御影の姫
1513年、皐月。一人の赤子が誕生した。
彼女の名は、千尋。
1527年、文月。
室町幕府12代将軍、義晴が将軍職をつとめ、世を治めていた頃。
すでに幕府の力は弱まり、戦国の動乱期だった。
そんな時代の、京の程近く。
小さな戦国大名家があった。その家には、小さいながらかなりの力があった。
その理由は、彼らの駆使する技にある。陰陽術。それが彼らの用いる技。
彼らの名は、御影家。御影家には、ひときわ力の強い姫がいた。
幼い頃から術を使い、妖を従えていったという。彼女の名は、千尋。
今年、数えで十四歳になった。
「姫様、姫様!」
ここは、戦国大名、御影焔の城。その御影家に仕えている涼美が、城の一室へ足早に向かっていた。そこは、焔の娘である千尋に与えられている部屋だった。
涼美は、部屋の前に着くなり、挨拶もそこそこにふすまを開けた。
「姫様、失礼致します。」
その部屋の中央あたりに、数えで14歳になる御影家の姫君が座っていた。千尋は、まっすぐな黒髪を膝のあたりまでのばし、美しい衣装を身にまとっていた。いかにも姫君だ。しかし彼女は、髪がこれ以上長くならないように、こっそり切っていた。邪魔なのだ。座っていればよくわからないから、べつに良いだろう。
千尋もかなりの美人だが、その傍らにいる男女もまた、彼女に負けず劣らずの美貌の持ち主だった。
「悠様、遙様もいらっしゃいましたか。」
「誰かと思ったら涼美じゃない。何か用?・・・ていうか、悠と遙は十中八九わたしの近くにいるんだから、あらためて言う必要無いじゃない。」
千尋の指摘はもっともで、いつもは涼美も気に留めないのだが、今日は少し動転していたため、余計なことも言ってしまった。
「は・・・、それもそうですね。私、少し動転していたようでございます。」
「動転て・・・。なにがあったの?また、妖退治の依頼?」
千尋のところには、城下からしょっちゅう妖退治の依頼が舞い込んでくるのだ。
「いえ・・・。もうそのようなことで驚くことはございません。今日は、焔様、栴桜様から言伝を預かって参りました。」
「父様と母様から?」
と、千尋が怪訝な顔をする。
「はい。『一週間後におまえの婿と会うことになった。心に留めておけ。それと、直接話したいこともあるから、自分たちのところに来い。』だそうです。」
涼美がそう言うと、それまで口を挟まなかった女性、遙が興味津々で話に入ってきた。
「婿!?それって、許婚ってやつよね?千尋は会ったことあるの!?どんな人!?なんて名前?かっこいい!?」
遙は、くせのある黒髪を肩の上あたりまでの長さにし、背丈は六尺近くある。かなりの美人で、大人の雰囲気が漂っている。・・・言葉とは裏腹に。
瞳が赤く、髪が短いため、異様な雰囲気をまとっていた。
そんな遙の問いに、呆れ顔で応じたのは悠だ。
「そんなにいっぺんに聞いたらわからないだろう?・・・てか、そんなに興味あるのか・・・。たしか、千尋は一度会ったことがあると、栴桜から聞いたことがある。たしか名は・・・聯。一聯だ。」
悠は、蒼い瞳に金髪。前髪は目にかかる程度。横の髪は、耳の下あたりの長さ。後ろだけ、腰のやや上まで髪をのばしている。
「一って・・・。御影と同盟結んでる?」
「ああ。」
「え・・・わたし、あったことあるの?」
千尋が間の抜けた声を出す。
「覚えてないの?」
遙が驚いたように問う。その問いに答えたのは涼美だ。
「姫様が覚えておられないのも無理はありません。聯様に会われたのは、姫様が三つの時ですから。詳しいことは、焔様と、栴桜様からお聞きになられると良いでしょう。」
涼美が言うと、千尋は頷きながらこたえた。
「そうね。今すぐ二人のところに行けばいいのね?」
「左様にございます。」
「涼美、ありがとう。ちょっと行ってくるね。」
そう言うと、千尋は悠と遙を引き連れ、部屋を出て行った。
一人残された涼美は、目を細め、穏やかに笑う。
「身分が下の者にも素直にお礼が言えるところは、姫様の美点ですわね。」
読みにくいですね・・・・・・。すいません。
次回はもっと短くします!きっと!