届かなかったもの
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
大地震が起きたその時刻、
教授は大学にてゼミの講義を行っていた。
構内のあちこちで響く悲鳴。
長く続く縦揺れ。
地震が波であることを嫌でも知らしめられた。
揺れが収まった後に教授は真っ先に妻のいるはずの自宅へと電話を掛ける。
とぅるるるるる
50年近く前に建てた家でありあちこちガタが来ている。
とぅるるるるる
日中のこの時間、妻は家にいるはずだ。
とぅるるるるる
出ない。
教授はゼミ生に講義どころではないとゼミを休講とした。
余震に気を付けて避難するように言い、
自身は急いで自宅へと車を飛ばした。
40分後
教授が自宅に辿り着くと家の中から妻の声がした。
「ドアが開かないの。閉じ込められちゃったわ。」
倒壊…まではしていないが明らかに家は傾いており玄関や窓は力づくでもびくともしない。
「はー。全く困っちゃったわ。この家、まだ住めるかしら?」
どこか気の抜ける妻の声。教授は急いで119番通報を行うが順次対応中というアナウンスを受ける。
家の内外で姿は見えないが声そのものはクリアーに聴こえる。
「あなたがこの時間に家にいるなんて初めてじゃないの?いっつもいっつも仕事人間で休みの日も研究だって大学にこもりっきりだったじゃない。」
大災害が起きたにも関わらずゆったりとした時間。2人は長い人生を振り返る。出会った頃の話。結婚式の話。助教授になった頃の話。子はできなかったが50年間もの間を夫婦2人3脚で色々なことを乗り越えてきた。
陽が長いはずの夏ではあるがそろそろ陽が沈む。地震発生から7時間程が経過したが救助はまだ来ない。
その時、
メキメキメキ…どががががぁぁぁん!!!
家の2階部分が1階に落ちた。
外から取り除ける残骸をのけながら喉が枯れるまで妻の名前を呼び続けたが、
妻から返事がかえってくることは無かった。
2年後
妻と最期に交わした言葉はもう憶えていない。
教授がいつになったら救助が来るんだ?と言った時だったか、
妻が笑いながら救助なかなか来ないね~と言った時だったか、、
教授は世に存在する全てのものを切断できる災害救助で用いられる鋸を開発する。
ある程度の小型で携帯可能ながら刃の幅は可変。
小さいものの切断にも大きい幅のあるものの切断にも対応できる。
特殊な化学薬品を噴霧しつつ高温バーナーを切断面に当てながらの切断。
化学薬品は切断する物質により100種類以上の化学薬品を組み合わせて対象を絞ることで切断が容易となる。切断面こそ綺麗ではない、形状として波型となりスパッっと直線には切れないが、圧倒的な切断の速さを誇る。物理と熱と化学的を融合させた特殊なアプローチにより切断中の騒音も抑えられる。災害現場では素晴らしい活躍が期待されるだろう。
しかし彼はそれを世に出さなかった。
「ニュースです。〇△□市における同時強盗事件について続報です。7月✕日の未明に起きた〇△□市に存在する銀行とゆうちょATM130台の現金が全て奪われた事件で、特徴的な波型の切断面はどの企業商品や特許にも該当しないものであることが分かりました。また130地点もの多地点で被害が出ているにも関わらずそのような切断する音を聞いたと誰一人証言していない点も解明されていません。」
「本日〇〇大学が教授の様子がおかしく連絡が取れないと通報があり、警察とともに自宅を捜索したところ胴体が波型に切断された遺体として発見されました。警察では遺体の傍らに置かれていた鋸がATM強盗に使われた鋸の一つであるとして捜査をしています。」
「この教授は2年前の地震の際に自宅の倒壊で妻を亡くしており、教授の亡くなった場所はまさに妻が亡くなっていたその場所と一致していたと捜査関係者は漏らしています。」
私を切断する化学薬品の選別は非常に容易いが、
私と妻の絆を切断することはもうこれで永劫できない。




