こんなんでも好きですか
関係ない余計な一言:
空気が、欲しい。
「体温がちょっと高いな。」
俺は手のひらで彼女の前髪を掻き上げ、甲を額に当ててお互いの体温を比較しながらそう言った。
体感だけで断言できないので、俺は棚から救急箱を取り出して、温度計を彼女の脇下に忍ばせた。
普段こんな事されたら、恥ずかしくなって嫌がるけど、今日は全く反応しない。
「大丈夫、です。私、平温高めなんで。」
一連の動作しても尚十秒くらい経って、やっと弱々しい答えが返ってきた。
思考能力と反応速度が目にも見えるくらい落ちてる、どう見ても重症だ。
「大丈夫じゃないですね、平温より五度も高くなってる。」
この世界にある温度計のユニットは、設定上五度で摂氏換算約1.5℃、零度の基準はそのままで人体の温度は約百二十五度。
ゲームではそんなに活用出来てない設定だが、一応錬金に加熱要素あるので覚えてしまった。
「え?なんで、分かるんですか?さすがにキモい、です。」
「なにを言っている、クランメンバーの体調管理はクランマスターの責任です。」
返事はさっきよりも早く飛んできたけど、それでも十数秒のタイムラグがあった。
「必要ありまっ、せん。」
おっと、台詞が変なとこで途切れている、さすがに喋らせ過ぎたな。
まぁ、これは適当に漕いでるだけだし、そこまでいくと確かにキモい。
クランマスターがメンバーの体調を把握する必要はあるけど、さすがに平温は分からない、知ってるのはあくまで一週間くらいの日程と、材料集めに参加できる状態がどうか。
それに俺はクランマスターではない、あくまで代理、すべては名義上のクランマスターがハーレムを築く事しか興味ないのが悪い。
「いいから黙って寝ろ、寝ないとこのクランから永久追放する。」
そう脅すと、彼女はやっと静に目を閉じた。
心なしが、目尻がちょっと濡れてる気がする。
全く、ここまで体調悪いなら寮で休めばいいのに、俺みたく仲のいい友たちがいない訳じゃないから。
無理して学校まで来て授業を受けるなんで、却って迷惑を掛かるだろう。
まぁ、狙いは見え見えだけど。
俺は容器とタオルを取り出し、ある程度大きいクランしか与えられない拠点の部室がある、第一課外活動棟の共有トイレから水を汲んだあと、再び部室へ戻ってきた。
それらを彼女が寝てるソファの前にある小さいな机に置き。
あんまり使いとこなく、かなり奥に締まってる製氷用の金型に水を注いた。
この世界は電力のインフラを作っていない、一応直流電で動く機械あるけど、交流電で動く機械は存在しない。
なので通常の冷蔵庫はなく、食べ物の保蔵はアイスボックスが一般的。
それはなぜ?と言われたら、ゲームの世界だからなんで、風情のない答えはしない。
なぜならかなり簡単な錬金で『クーラーポーション』という物が作れる。
よって、水とクーラーポーションがあれば、何処でも大きい氷を簡単に作らせる事が出来る。
ゲームでは普通に『クーラーポーション』と言うアイテム扱うけど、実際は二つの液体を混ぜて、ゆっくり反応させ一時的に周囲を零度以下に凍らせる物だ。
同じ液体で『アイスボム』と呼ばれる物も作れるけど、分量さえ間違えなければ、触媒もないのに一気に反応する筈もないので、そこまで危険と言うわけでもない。
市販品は特殊なボックスと専用容器に入れた液体の形で販売して、凍る範囲をボックス内に限定すると言う安全策を取ってるけど、一応子供が扱っていいものではない。
まぁ、このクランが常備したは『アイスボム』補給用の原液だけど。
と言うわけで、出来立てホイホイの氷を水が盛った容器の中にいれた。
氷によってキンキンに冷えた水の中にタオルを突っ込んで、確り濡らして滴らない様水を絞り取ったあと、彼女の額に乗せた。
ついでに仮眠用の毛布を掛けて、ゆっくり休ませる。
あとはーー
一応栄養ゼリーを調合しよう、お粥なんで作れないから栄養補充できる物が必要でしょう。
◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇
真っ白の世界に浮かべた視点は、一歩また一歩前へ進む。
引き摺る足から垂れ下がった赤い糸は、地面に出鱈目な図形を描き出している。
漆黒の狩人は背中から追っかける。
無垢な獲物はただ前へ翔っている。
赤に吸い寄せられた双眸は、出鱈目に進み始める。
賢い狩人は即かず離れずの距離で、獲物の膝が地を就く時を待っている。
狩人の思惑通りに奔る、全速力で奔る。
昂る心音と共に赤い血液が流れ出す、暗転する視界と共に乱雑な呼吸か聴こえる。
縦に降る冷たいノイズは何時しか世界を灰色に染めた。
体温が奪われ怯える小動物は自ら暗い世界へ踏み入れた。
白い息を吐き出す度白くなる小さい体に、運命の光が舞い降りる。
濁った瞳は光を追う、無感情で大きく開いた顎を見た。
恐怖と後悔と諦念が入り混ぜった色が燻んだ琥珀色に混ぜる。
生贄として捧げられる乙女は祈りを捧げた。
赤い予感は希望の矢によって切り開かれ、水平方向に割れた。
目の前まで迫り懸かった毒牙はたちまち塵にとかした。
優しい光りに包まれ、視点より上から伝わる心地よさが眠気を促す。
張り詰めた糸を解す様に、朧げな意識はそのまま安らぎに呑まれた。
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ふむ、困った。
栄養食のゼリーを食べさせたのはいいか、コートの裾が掴まれてしまった。
さっき食べるときも、半目で焦点が定まんない様子なので、これも無意識の行動なんだろうな。
さて、いでよ我が脳内選択肢、そんなもんいねえけど。
(1) 強引に引き離す
実行は簡単だが、起こす可能性あるのでパス。
(2) 指を退かす
これはない、無意識で恋人繋ぎされる恐れが有る。
(3) 果報は寝て待て
時間が勿体ないので×。
(4) 金蝉、殻を脱す
はぁ、実質一択だ。
太陽も登りきったし、丁度暑いから脱ぐか。
そしてこれを弱りきった病人に、毛布と重ねかけするとは、我ながら鬼畜である。
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え?なんで?
