ち去ってしまう。千尋の部屋には千尋と聯の二人だけになってしまい、ものすごく気まずい雰囲気が漂う。
これはどういうことなのだろう。
明らかに、二人きりの状況を強制的に作られた気が・・・。
互いが全く同じことを思っていることなど露知らず、二人は慌てて話題を探す。が見つからず、目を泳がせる。
千尋の場合、普段緊張することなどないのだが、今日はなぜか気恥ずかしさがあった。
「え、えっとっ、その・・・」
沈黙に耐え切れなくなった千尋が、ついに口を開いた。
だが、なにも話すことを考えていなかったために、そのさきが続かない。
「えと・・・・・・あ、あの、ちゃんと、あいさつしてなかったよね・・・?今更言うのもなんだけど、これからよろしくね。」
苦笑まじりの笑顔で、なんとかそう繋げる。
「う、うん・・・。よろしくね。なんか・・・急に居候することになっちゃったけど・・・ごめんね。・・・迷惑じゃ、なかった?」
聯も聯で、不自然な笑顔で、不自然に目を泳がせながら、不自然な口調で答える。
遙が見ていたなら、きっと初々しいと笑うのだろうが、当人たちは気が気でない。
「迷惑なんて・・・そんなことないよ。きっと母様も、もう一人子供ができたみたい、って喜ぶとおもうし・・・」
千尋は、ようやく普通に話せるようになってきたらしい。
「そ、そっか。良かった・・・。」
「うん。」
そんなぎこちない会話を続けていると、千尋にとっては聞きなれた足音が近づいてきた。
「あ、悠・・・」
「千尋、聯。部屋の準備ができたぞ。」
「わかりました。すぐ行きます。それじゃあ、千尋さん。おやすみなさい。」
「ええ。おやすみなさい。・・・あ、私のことは、呼び捨てでいいから。」
千尋が不自然でないいつもの笑顔で言うと、聯も見たことのない自然な笑みで、
「じゃあ、僕のことも呼び捨てがいいな。」
と答えた。
新章みたいなものに突入しますwww
ホント・・・つたない文ですが・・・
読んでくださりありがとうございました!
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