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永遠の契り、久遠の思ひ  作者: 焔涙
乱世の姫君
6/15

退治る姫

残酷表現かもしれませぬ・・・・・・。

 そこは、廃屋だった。かつては城下の長が住んでいたのだが、先代の長がここで妖に殺されたため、それから使われていない。ひどい荒れようだった。

 微かに妖気の残り香がある。確かに妖がいたようだ。だが、これほど微かなものでは、気配を手繰ることができない。

「千尋、どうするの?地道に聞き込みでもする?」

遙が問いかける。

 千尋は、顔をしかめて答えた。

「それはいくらなんでも避けたいけど・・・。札が無くちゃ、占術もできないし。六壬式盤りくじんちょくばんもここには無いし。どうしようかなぁ。」

 これが城下町でなければ、まわりに居る害のない弱い妖たちや、人の霊などに聞くことができる。だが、人が多い場所にそういったものは寄り付きにくい。

 途方にくれていたとき、千尋は背後から、人とは異質ななにかの気配を感じた。反射的に振り返ると、そこには、妖しい雰囲気を漂わせる妖艶な女性が立っていた。そして千尋は、彼女のことを知っている。

 彼女を見止めると、悠が露骨に嫌な顔をして、げっ、とうめく。

「出たな祗園ぎおんのババァ。」

いつもの優しい雰囲気はどこかへ吹き飛んでいる。

 それとは対照的に、千尋は顔をパッと輝かせ、

「久しぶり!」

と女性にとびつく。

 女性は、まさに祖母が孫を見るような眼差しで、千尋の頭をでる。

「ああ、久しぶり。元気だったかい?」

そう言うと、声を潜めてささやく。

あのこの表情が随分ずいぶんやわらかくなった。千尋に頼んで正解だったよ。」

それに千尋は、にこりと笑ってうなずく。

 女性は、悠の方を向き、楽しげに笑む。

「ババァとは随分な言われようだねぇ。こんな綺麗な女はなかなかいないよ?」

 女性の言葉に、悠はさげすむような笑みをむける。

「ババァが嫌なら化け狐とでも呼んでやろうか?はるか昔から京に住んでいる祗園の九尾きゅうびさんよ。」

「言ってくれるじゃないかい。まだ生まれて数百年の青二才が。」

 顔を合わせれば必ずこうなる二人を、千尋と遙は遠めで眺めていた。だが、そのことを知らない聯は、唖然とそれを見ている。

 遙が苦笑して聯に説明する。

「あたしと悠が妖だってことは知ってるわよね。あたしは鬼で、悠は九尾なの。それで、あの女の人も九尾。二人は随分前からの知り合いらしくて、仲が良いのよねぇ。」

 聯が二人の方を見て、

「仲が良い・・・・・・?」

つぶやいたことは誰も知らない。

 千尋が、遙の説明に補足を加える。

「それと、妖には寿命ってものがないの。だから、大怪我をしたり、大病を患ったりしない限り死ぬことは無い。だからああいう会話の内容になるのよ。」

悠が二五〇歳ほどなのに対して、祗園の九尾は何年生きているのかわかったものではないのだ。






------十分後------

 悠が肩で息をしているのに対し、祗園の九尾は余裕の笑みを浮かべている。

「あんたが口で適うわけないじゃない。」

遙の冷静な指摘に、悠がくっ、とうめく。いつもと完全に立場が逆だ。

 「それで、なんでこんなところにいるの?」

千尋の問いかけに祗園の九尾は、ああ、そうだった、と話し始めた。

「実は昨日、御所を妖が襲ったらしい。その妖が京から逃げ出したと知って、気配を辿ってみたのよ。そしたら、千尋のとこに行ったとわかったから、教えてあげようと思って。でも、もう知ってたみたいね。」

