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ロックンロール的リアリズム

作者: yasuo2.0

「死ね~~~~~!!死ね~~~~~!!みんな、死ね~~~~!!」


20代中盤とは思えない幼く甲高い声。しかし、まるで剃刀のように鋭く刹那的な歌声が、ライヴハウス『グラーフ・ツェッペリン東京』に響き渡る。


この、『真性こまったちゃん』は、ネットを中心に支持を広げてきた人気ロックバンドだ。USTUBEやゲラゲラ動画などの、動画投稿サイトが出来る以前のP2P方式の動画配信時代から活動しており、リストカットや局部もろだし配信などの、際どいパフォーマンスを繰り広げる事によって人気を獲得してきた。


しかし、フロントマンであるモ子の、歳の割には幼くオタクっぽい風貌や、彼らのシューゲイズ風ながらも、シューゲイズ特有の甘美さを排した殺伐としたサウンドが、長い不況と先行きの見えない不安に包まれた日本の状況とシンクロする中で、メディアや批評家によって大々的にプッシュされるようになった。


「ふぁ~い、盛り上がっていますか?僕の今日のテンションは全然ガタ落ちですよ。でも、みなさんのせいじゃないです。単に二日酔いなだけですよ~」モ子のMCが続く。「でも、次がどうやらラストっぽいんで、行きます。『ロックンロールは虫の息』!!」ラストは彼らの代表曲で締めるとわかるや、観客のボルテージが最高潮に達した。そして、イントロのギターが鳴った、その時。


「オラオラ、何が真性こまったちゃんだよ!!俺らミィラーマンズの方がより時代にリアルに迫っていんのによう!!」突然、古ぼけた革ジャンを着た四人組の男達が乱入してきた。「だいたい、オメェーみたいな、きしょいオタクが、神聖なロックをやっていること自体気にいらねえわけよ。さっさとやめてくんない?」と、ミィラーマンズのフロントマン、畑がモ子に向って悪態をついた。


「つうか、どいつもこいつも、いい歳して冴えない格好してんな。ヒョロガキのおかっぱ。中途半端な顎鬚生やしたメガネ野郎。ちょい可愛に見えるだけのブス。高校生レベルのファッションのチビ。なんで、こんなのが人気あるの?」 畑が煽る。「だいたい、こんな萌えアニメなんて見ているような性犯罪者を持ち上げているオーディエンスも悪ぃーんだよ。もっと、俺らみたいな本物を知れよ、本物を!」

そして、畑がモ子の前まで近づきマイクを奪った。


「え~~~、こんな、しょんべんちびったようなロックじゃなくて、今から本物のロックンロールショーが始まるんで、ヨォロォシクゥーーーー!!」畑が得意げにMCを披露している中「おいっ!!なんだテメェはよ、マジでぶっ殺すぞ!!」モ子が猛烈な勢いでキレだし、懐からバタフライナイフを持ち出した。


「ぷっ、ダセー。でも、ナードにとってバタフライナイフなんて標準装備だもんね。でも、一度もケンカに使った事が無くて自分の手首切るために買ったんでしょ?」「あっ?うるせえよ。マジで刺すぞ」モ子も、ぎこちない手つきでバタフライナイフを持ちながら踏ん張る。「ま、しゃーねえーな。とっととケリつけるぞコラーーーー!!」畑は愛器のギター『フェンダー・ジャガー』を構えて、落ち着きが無く、フラフラとしたモ子の動きの一瞬の隙を見逃さずにバタフライナイフを払い落とす。そして、モ子の背中目掛けて、おもいっきりジャガーを打ちつけた。すると、モ子はステージの上にバッタリと倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。


「ぎゃははは!!弱っちぃ。まあ、ペドオタク野郎なんてこんなもんか」畑がドヤ顔でニヤつく。「おい、モ子になんて事すんだよ!」こまったちゃんの顎鬚メガネこと、キーボード&ラップトップを担当するモロが、若干どもり気味で食って掛ってきた。「おい、まて。お前の相手は、この俺がしてやんよ」ミィラーマンズのソロギターの左山がモロを羽交い絞めにし、モロのメガネを取り上げそれをそのまま観客の方へと投げつけた。「ハッハハー!所詮、ナードバンドなんてこんなもんだな。今日は俺らのステージだぜ!!」畑が高らかに宣言する。「おい、そこのブスもどけよ!」ミィラーマンズのドラムスの石口が、こまったちゃんの紅一点の美沙をステージ裏に追い出す。「まあ、ミィラーマンズも落ち着いて。ね、とにかくみんな一旦冷静になって・・・」こまったちゃんの良心にして、ベースのサハーギンが場を仕切ろうとすると「黙れ、この野郎!!」とミィラーマンズのベースの真が、サハーギンの持っていたベースを取り上げる。そして、ベースをサハーギンの顔面に向けて振り上げ、見事にクリーンヒットさせる。すると、サハーギンは急に暴れだ後にばたりと倒れた。どうやら、脳震盪を起こしたらしい。


「イェーイ!今日は俺ら正義のロックンロールが、まがい物のゴミカスオタクロックに勝った記念日だぁ~~~!!!」畑がマイクをスタンドから離し叫ぶ。「日本の腐ったプレスやギョウーカイを俺らがぶっ倒してやる!!おい、そこのオタクどもよ、これから貴様らにストリート発の真のロックを見せ付けてやるぜぇ~~!!!」畑がさらに絶叫する。そして、機材の調整を終えて一曲目を始めようとした時・・・・。「うるせぇーよ!!何がロックだこの野郎!俺らの方がてめぇらよりもロックでパンクだよ!!!調子こいてんじゃねーぞ、リア充野郎が!!!!」モ子が起き出し、マイクスタンドを畑に向けて殴りつける。スタンドは畑の額にヒットし、額から血が噴出した。


「いてぇな。まだ、生きてたんかよ。この、ヒョロガキが!!」すると、畑はモ子を掴んで、観客の方に投げ飛ばした。「くっ・・・・。でも、これで終わりじゃねえ。舐めんな!!」モ子は立ち上がり、隠し拾ったバタフライナイフを畑の太腿に刺した。「ぎゃぁ!!クソガキ。もう何も関係ねえーーーー!!おら、いくぞ!!!!」ミィラーマンズのメンバー全員が集まって、よってたかってモ子をボコる。「何なんだよ?なんで、こんなイモみたいなバンドの方が売れて評価されてんだよ!俺達の方が絶対に本物なはずなのによう!!」畑は己の憎しみの限りをモ子にぶつけた。


そして、この狂騒にすっかり興奮しきった観客達も加勢する。もう、誰がこまったちゃんの味方なのか、ミィラーマンズの敵なのか分からない。観客達はひたすら暴れ続け、ライブハウスの備品を破壊し、ギターを真っ二つにへし折り、ドリンクをぶちまけ、互いを意味も無く殴りあった。それは、まるで初期ロンドンパンクの衝動を思わせるような熱い光景であった。黄色い暴動。理想的な、あるべき『ロック』の形が、日本にも定着しそうな予感を感じさせた。それは、長い道のりであった。所詮、遥か辺境の島国の日本で、海外の階級文化の意匠を借りてロックを奏でてもリアリティーを感じられるはずがない。しかし、こうして、僕らはやっと自分達の内にある渇きを、怒りを、閉塞感を、そして、憎しみを社会や世界に向けてぶちまける機会を得た。そして、それは自分達の未来を差し出す事の対価でもあるが。


でも、決してロックンロールは鳴り止まない。キミが望み続ける限り・・・・・・・・・。



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