夢に見た運命の人
夢を見た。
会ったことのないとても素敵な女性と過ごす夢。夢の中の僕はそれはもう満たされていた。
目が覚めた。
幸せな夢は夢だったことに気づく。
「なんだ……夢か……」
でも、ただの夢ではない気が何故かして。
休日の僕は街でもうろつこうと思った。
とりあえず喫茶店にでも行くかと歩いていると、目の前で信じられない光景を目にした。夢で見た女性が前から歩いてくるのだ。僕は固まった。
女性は僕に気がつくと、何故か目を丸くして同じ様に固まった。
女性の挙動の意味はわからないけど、きっとこれは運命だ! 僕は女性に話しかけた。
「あの、今お時間あります? お茶しませんか?」
うーん、何か勧誘の様でとても怪しい。良くてナンパだろう。ナンパなんだけど。
しかし女性はそんな怪しい僕に微笑みかけこう言った。
「はい、喜んで」
喫茶店では他愛もない話をした。仕事の話、趣味の話、注文した飲み物の話。
そんな話が一段落したところで彼女が話す。
「信じられないかもしれないけど私、夢にあなたが出てきたんです」
「え!? 僕も同じです!」
話せば話すほど、僕の状況と一致する。だからあんなに驚いていたのか。
「これって、運命ってやつですかね?」
僕は言う。初対面の女性に『運命』などと気色悪がられるかと思ったが、彼女は笑って答える。
「そうですね」
それから僕らは自己紹介をして連絡先を交換した。彼女の名前は『九崎 菫(くさき すみれ)』というらしい。良い名前だ。
そう言ったら、僕の『一ノ宮 隼人(いちのみや はやと)』という名前も褒められた。なんだか照れる。
そして僕達はあれよあれよという間に意気投合し、付き合うことになった。
菫とはいろんなことをした。いろんな所に行った。たまに喧嘩して、仲直りした。キスをした。体を重ねた。
菫と過ごす時間はとても楽しかった。けれど、気になることがある。
仲が深まるにつれ菫は時々、思い詰めた様な顔をする様になった。理由を聞いても「なんでもないよ」と答えるだけ。
疑問点はあるが、僕は菫のことを愛している。今度プロポーズしようと思う。
指輪を買って、菫と予定調整して高級レストランを予約した。もちろん僕が全て支払う。こういう時くらいは格好をつけなければ。
プロポーズ当日、菫は黒のセクシーなドレスを着てやって来た。いつもの君も綺麗だけど、今日の君も美しいね。僕がそう言うと菫は顔を赤くして照れていた。うん、可愛い。
美味しいディナーを食べながら僕達は談笑する。
そして一息ついた時に僕は指輪の箱を取り出し菫に向かって開ける。
「僕と、結婚してください」
心臓が高鳴る。菫はOKしてくれるだろうか。
だが、菫の顔色は暗かった。
「私、隼人に言わないといけないことがあるの……」
なんだろう……?
「隼人が夢で見た人は私じゃないかもしれない……」
「どういうこと?」
菫はごくりと唾液を飲み込む。
「私……離れて暮らしている双子の妹がいるの。一卵性双生児で私とそっくり」
なんと、驚きだ。
「今まで黙っていてごめんなさい。騙していてごめんなさい。隼人といる時間が楽しくて、言えなかった。でも……もうここまでかもしれない……」
菫はうつむく。しかし、僕は口を開く。
「なら僕も言わなきゃいけないことがある」
「え?」
菫は顔を上げる。
「僕も離れて暮らしている双子の弟がいてね。一卵性双生児で僕とそっくりだ」
菫は驚いている様だった。
「僕は君の運命の人じゃないかもしれない。そして君も僕の運命の人じゃないかもしれない。けど、もうそんなこと関係無いんだ。僕は君を愛しているんだ、菫。君と過ごした時間は僕の宝物なんだ」
僕はもう一度言う。
「僕と結婚してください、菫。誰にも渡したくない」
菫の目から大粒の涙が溢れ出す。そして笑って答える。
「はい……喜んで」
後日、結婚の報告をしに菫と一緒に実家に帰ると、なんとそこには双子の弟と菫そっくりな女性がいた。僕も菫も驚いた。彼女は菫の双子の妹らしい。
何故いるのかと聞くと二人は結婚の報告をしに来たそうだ。
……運命とは、なんとも不思議なやつだ。




