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悪党とバカと不思議な黒猫  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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12/21

誠、宿敵と出会う

 賢人が後藤ビルを見張っていた午後三時、誠は休憩のためコンビニに行っていた。菓子とジュースを買い、工場に戻ろうとした時である。

 人混みの中を、トコトコ歩いていくものがいた。黒く綺麗な毛並み。太りすぎておらず、痩せすぎでもない体型。しなやかに動く二本の尻尾……そう、あの黒猫である。

 途端に、誠の表情が一変した。


「やだあぁ……猫又ちゅわーん、また会えたのね」


 オネエ言葉のようなセリフを吐きながら、誠は猫を追いかける。

 今回も、誠は気づいていなかった。こんな黒猫が人混みの中を歩いているというのに、誰も気づいていない。

 誠だけが猫に気づき、追いかけているのだ──




 誠は、ひたすら黒猫を追いかける。が、突然に猫は消えてしまった。

 

「あれ、どこ行った?」


 思わず立ち止まる誠。と、その頭に何かがコツンと当たった。見れば、スーパーボールである。昭和の駄菓子屋に売っていた玩具だ。こんなもの、今どき珍しい。

 と思っていたら、なにやら甲高い声が聞こえてきた。同時に走って来た者がいる。


「あ、あいつは!?」


 誠の顔が引きしまる。こちらに近づいてきたのは、こないだぶつかって来たギャルトリオのひとりではないか。体の大きい奴、中くらいの奴、小さい奴の三人組だ。


 体の大きな少女(?)は、背丈が高くて肩幅が広い。髪は明るい茶色のロングで、耳には派手なピアスが光っていた。目元はきつめのアイラインで強調され、服は黒を基調にして派手な小物をアクセントにしている。見るからに姉御肌で、トリオの中でも落ち着いた印象を与える。


 真ん中にいる少女は、身長は百六十センチほどだろう。顔の造形は、かわいらしく整っている。髪は肩につくくらいのボブで、ところどころ明るいハイライトが入っている。服はゆるめのパーカーとミニスカートの組み合わせで、足元はスニーカー。目元にはキラキラのラメアイシャドウが入っていて、笑うと周囲を引き込むような魅力がある。


 こちらに走ってきたのは、背の低い少女だ。身長は百五十センチもないだろう。体つきは華奢だが、動きは機敏で小動物のようだ。髪は鮮やかなピンクでツインテールにしてあり、リボンやヘアピンがたくさんついている。服は派手な色のセットアップで、アクセサリーも盛り盛り。表情はいつも生き生きしていて、いたずら好きそうな笑顔が印象的だ。

 どうやら、この小さい奴がスーパーボールを投げ、誠の頭に当たったらしい。


「あっ、ごめんなさーい……あ」


 言ったきり、小ギャルは固まった。誠の顔を、まじまじと見つめる。

 次の瞬間、ゲラゲラ笑い出した。と同時に、オーバーリアクションで仲間を呼ぶ。

 

「ねえ、こっち来なよ! あん時の、変なおじさんいるよ! ほら、紙袋パァンやった奴!」


 途端に、誠は怒り出した。 


「おじさんだとぉ! なんじゃそりゃ! 俺ぁまだ二十五だ! おじさんはねえだろ!」


「いやいや、二十五だったらおじさんでしょ」


 小ギャルが言い、中ギャルが頷いた。


「ウンウン、おじさんだ」


「間違いない、おじさんだよ」


 大ギャルが、落ち着いた口調でトドメを刺す。

 聞いている誠の体が、プルプル震えだした。もちろん怒りゆえである。


「お前ら、ふざけやがって……だいたいな、こいつの投げたボールが俺の頭にクリティカルヒットしたんだよ! なのに、謝ることもできないのかお前らはぁ!」


「どうもすんませんでしたー」


 完全に棒読みで謝る小ギャルに続き、中ギャルがさらなる口撃を加える。


「いいじゃん。どうせ、あんたの頭は使えそうもないんだし」


「そうそう、どう見ても頭ん中空っぽって感じだよね」


 またしても、大ギャルが落ち着いた口調で締める。

 しかし、誠もこの程度で引く男ではない。


「こんの野郎……てめえら、調子こいてると髪の毛を芝刈り機で剃っちゃまうぞ!」


 この言葉に、ギャルトリオは固まってしまった。無言のまま、三人で顔を見合わせる。

 次の瞬間、皆で笑い出した──


「ブワッハッハッハ! なにそれ!」


 小ギャルが笑い、中ギャルがバカにする。

 