「ええ。さっき知ったところだけど。でも、詳しい居場所がわからないのよ。」

 祗園の九尾がなにかを言いかけたそのとき、五人の間を緊張が駆け抜けた。

「どうやら、探す必要はなくなったみたいね・・・・・・。」

遙が、独り言のように呟く。

 廃屋の中に、それまでなかった気配がある。

 気配からして、かなりの強さの妖だろう。

 真剣な顔をした祗園の九尾が、皆に話しかける。

「わたしがこのこを守ってるから、三人で妖を倒して。それでいい?」

悠は若干不服そうだったが、何も言わない。

 「千尋、身固めくらいしておきなさいよ。今日は札が無いんだから。」

遙が言うと、千尋が笑って

「わかってるよ。」

とうなずく。そして、手で四縦五横に切る所作をしながら、

青龍せいりゅう百虎びゃっこ朱雀すざく玄武げんぶ空陳くうちん南斗なんと北斗ほくと三台さんたい玉如ぎょくにょ・・・。」

と唱える。すると、千尋の体が、見えない壁に包まれた。

 それを待ち、悠が呼びかける。

「それじゃあ、行こうか。」









 見ず知らずの妖とともに残された聯は、言い表せない居心地の悪さを感じていた。

 それを見かねた祗園の九尾が、聯に話しかける。

「ふふ、驚いたでしょ。」

聯は、少し戸惑ってから、

「・・・はい。」

と答えた。

「心配?」

「・・・わかりません。僕は、妖がどういうものなのか、全く知りませんから・・・。」

自嘲気味な微笑で答えた聯に、祗園の九尾は笑って話す。

「素直な子ね。気に入った。千尋は、人間にしては強いわ。悠と遙も強い。まあ、心配はいらないでしょうね。」

 祗園の九尾の笑顔につられて、聯もそうですか、と笑った。









 「あら、いきなりお出ましね。」

遙が、いつもと違う好戦的な笑みを浮かべて言う。

 三人の目の前に現れたのは、牛のような妖だった。普通の牛と違うのは、体全体がどす黒く、角が異様に長いことだ。

 「だが、思っていたより小さいな。」

悠が、薄気味悪そうに呟いた。

 「わたしが先制攻撃を仕掛けるわ。多分当たらないけど、悠と遙は直後に二撃目を叩き込んで。それで決める。」

「わかったわ。」

「りょーかい。」

そう言うと同時に、二人の体に変化が生じる。

 悠の両耳は狐のそれになり、九本の立派な尾がはえる。遙の耳はとがり、その後ろから二本の角がはえてくる。口元からは、二本の犬歯がのぞく。

 「じゃあ、行くわよ。」

そう言うが早いか、九字刀印を結び、四縦五横に切りながら、

令百由旬内りょうひゃくゆじゅんない 無諸衰患むしょすいげん!!」

と叫ぶ。

 すると、透明な刃のようなものが数本、妖牛に向かって飛んでいった。

「ぐるるるるぁ!」

しかし千尋の予想通り、刃は全て弾かれる。それと同時に、妖牛が、凄まじい速さで彼女に向かって走ってくる。

「・・・っ、急急如律令きゅうきゅうじょりつりょう!」

とっさにそう叫び、簡易結界を張る。結界は、突進してきた妖牛によってすぐに砕かれたが、千尋が逃げる時間を稼ぐには十分だった。

 その間に、妖牛の後ろにまわった悠と遙が、少し長めに見える日本刀で斬りかかる。だが、妖牛の動きが予想より速く、角によって受け止められる。

「嘘っ!?」

すぐさま悠が、横なぎに二太刀目を入れる。今度は妖牛の体が切り裂かれ、血が噴き出す。だが、致命傷にはならない。遙がすかさず、妖牛の傷口に向かって、刀を突き立てる。

「ぐるらぁぁぁ!」

傷口から内臓が溢れるが、妖は生命力が強いため、倒れない。

 二人が戦っている間に、千尋は呪言を唱えながら、北斗七星を描くように歩を進める。そして、

「悠、遙!!」

と叫ぶ。すべてを了解している二人は、すぐさま身を引く。

 千尋はそれを見届けると、刀印を十字に切り、叫んだ。

臨兵闘者りんびょうとうしゃ 皆陣列在前かいじんれつざいぜん!!!」

妖牛の体に凄まじい衝撃がはしり、そのまま妖の体は掻き消える。

 あとには、静寂だけが降った。

 「ふぅ・・・。終わったな。」

悠が、疲れたように笑って言う。

「そうね。さ、千尋、帰りましょ。聯も待ってるだろうしね。」

「ええ。」

いやー、おそくなりました!

一ヶ月間にテスト四回という殺人的スケジュールのため、

更新がおくれております!


では、感想などいただけるとうれしいです♪

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