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平凡だった私が生まれ変わったら森の神様に好かれ龍人に愛される物語  作者: 茜雫桂香


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22/22

目通り

 今日は陛下の目通りの日。

 私は、夏の陽射しに映える淡い空色のドレスをまとっていた。

 薄く軽やかな生地が風を受けてふわりと揺れ、歩くたびに裾がやさしく広がる。肩口には小さなレースがあしらわれ、涼やかな季節に似合う可憐な装いだった。

 リリィに手を引かれながら、ホールへと向かう。


 先に着いて待っていたフィリアの姿に思わず息が止まった。

 正装に身を包んだその姿は、いつもよりもずっと凛々しく見えて、整えられた空色の髪はいつもより艶やかで、長い髪はうなじのあたりで私と同じ藍色の細い紐にまとめられていた。

 夏らしい白と紺色の正装服は肩に家紋の飾りがついている。隣に並ぶと眩しい。


「では…いきましょう」

 優しく微笑まれ、手を差し出される。白い手袋をしているその手に触れても心の声は聞こえない。

「はい」

 リリィに見送られて、馬車に乗り込む。今日の為に最低限のマナーを詰め込んだ私は、先日の不安よりも、粗相をしないかの不安と緊張の方が勝っていた。

「大丈夫ですよ。陛下は気難しい方ではありません」


 丘の上での時間の中で聞いた、陛下について。

 龍人族は寿命が長い。一番長い種族はエルフで平均千歳前後。

 龍人族は六百~八百歳くらいだという。

 龍人族は赤子から成人までを人間族と同じ二十年くらいで終わる。その後の老人になるまでが長いという。

 フィリア、エドワード、アルティアは現在三百歳くらいだという。端数は忘れたと言っていた。

 その年齢の桁違いに目を丸くした記憶が蘇る。

 そして陛下も同じくらいだという。厳密には十数年ほど年上だったはずというが、そこは意外とざっくりだった。

 幼少期から王立学院で一緒に学んでいたらしく、割と仲が良く今回の隣国への許諾も承諾されやすかったのはそのお陰だという。


「…も、もし」

 緊張した眼差しで向かいに座るフィリアを見つめる。

「粗相を、したら…ごめんなさい」

 先に誤ってしまいたくなるくらいには、不安が増していた。その言葉に、柔らかく目尻を下げると

「大丈夫です。私が傍にいますから」

 そう優しい声で返してくれる。

(何もなく、早く終わりますように)

 そう馬車の中でずっと祈っていた。



 石畳を鳴らして進んできた馬車が、やがて王城の大きな門の前でゆっくりと止まった。

 御者が手綱を引くと馬は静かに足を止め、重厚な城門の向こうには高くそびえる王城の姿が広がっている。ついに王城へ到着したのだと実感した。

 フィリアにエスコートされ、地面に白いローヒールの音が鳴る。


「お、きたな」

「え…ティアにエド」

「おお、なんてあからさまに…」

 大きな門の前で先に待っていたのは、フィリアと同じ騎士の正装をして立っていたアルティアとエドワードだった。

 驚いた様子の私にフィリアは微笑んで

「ね、私達がいれば心強いでしょ?」

 その気遣いに心がじんわり温まる。

「うん」


 重厚な扉が静かに開かれ、四人は広い謁見の間へと足を踏み入れた。

 高い天井には大きなシャンデリアが飾られ、磨き上げられた石の床の上には長い絨毯がまっすぐ玉座まで続いている。

 奥の一段高い場所には黄金の装飾が施された王座が置かれ、静かな威厳が広間を満たしていた。

 ずっと握ってくれているフィリアの手を強く握る。

 しばらくすると、大きな扉の音が聞こえ、奥からフィリア達とそこまで変わらない容姿の男性が二人歩いてきた。


 リリィから教えてもらったマナーを実行する。

 両手でドレスを広げ、片足を斜め後ろに引き、もう片方の膝を軽く曲げる。背筋は伸ばしたまま頭を軽く下げる。

 他の三人は膝をつき、右手を左胸に当て、頭を下げている。

(声がかかるまで、このままで…)