「芝刈り機だって! バッカじゃないの!」


 さらに、大ギャルが冷静に突っ込んできた。


「ねえ、芝刈り機でどうやって髪の毛剃るの? 言ってみてよ?」


 対する誠は、言葉に詰まる。


「そ、それはだな……」


「答えられないー! はい論破!」


 勝ち誇った顔つきで叫ぶ小ギャル。一方、中ギャルは誠の顔をまじまじと見つめる。


「なんかさ、こいつ一周回って面白くね?」


「今度さ、うちらのパーティに来ない? あんた下手な芸人より面白いかも」


 そんなことを言ってきた大ギャルに向かい、誠は言い返そうとした……が、気がつくと休憩時間が終わりそうだ。

 早く工場に戻らないと、鬼より怖い寅美班長に怒られてしまう。


「クッソー、ナメやがって……いいか、覚えてろ! お前ら三人、いつか恐怖のズンドコに叩き込んでやる」


 意味不明の捨てゼリフを吐き、走り去っていく。その後ろ姿を、ギャルトリオは笑いながら見ている。


「恐怖のズンドコだって」


「面白い奴だったね」


「今度会ったら、もっとからかってやろう」




 どうにか作業時間に間に合った誠は、いつものように外国人バイトの仕事ぶりを見て回っている。だが、頭の中では先ほどのギャルトリオとのバトルを思い返していた。


「クッソー、あいつら大人をナメすぎなんだよ。今に見てろ、必ずや血の池地獄に叩き落としてやるからな」


 なんとも物騒なことを言いながら、外国人バイトたちのいる机の周囲を歩いていた。

 その時、大ギャルに言われた言葉を思い出す。


(ねえ、芝刈り機でどうやって髪の毛剃るの? 言ってみてよ?)


 芝刈り機で髪の毛を剃る……勢いで言ってしまったが、果たして可能なのだろうか。

 誠は、とりあえずシャドー芝刈りをしてみた。芝刈り機を持っている気分で、工場内を歩いてみる。


「ほうほう、こんな感じか」


 なんとなく、やり方は飲み込めてきた……あくまで、シャドー芝刈りではあるが。

 では、この芝刈り機でどうやって髪の毛を剃るか。


「やはり、地面にひとりずつ埋めてやるか。で、頭だけ出してブィーンと剃ればいいんだな」


 ひとりでブツブツ言いながら、なにやら手を動かしている。

 そんな誠の奇行を、外国人バイトたちは横目で見ている。反応は様々だ。ついに狂ったか……という表情を浮かべている者もいれば、また誠のアホがなんかやってるよ……という者もいる。さらに、クスクス笑っている者もいた。

 そんな中、ついに我慢できなくなったのが、タイ人バイトのソムチャイである。


「誠、何してるだ?」


 小声で聞いてきた。誠は、同じく小声で返す。


「あのな、シャドー芝刈りだよ」


「シャドー芝刈り? それは何だ?」


「わからんのか? 芝刈り機を扱えるように練習してるんだよ」


「なぜ芝刈り機を扱うだ?」


「それはだな、バカギャルどもの髪の毛を剃るためだよ」


「はあ? 何言ってるだ?」


「わからなくていいんだよ。これは俺の戦いなんだからな」


 そんなことを言いながら、誠は真顔で芝刈り機を操作する……ような動きをする。

 その時、背後から強烈な殺気を感じた。まるで、背筋が凍りつくような感覚……ついで、肩をギュッとつかまれた。さらに、低い声が聞こえてくる。


「小林誠……お前、さっきから何をやっている?」


 言うまでもなく、豪力寅美班長の声だ。誠は震えながらも答える。


「い、いや、これはですね……その、深い理由がありまして……」


「何が深い理由だ? お前、ついに頭がおかしくなったか? 今から、一緒に病院に行くか?」


「いや、班長となら病院より永石園(ながいしえん)に行きたいです」


「な、永石園? 何だそれは?」


 若干ではあるが、寅美が動揺しているようにも思えた。誠は、すかさずたたみかける。


「あのですね、日本一ゆるいと言われている遊園地です。セットがぶっ壊れてて全然怖くないオバケ屋敷や、ものすごくスピードが遅いところが逆に怖いジェットコースターとか、馬がケンタウロスやグリフォンになっているメリーゴーランドが評判ですよ」


「誰が行くかそんなもん! 真面目に仕事しろ!」



 





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