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出逢い

さら、さらと頬になにかが触れては離れて、くすぐったい。

鳥の声と木々がゆれる音が聞こえる。甘く落ち着く匂いが鼻をかすめる。

ぼんやりとしていた意識が徐々に覚めていく。


瞼をあげると、そこには木々に囲まれた、丸い透き通った青空。


ここは、どこ。


身体を起こそうすると背中と足に痛みが走った。


ー痛っ


上半身だけ起こすと、どうやらここは小さな花畑の中のようだ。

私の周りを黄や白やオレンジの鮮やかな花が咲き誇っていた。

甘い匂いや頬くすぐっていたのは花か。

ふと花に触れようと手を伸ばした時、自分の認識していた手とは違う幼い手が視界に入った。


え、これは、誰の手?


知らない幼き手は私の意志と同じ動きをする。

手を視界の中心におき、グーパーと動かしてみる。

右手で左手を触ってみる。手遊びで狐をつくってみる。


この手はー私の手だ。


下半身へと視線を移す。その体は小さく、所々に傷をおっていた。薄っぺらい、元はワンピースか。白かったのか黄ばんだままだったのか分からない泥や破けているところもある。膝下の布をめくりあげると両膝に転んだ傷があった。


痛い。なぜ。ここはどこ?


私の持っている記憶は、日本という国で一般的な会社員だった。

一般的な大学を出て、30代に結婚して、子は持たず、会社員の優しい夫と共に生活をしていた。


あぁそうだ。そんな平凡な人生も、80歳の誕生日に夫に見守られながら息絶えたのを思い出した。

平凡で幸せな人生だった。


蘇る最後の記憶は泣いている優しい夫だった。

小さな頬に涙が伝う。あの後無事に生きているかな。そのことだけが心配で。


思い出にふけていると、風が強くなり、頬に髪が触れ視界が覆われた。

ガサと木々の中から音が聞こえる。


なに?誰?人?動物?


そうだ、私は今、蘇った記憶の中の私ではない。

幼い体に汚れた服に傷まである。幸せな出来事の最中だったとは誰も思わないだろう。

いつでも走れるように、しゃがんで音の方へ目を凝らす。


ー綺麗。


木々から姿を現したのは、透き通る空のような髪色をした男性。

漫画やアニメで見たことがある、西洋騎士団のような黒いブーツに紺色と白のシックなロングコートが端整な顔立ちを更に際立たせている。


「-誰だ」


容姿には反して声が低い。

ビクッと体に緊張が走る。

誰なのか、それは私が知りたい。何も知らない。何も覚えていない。

ここがどこなのか、目の前の人が敵なのか、味方なのか。

怖い、何もわからいことが。怖い。


男性と私の距離は100mもないくらい少し離れていた

木々生い茂る中なら逃げられるかもと、私は男性とは反対方向へ走り出しだ。


目の前に影ができる。男性の瞳の色は海のような深い藍だ。


ーえ


驚いた、一瞬で走り出した私の目の前に男性は現れたのだ。

飛んだ?それとも足が尋常じゃないくらい早いのか。


つ、捕まる。


恐怖と不安で目をぎゅと強くつぶったと同時に、ゴゴゴゴゴゴゴと大きな音が地面から鳴り響いた。


「これは⁈」


驚いた男性の声に、ゆっくり瞼をあげた。


ーえ、これは。なに?


しゃがみ込んでいた私を木々が網目状に囲っている。

私のこと守ってくれてる。そう感じた。

男性は驚いていた様子だったが、またゆっくり歩み寄り、今度は私の目線に合わせるように膝をついた。


「突然声をかけて驚かせてしまったようですね、申し訳ない。」


その声は優しく、陽の光で綺麗な藍瞳が細くなる。


ー優しそう


先ほどの不安や恐怖が解かれたのか、それと同時に私を囲っていた木々がゆっくり地面へと帰っていく。

男性はその体制のまま話し出した。


「私は、フィシオロゴス国騎士団団長のフィリア・ガラディオスと申します。

貴方に危害を加えることは致しません。」


こくりと頷くと、またフィリアは続けて


「今日は遠征の訓練にて、この近くの小川で休息していました。

もう少しで陽が落ちます。宜しければお家までお送りいたしましょう」


そう微笑まれゆっくり大きな手が前に出された。

この手を掴んだところで、私の家はどこなのか。どこへ行けばいいのか、分からない。

困惑している私にフィリアは優しく


「もし、行く場所がないのでしたら私の家に来ますか」


綺麗な藍瞳に吸い寄せられるように手を握ってしまった。


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