荒げる声
「アイリ!!」
普段の彼を知る者は意表を突かれ、誰もが初めて聞く荒げる声、部屋にいた人々は視線を一斉にフィリアに向けた。全くその視線を構うことなく、白衣を着たエルフ族のアイリアナに真っ直ぐ駆け寄ってくる。
「フィリア、どうしたんー」
部屋の奥で薬草の調合をしていたアイリアナは驚き振り返るも、言葉を言い終わる前に遮られる。
「この子の治療をお願いします!!」
随分焦って抱えていた毛布をアイリアナの近くのベッドに横たえる。一緒に来ていたティアはベッドのカーテンを引き室内の視線を遮断した。
「ーっこの子は!」
毛布に包まれた少女の体中の怪我と、微かに感じる闇魔法の痕跡。
「闇魔法を浄化するのは、私も一緒に行います!!外傷を!!」
腕を捲し上げ、魔力を注ぐ準備をするフィリアに、早急に治療に取り掛かるべく反対側に移動したアイリアナも腕を捲り掌を少女に向ける。
「俺が鎖を外す」
ティアは少女の足と首の枷を炎魔法で焼き切る。
(魔力を封じる魔具を付けられる奴隷なんて聞いたことないぞ。
それだけ、この少女の魔力が強いということか、年齢的にそこまで強いなら知らない子なはずないんだけど…)
回復魔法をかけながら、浮かんでくる疑問を整理しながら深手の治療をしていく。
(そうだ、つい一ヶ月前に少女を拾ったとフィリアが言っていたな…その子か)
「一旦今日できる治療はここまでだ。このまま入院させてまたあー」
「いえ、連れて帰ります」
「は?!この状態ならうちで面倒見た方が…はぁ分かったよ」
「すみません。…明日迎えを寄こしますので、我が家で治療をお願いします」
「…分かったよ」
あまりに深い傷は、一変に回復治療はかけられない。受ける側が心身共に体力が無いと魔力をかけても零してしまうだけだからだ。命に別条がないまで回復が出来たが、まだまだ傷は深い。これは持久戦の治療になる。
宝物を触るように、毛布にくるみ抱きかかえるフィリアを見るとアイリアナは強く入院は進められなかった。
(まぁフィリアも回復魔法が使えない訳じゃないからな…ただ…)
チラッとティアに視線を送ると、小さく頷いた。
(まぁ分かってるか…)
余計なことは言わない方が良いと判断したアイリアナは去っていく二人に最低限の消毒クリームや清潔なガーゼを持たせて見送った。
家に着いて、自分の部屋の隣に新しく用意したニアの部屋のベッドに寝かせる。
誘拐を成功させてしまったのは、気を使って部屋を離して気配に気づくのに遅れたせいだと、強く自分を責めたフィリアは、早々にニアの部屋を移動させた。
先程までの苦しい表情とは変わって力が抜けたような表情のニアに少し息を吐く。
するとポンとティアに肩を叩かれた。
「ちょっと…」
呼ばれて、私の部屋に戻ろうと催促されたのを拒んでいると、涙で目をぱんぱんに腫らしたリリィが大きく頷いてニアの手を握り締める。
「私がいます。どうぞ、いってください」
「…任せました」




