望月の姫
「なんか随分冷静ねぇ。」
焔の部屋を出た後、遙が話しかけてきた。
「んー?まあ、なんとかなるかなぁって。」
千尋が答えると、今度は悠が口を出す。
「千尋なら、なんとかならなくても、なんとかするだろうな。」
「どういう意味よ。」
「褒めてるんだ。」
なにか言い返そうと思ったが、悠があまりに優しいまなざしをしていたので、毒気を抜かれてしまった。
ふと外を見渡すと、今夜は綺麗な望月だった。
「うわぁ!きれーい!」
千尋の子供のような感嘆の声につられて、悠と遙も外を見る。
「ほんとねぇ・・・。」
「お前の部屋からなら、もっと綺麗に見えるんじゃないか?」
悠の提案に、
「そうねぇ。早く行きましょ、千尋。」
「うん。」
と、同意を示す女性二人。
そして、顔を見合わせて頷き合う三人。
三人分の全力疾走の足音が、御影の城に響いた。
そして数分後。千尋の自室。
千尋の部屋は、三階にあり、外に出られるようになっている。そこから外に出ると、やはり望月を一望することができた。
後から考えると、何故このとき、こんなにも月が見たかったのか。やはり、何らかの必然だったのか。
「やっぱり綺麗!」
「ええ。」
すると、悠が地面を見て言う。
「あれ、誰だ?」
「え?」
言われて千尋も下を向く。すると、一人の男の子が立っていた。元服したかどうか、十二、三歳くらいだろう。元服しているのなら、男の子という表現は正しくないのだが。
彼の服装はなかなか上等だが、ここは御影家の城。貴族が居るはずはない。まして、ほかの戦国大名家の人間などありえない。
「さあ。御影家の新入りかしら。」
「あんなに綺麗な装いで?」
遙がすぐさま反論した。それに、千尋は渋面をつくる。
「だって・・・。」
そんな会話をしていると、男の子がこちらを向いた。
そして、千尋と目が合う。
もちろん、悠と遙ほどの美貌ではないけれど。
それでも、それでも。
二人と一緒にいるときとは違う何かを、確かに感じた。それが何かは、わからないけれど。
そしてそのさまを、悠と遙は少しだけ寂しそうに、眩しそうに見ていた。
男の子は、千尋と目が合うとすぐ、顔を真っ赤にして去っていってしまった。
「いったい、誰だったのかしら。」
千尋の問いに、珍しく神妙な顔をした悠が応える。
「どこかの刺客でなければいいがな。」
その答えを、三人はすぐに知ることになる。
同時刻。一家の次期当主、一聯は、若干気落ちして御影家の城下に来ていた。その理由は、父にこんなことを言われたからだ。
------聯よ。焔にはあらかじめ伝えてあるから、ちょっとひとっ走りして、御影の城でも見て来い。なに、挨拶などする必要はない。見てくるだけで良い。な?
正直聯は、どうせ明日行くのだから、こんな夜に行く必要はないだろうと思った。しかし、父には逆らえず、結局きてしまった。
とりあえず彼は、父に言われた通りに、城下町の中央にある城を見に来た。なかなかに立派な城で、攻めにくい造りとなっている。
城を見ていると、必然的に見上げる形となる。彼は、今夜が望月だったことを思い出し、月が出ている方向を向く。するとやはり、綺麗な望月が出ていた。
どのくらい見上げていたかわからないが、城の方から話し声が聞こえた気がして、再び城を見上げる。すると案の定、三階に三つの人影があった。そして、そのなかの一人と、目が合った。
自分よりいくつか年上だと思われる整った顔立ち。まさに姫のような装い。
一目惚れだった。
その少女が、淡く笑む。
聯は、顔がみるみる赤くなっていくのを感じ、慌ててその場を去った。
このとき彼は、そこが御影の城だということを、完全に失念していた。
次の日。千尋は、もう一家の方々が来ていると聞いて、焔の部屋に向かっていた。もちろん、悠と遙とともに。
「失礼致します。」
そう言って、部屋に入った三人は、声もなく驚く。
そこには、昨日の男の子がいた。
なんか読みにくくなってしまうんですよね・・・。
なぜだorz...
でも、やっと恋愛っぽくなってきたじゃないですか!?
・・・・・・ですか?
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