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永遠の契り、久遠の思ひ  作者: 焔涙
乱世の姫君
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出会いの姫

 「あれって、昨日の男の子よねぇ?」

遙が、胡乱うろんな顔をして小声で言う。

 彼女の言うとおり、今、千尋たちの目の前にいるにのまえ家の次期当主は、まぎれもなく昨夜見かけた男の子であった。

「どういうことかしら・・・?」

千尋も小声で返す。

 昨夜は、何故ここに来ていたのか気になったが、聞くことができる雰囲気ではなかったのでやめておいた。すると、どうやら彼も、こちらに気づいたらしい。目が合うと同時に、不自然に視線を泳がせる。その姿がおかしくて、千尋はつい笑みが漏れてしまう。すると彼は、顔を真っ赤にして、そのままうつむいてしまった。

 そこで、焔が話し始める。

「まずは、お越しいただき感謝いたします。詳しい事情は説明済みのことと思いますので、我が御影家の娘を紹介いたします。」

 そう言うと焔は、千尋に視線を投げてうなずく。彼女もうなずき返し、あらかじめ決めてあった言葉をそのまま口にする。

「本日は、遠方よりのご足労、有難く存じます。わたくしは、御影千尋と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」

そうして、深々と頭を下げる。

 千尋が頭を下げた先には、一家の次期当主と、その両親、つまりは現当主とその妻が端座している。

 すると、現当主の妻が穏やかに笑み、口を開いた。

「頭を上げてください。こちらこそ、お呼びいただきありがとうございます。れんも、自己紹介をしなさい。」

 どうやら次期当主は聯という名前らしい。彼は、はい、とうなずき顔を上げる。

「わたしは、一聯と申します。まだまだ若輩の身ですが、どうぞよろしくお願いいたします。」

 「若輩というか、餓鬼じゃないか。」

「わたしもそう思う。」

悠と遙が、小声で言う。

 二人の言葉は千尋にしか聞こえていなかったようで、焔が話を進める。

「では、堅苦しいのはここまでと致しませぬか。家督を譲るのは一年後。本日は互いのことを知るということで。」

 焔の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ほかの大人三人が姿勢を崩す。真っ先に口を開いたのは、一家の現当主だ。

「ふぅ。堅苦しいのはどうも苦手だ。こんにちは、千尋ちゃん。俺は栴蘭せんらんていうんだ。そんで、こっちが俺の妻の閻禾えんかだ。よろしくな。」

栴蘭が、一国一城の主とは思えぬ爽やかな笑顔で言う。それに千尋は少々面食らってしまい、曖昧あいまい

「は、はい。」

とうなずく。

 千尋が困ったような表情をしていたので、閻禾が苦笑して助け舟を出す。

「千尋ちゃん、困っているではありませんか。あまりいじめないで下さいよ。」

「む・・・。」

 そのとき、二人の後ろから、聯の声が聞こえてきた。

「あの、そちらの金の髪をしている男の方と、髪の短い女の方はどなたなのですか。」

彼の言葉につられて、栴蘭と閻禾も悠と遙の方を向く。

 いきなり話題をふられた本人たちは、少し戸惑ってから答えた。

「・・・俺は、小鳥遊たかなし悠。千尋の下につくあやかしだ。」

「わたしは遠江とおとうみ遙。悠と同じく、千尋の下につく妖よ。」

「あやかし・・・・・・。すごいですね。」

聯は、驚いたというような口調で言う。

 一体何がすごいというのだろう。

 それを聞こうと思ったのだが、会話がひと段落着いたところを見計らい、御影家の家臣が入ってきた。

「失礼致します。たった今、城下の者から連絡があり、廃屋に妖がでたため退けて欲しいとのことです。」

「え!?」

 こういう騒ぎはよくあるのだが、最近どうも回数が多い。昨日も、怨霊を浄化して欲しいという依頼があったばかりなのだ。そのおかげで札が底をついてしまった。

 力の弱い妖ならば、札がなくとも退けることは出来る。だが、ある程度以上の力を持つ妖には、札がないと太刀打ちできない。若干の例外を除いては。

 妖である悠や遙が出向くことも出来るが、彼らだけで出向いて、果たして城下の人間が信用してくれるのか。妖であることに変わりはないのだから。

 「わたしが行きます。」

千尋が自ら名乗り出た。彼女は、札がなくともたいていの妖を退けることが出来る。いわゆる例外だ。

 しかし、焔が反論する。

「しかし、札がなくては術の精度も下がる。危険だ。」

「大丈夫です。悠と遙も連れて行きますから。」

 焔はまだなにか言いたげだったが、それを遮って、栴桜が言った。

「いってらっしゃい。気をつけてね。」

「はい。・・・ほら、悠、遙。行くわよ。」

 千尋の言葉に、二人がうなずく。

「でも、千尋。あんた狩衣に着替えるでしょ?あたしたちはここで待ってるから、着替えておいでよ。」

「うん。」

そう言って、千尋は部屋から足早に出て行く。

 それからすぐ、悠が口を開いた。

「聯も連れて行ったらどうだ?」

 彼の言葉に、その場に居た全員が驚きを示す。遙にいたっては、悠を罵倒する。

「あんたバカ?もうちょっと賢いと思ってたけど。」

 容赦ない言葉に、普段温厚な悠も顔をひきつらせる。

「お前なぁ・・・。俺はだな、これからは聯も妖に関わることがあるだろうからと思って言ったんだよ。それをバカだのなんだの。」

 「ああ、なるほど。」

と答えたのは、閻禾だ。

「うちの子ちょっと軟弱だけど、連れてってもらえるかしら。」

 先ほどから、聯本人の意思は完全無視状態だ。

「ああ、もちろん。」

 聯の同行がほぼ決定してから、ようやく本人が口を開いた。

「あの、迷惑をかけてしまうかもしれませんが・・・。」

聯の言葉に、悠が穏やかに笑って言う。

「ん?別にかまわないさ。そんなに時間はかからないだろうしな。」

「じゃあ、よろしくお願いします。」

 話がまとまったところへ、狩衣姿の千尋が戻ってくる。

「おまたせ。」

「あら、早かったじゃない。これからのためってことで、聯も同行することになったから。」

 千尋は特に驚く風もなく、わかったわ、とうなずき、両親の方を向く。

「では、行ってまいります。」

遅くなってすいません!

現実がきついっす!


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