天狗と姫3
「なんで・・・・・・?」
悠と遙より若干遅れて事態に気づいた千尋が、呆然と呟く。
それは、異常な状況だった。ほんの数分前まで、一緒に歩いていたはずの聯の姿がどこにもないのだ。もしも近くにいるのなら、悠か遙が気配で気づく。妖に襲われたなら、どんなに巧妙に妖気を隠していても、見つけられる自信が千尋にはある。だが聯はどうだ。三人の誰にも気づかれることなく、一瞬にして姿を消した。
そして、その状況が自ずと導き出す答えはひとつ。
「・・・まさか・・・聯が自分で・・・・・・?」
悠が微かに青ざめて呟いた一言に、千尋が過敏に反応する。
「そんなわけないでしょ!?」
「・・・っ・・・ああ。そうだな。悪い。」
そう言って悠は、目にかかった髪を手でかきあげるようなしぐさをする。
そんな二人を横目でちらと見た遙は、真っ赤に染まった空を見上げながら口を開いた。
「・・・二人とも、憶測でものを言うもんじゃないわ。」
「・・・お前に諭されるの・・・なんか嫌だな・・・」
悠が僅かに顔をしかめて言う。
「っこんの・・・しっつれいな男ね!!」
「あはは・・・悪い。・・・・・ありがとな・・・」
いつもの調子で、けれど少しだけ恥ずかしそうに言いながら、遙の頭をかるくぽんっとたたいて、彼女よりも少し前にいた千尋に向かって歩き出す。
そして、千尋の頭を慣れた手つきで撫で、そのまま髪をもてあそび始めた。
遙はといえば、悠にたたかれた部分を両手で押さえ、目を細めて再び空を見上げる。
「・・・反則だわ・・・・・・」
誰にも聞こえないように、そう呟いたのだった。
同時刻。
そこは、永遠に終わることなく続いているのではないか、と錯覚させるほど、本当に何も無い場所だった。
「・・・ここは・・・一体・・・・・・?」
「教えてほしい?」
唐突に眼前から声が聞こえ、ハッとして顔を上げる。
「・・・・・・誰、ですか。あなたは・・・・・・」
「そうね、少なくとも、人では無いわね。そして、ここも・・・・・・」
「・・・・・・?」
「人の世の理からは、外れているわ。」
髪が軽く引っ張られるのを感じ、千尋は反射的に振り返ろうとした。
しかし、途中で思いとどまる。再び前を見る。
何故なら、彼女にはわかってしまったから。
今、後ろに誰がいるのか。
今、どんな顔をしているのか。
そんなことまで容易に予想がついてしまったから、彼女は振り返るのをやめた。
多分、今千尋の後ろにいるであろう悠は、自分の表情を誰かに見せたくないだろうから。
悠は、気が小さいのだ。
さっき、千尋を不安にさせるようなことを言ってしまったのを、まだ気にしているのだろう。
そんなこと、もう誰も気にしていないのに。
きっと彼は、少しだけ不安そうな、そして何か物言いたげな表情で千尋の髪をいじっている。それは、悠が千尋と出会って少ししてからの、彼の癖のようなものだ。何か、言いたいけれど言いにくいことがあるときは、決まって千尋の髪に左手をのばす。
その、決まりきったしぐさに、千尋は思わず苦笑をもらしてしまう。
そして、それがわかっているから、千尋は自分から切り出す。
今回ばかりは、彼女にも非がある。
「・・・ねぇ、悠。」
こういうとき、できるだけ優しい口調を心がけてしまうのは、何故だっただろうか。
「ん?」
「さっきはごめんね。」
そう言って振り返ると、意表をつかれたような顔をしている悠と目が合った。
すると悠は、目に見えて狼狽し始める。
「いや・・・その・・・それは俺にも非があったし・・・だから・・・えと、ごめん・・・」
それに満足そうに微笑むと、千尋はなぜか、急に元気になる。
「はい、この話、終わり!!さっさと聯をさがさないと。」
「ああ。」
「そうね。」
いつの間にか遙も追いついてきていた。
「まず、どうするの?」
「そうねぇ・・・とりあえず、栴蘭様と閻禾様に事情を報告しましょ。」
「もう、城は見えてるしな。」
ようやく、三人のいつもの調子が戻ったのだった。
短い・・・・・・。
短いですね!遅いですね!!
次は2週間くらいで更新したいなぁ・・・。
感想いただけるとうれしいです!!