天狗と姫5
「で?どうするの?」
城門をくぐって外に出た直後、遙が千尋に尋ねた。
辺りはもう完全に暗闇である。
行動をおこすにしても、明日の方が良かったのではないか。
そう矢継ぎ早に問われても、千尋は全く動じない。まるで、その質問がくることがわかっていたかのように答えた。
「たとえば・・・そうね。女天狗とか、川天狗、鳥天狗、白狼天狗も。〝天狗〟と呼ばれている種族のうちのほとんどは、ほかの妖と比べても、ずば抜けて妖力、神通力が高いわけじゃないでしょ?」
そこで一度言葉を切り、悠と遙に確かめるような視線を投げる。
悠が無言で首肯し、遙がそれで? と続きを促したのを見ると、千尋はひとつ息をつき、望月を少しすぎた月の浮かぶ夜空を見上げながら続けた。
「でも、あのとき聯を連れ去ったのは、女天狗だった。」
聯を連れ去ったのが女天狗だったという可能性は、千尋の中で確信に近いものに変わっていた。
霊力の強い者の直感は信用できる。
それがわかっているから、悠も遙も、千尋の言葉を最重要に考える。
「じゃあなんで、私たちのなかの誰も、聯が連れ去られたことに気づかなかったの?力は絶対的にこちらが勝っていたのに。」
遙が質問を返す。
そう。誰も気づかない。
それは通常、絶対にありえないことだ。
もちろん、記憶を一時的に飛ばされたという可能性がないわけではない。だが、妖でその類の術を使う者は少ない。そのうえ、そういう場合、記憶に齟齬が生じることが多いのだ。
それを考慮すると、残される可能性はひとつだけ。
「異界・・・・・・。」
悠が、誰にともなく呟いた。
「そう、異界。もしあの時、女天狗が聯をつかまえてすぐに異界に入ったとすれば、私たちが気づかなかったことの説明もつく。・・・誰そ彼だったしね。」
千尋が悠に続けるように答える。
だが、彼女の説明に、悠が怪訝そうな表情をした。
「女天狗は人に化けられるから、妖気を隠せたことは説明がつく。だが、女天狗程度の妖が異界を作り出せるか?」
通常、異界を形成できるのは、限られた種族の、凄まじく高い妖力を持つ者のみだ。
そして、女天狗に異界はつくれない。はずである。
「うん、つくれないわね。十中八九。」
「・・・・・・。」
あまりにあっさり肯定されたので、悠は言葉につまってしまう。
しばらく口を出していなかった遙も半眼になっている。
『・・・なら、どうやって?』
二人同時に問うた。
仮にも主に向かって疑心の目を向けてくる二人の妖に、千尋の語調も自然と荒くなる。
「だーかーらーさっ!もし、もしもよ?聯を攫ったのが女天狗の意思じゃなくて、もっと力の強い妖の指示だとしたら?異界もそいつがつくったとすれば、つじつまが合うでしょ。」
些か無理がある気もするが、確かにそれならばすべて説明がつく。
「・・・相っ変わらず頭の回転がはやいわねぇ。」
遙が心底感心したように言う。悠も異論はないようだ。
が。
「それくらいしか思いつかないとはいえ・・・やっぱり確信は沸かないよなぁ・・・。」
悠の言葉に、千尋はなぜか自信ありげな笑顔になる。
「男だったらネチネチ言わない!確かめてみればいいのよ。」
「確かめるって・・・何をどうやってよ。」
半ば答えを予測しながらも、遙は怖々尋ねた。
「何をって・・・そりゃあ、異界の有無を力ずくで。」
わかっていた。こうなることは。
悠と遙がひそかに、賢いのだからもう少し考えれば・・・ と思ったことは秘密だ。
だが、文句は言わない。
それが、間違っているとは思わないから。
彼女は、彼らの主だから。
「まあ、できないことではないだろうな。」
「千尋の霊力は凄まじいからね。」
千尋の霊力は、普通の人間の比にならないくらい強いのだ。異界をこじ開けることくらいできるかもしれない。
「異界っていうのはね。大抵、御神木とか、社とか、そういうのを中心に広がってるの。だから、そこをたたくのが一番効果的だと思うのよね。というわけで・・・この城下の御神木と社の位置聞いてきましたー☆」
「用意周到なことで。」
悠と遙が、優しげに目を細める。
「もう目星はついてるし、行こうか。」
それから四半刻後。
一家の城下に、凄絶な霊力が迸った。
速かった・・・今回は・・・久々に・・・www
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