 若干腿がぷるぷるしているのは、体力と筋力不足の証拠だ。


 少しの静寂の後、足音が止み、声が落ちる。

「顔を上げよ」

 ゆっくり視線を上げた。


 陽光を浴び、きらめく綺麗な金色の長い髪を片側でゆるく結び、肩へと流すように垂らしていた。

 澄んだ青い瞳は静かな威厳を宿し、まっすぐにこちらを見据えている。

 端正に整った顔立ちには王としての凛々しさが漂い、その場にいるだけで自然と空気が引き締まっていて、彼がアルセイド陛下だと直ぐに分かった。

 もう一人の男性は陛下の横で背筋を伸ばし綺麗な姿勢で立っている。

 陛下と同じ金色の髪は肩につかないくらいの長さで綺麗に切り揃えられている。髪の色と同じ黄金の瞳がじっと私を見据える。

 陛下とは別で高貴な空気を纏っていた。


「…そなたが噂の少女だな」

 陛下は王座に腰を下ろし、じっと私を見据える。その視線に緊張と不安でいっぱいになり、思わずフィリアの手を握り、少し後ろに下がる。

「…はい」

 か細い声しか出ないことに、また不安が募る。


「…陛下」

 少しの沈黙の後、フィリアが我慢できないという表情で陛下を見上げた。

「いつも通りにしてください。ニアが怯えています」

 その声色は少し怒っているような、呆れているようで、お互い手袋をしているからかフィリアの心の声が聞こえない。

「ふ、あははは」

 その言葉を聞いて、先程の迫力が柔らかい雰囲気へと変わり、陛下が声を出して笑いだした。


「まったく…絶対ちょっと格好つけたかったんですよね?」

 呆れたようにアルティアが言う。

「はぁ、いいじゃないか。滅多にない機会なんだから」

 笑い過ぎて涙目になっていた目をこすり返答する陛下は何だか少し幼くも見えた。

「…陛下~僕まだ一言も喋ってない」

 横で綺麗に立っている男性が容姿とは想像もつかないほど、気の抜けた声を出す。

「ああ、そうだな。ニア、と言ったな。フィシオロゴス国へようこそ」

 そう口角を上げ微笑むと、続けて

「こちらが王太子で私の弟レオンハルトだ。私が現王アルセイドだ」

 紹介されたレオンハルトは軽くお辞儀をする。それに慌てて答えた。

「フィリア達とは学院時代からの仲なので、そう畏まらなくていい」

「…はい」

「畏まるように、仕向けたのはそちらでは?」

 そうエドワードは眼鏡を直しながら抗議する。


「すまないな、ちょっとフィリアを、からかいたかっただけだ」

「…」

 じっと睨むフィリアに陛下は苦笑いで誤魔化す。

 緊迫していた空気が和み、肩の震えも収まった頃、陛下はレオンハルトへ視線を移す。すると彼は一度奥の扉へ消えて行った。


「今回呼び出したのは、もちろんニアに会いたかったのもあるが…もう一つ」

「はい」

 フィリアが先程までの砕けた表情ではなく、視線が鋭くなる。

「ニア…君はニュムペー族だと思われ誘拐された。間違いないな?」

「はい」

 私の代わりにフィリアが返答すると、陛下は小さく頷き、そのタイミングでレオンハルトが手に本を持って戻ってきた。


「君は歌えるか?」

 その問いに、自然と体が震える。フィリアの手を強く握る。


『…それで、歌えるようになったか』

『歌え』

 パルフィの声が頭に響く。勝手に視界が滲みだす。

 ここは安全なのに、奥歯がガタガタと震えだす。

(歌えない…そう答えたら私は…)


「ニア」

 低い声が落ちる。ふわりと優しい温もりが私を包み込む。フィリアに抱き締められている。大きな背中は私の背中を優しく撫でた。

「大丈夫です。ここは安全ですから。私がいますよ」

「あ、ごめんなさい」

「大丈夫です。大丈夫」

 ぽんぽんと軽く背中を叩かれ、先程の怖い記憶を消し去ってくれるように、重い気持ちが、落ち着きを取り戻していく。


「すまない…この質問はまずかったか」

 そんなに簡単に謝ってしまう陛下も珍しいのでは?と内心思うくらいには落ち着いた時。

「ニアは上手く話せません。今では簡単な単語ならつっかえず話せるくらいです」

 エドワードが代弁してくれた。

 そしてエドワードの視線はレオンハルトが持っている本に移る。


「ああ、この本は…代々王族に引き継がれし絵本だ」

「「絵本?」」

 エドワードとアルティアの声が重なる。

 続けて陛下は説明する。


「ああ、絵本だ。だから詳細は書かれていない。この童話をどう解釈するかは、その時の王に任されているというわけだ」

「…」

 三人は静かに続きを待つ。

「そう、察しがいいな。この童話に出る少女はニアにそっくりだ。そしてそれは…ニュムペー族の奇跡の花だということ」

「…奇跡の花?」


 思わず声が漏れると、一斉に視線を集める。先程の罪悪感もあるのか、目元を優しく細め頷く陛下。

「本来王家の者のみ、また王のみが見れるものなんだが…お前達の知恵も借りたい」

 レオンハルトは階段をゆっくり降り、フィリアに本を差し出した。

 藍色の瞳は静かに絵本に視線を移すと、両手で受け取る。


「読み上げても…よろしいでしょうか?」

 フィリアの疑問に頷いて答えられ、恐る恐る絵本のページを捲るフィリア





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