起きたら先輩の匂いに包まれた。
夢を見た気がするけど、今は匂いの方が問題です。
吐き出す空気より、吸い込んだ空気の方が多い気がする。
好き、この匂いを嗅ぐと安心する。
っ!
何やってるの私、これじゃ只の変態だよ。
でも先輩の匂いをもっと感じたい。
足をもぞもぞしながら、夢うつつのまま吸い込む。
脳がこの香りに犯され、段々おかしくなった自覚はある。
けど止められない、人は呼吸を止める様に出来ていない。
無理、こんなの駄目、このままだと駄目になる。
意を決して目をあげると、そこには先輩のコートが有った。
『何故』という疑問よりも先に、無意識でそれを掴んで、鼻まで持って来た事を恥じた。
いくら先輩の匂いが好きでも、これははしたないすぎる。
それでももっと吸いたい自分が、なによりも怖い。
この匂いは麻薬だ。
私の理性は『やめて』と叫んだ、けど手と呼吸が逆の事を主張している。
匂いを吸いたび思考力が奪われ、止める信号は一生身体に届かない。
もうーー
なんでーー
止まらないの?
恥ずかしさから目を背け、再び開いた眼の端に、不運にも先輩の背中を捉えてしまった。
あの日よりも一回り大きくなった背中、いつも私を守ってる背中。
愛しさが溢れ、呼吸が加速する。
止めて!
こんなの見られるど引かれる。
正気に戻って!
心臓が高鳴る。
身体中の酸素が先輩の匂いに置き換えされつず。
地面に着けないこの足は焦れったくもぞもぞする。
私は先輩に侵されている。
違う。
先輩の匂いに侵される、身体の奥底まで侵される。
感情の箍なんで遠いの昔にすでに外された。
もっと欲しい、私を先輩の物にして。
こんなつもりじゃーー
むず痒い痛みを絶えきれず、痛みを静まる為に潜る。
重力に潰された小さいな丘を越え。
熱量を篭もった平原に横切る。
鍾乳洞に至る為もぞもぞ動く谷底へ降りるーー
こんなじゃ引かれる所が完全に幻滅される!
「ゔぇへへへへーー」
はしたない私に救済なんで存在ない。
ここにあるのは我慢出来なくて、獣の声を発する自分だけ。
◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆
「ゔぇへへへへ、看病されちゃった。」
振り向くと、半分コートで隠れた琥珀色のうるうるなお目々が一対、上目遣いで俺の背中を覗き込んている。
あの気持ち悪い笑い声とその前に聞こえた音さえなければ、絶好などきシチュになるでしょう。
「止せ、気色悪い笑いすんな。」
「最後にキスしてほしいな。」
この子は何を言ってるんだ?
「…しないよ?一度もしたことないよな?」
返事はしたけど、俺の言葉が届いていないように、彼女は続いた。
「あ、やっばだめです。今はダメ、汗で服がびしょびしょになってるから、匂いとかーー」
っと、うんたらかんたら言ってるけど。
「いや、だからしない。その代わりーー」
俺もそれを無視してこう言った。
そして彼女の近くまで来て、そっと手を彼女の頭上に伸ばしーー
「よしよし、ちゃんと休んで、半日で回復したのは偉い。」
母が子をあやす様な台詞を言葉にしながら優しく撫で回った。
気持ち悪い言動をする元気は出た、対話のテンポも普通に戻った。
念のため、もう一度体温を測りたい、が。
熱気を篭もったコートと毛布を退かして、温度計を渡す。
恍惚な表情浮かんだ彼女は、言われるがままに温度計を脇下に挟んだ。
何時しか時間が経ち、測り終わったことを彼女に伝え、そのまま撫でる手で脇下に挟んだ温度計を軽く奪って確認した。
「おっと、これはまずい、今回は平温より十度も高くなった。」
案の定、ろくでもない数字を出た。
まぁ、俺の半日を潰した罰だ、これくらいは受けてもらわないと。
「先輩のせいです!」
そう言って、ゆで卵に乗ったかわいいミント色のモグラは再び毛布に潜った。




