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9.決断

 着の身着のままやってきたイリスであったが、屋敷には多様な服が用意されていた。

 サイズは完璧に合っているわけではないが、不満はない程度ではある。


 夜色の髪、やや赤みがかったシックな黒のドレス――靴も同じようで、どれも安物ではない。


「平時の差配をされているのはルミエ様という話よね」

「はい、その通りでございます」


 イリスの髪をまとめながら、レイリアが答える。


 ふむ、とイリスは確認する。


「だとすると、私のこの服飾品や家具もルミエ様の……?」

「そのはずでございます」

「とてもマメな奥方(おくがた)様ね」


 レイリアは「気難しい」と言っていたが、今のところ手紙にしても服飾品にしても家具にしても抜かりはない。

 

 几帳面なところが伺えるだけだ。

 決して悪いようには思えない。


「ルミエ様は何事にも自分のルールを使いたがります。これまでのことは、その延長線上かと」


 髪を整えられたイリスは万全に支度を終わらせる。

 公爵令嬢としてきちんとした出で立ちだ。レイリアのメイド力はかなりのものである。


「さて、ミラちゃんにお出かけを伝えないと」

「ミラちゃん、ですか?」


 きょとんとするレイリアに解説する。


「アルミラージのことよ。お昼寝中だけど、一応」


 なるほどとレイリアが得心する。

 安直かもだが、とりあえず。あの子の名前はミラで決まりだ。


 寝室に戻るとミラがタオルの上で起きていた。どうやらイリスが身支度している間に目覚めたらしい。


「きゅっ!」


 ミラが目をぱっちり開けてイリスを見上げる。

 イリスはふわもこなミラの背中を撫でながら……。


「ちょっと行ってくるわね」

「きゅっ!?」


 イリスの言葉にミラは全力で首を振った。


「きゅ、きゅっ!」

「えーと……」


 撫でるイリスの服の袖にミラが噛みつく。そのままミラは袖を後ろに引っ張った。

 行かないで、とアピールしているのは確実だ。


(こ、困った……っ)


 これは予想外であった。

 まさかミラがイリスと離れるのをこんなに拒むとは。


「うっ、ううっ……!」


 連れて行くわけにはいかないような。

 でもミラはイリスと離れるのを嫌がっていた。


 壁時計の針はお茶会の時間が迫っていると告げている。

 具体的に屋敷にいられるのはあと5分ほど。


 どうするどうする。どどどどうしよう。


「きゅ……?」


 イリスはミラを見つめた。

 これまでのイリスは置いていかれる側であった。


 公爵家の庶子となってから、父のアデス公爵はキャロルとばかり外出をした。

 

 それは仕方ない。

 もうイリスの価値は定まったからだ。


 家族のいない屋敷は冷たく、ひとりで食べる食事は決して満たされない。

 たとえ愛されていなくてもそばにいて欲しかったのに。


(そんな私が、この子を置いていく……?)


 寂しかったあの日々は嘘ではない。

 前世を思い出しても、受けた記憶は変わらない。


 イリスは迷いながらも決断する。

 決断して、次の手をすぐに打つことにした。





「静かにね、ミラ」

「きゅー」


 かすかな鳴き声でミラが応える。


 屋敷にちょうど良い手提げ鞄があったのは奇跡だった。

 デザイン鞄にはちょうど良く穴も開いて、ミラがすっぽり入る。


 そもそも魔獣に死という概念はないらしいが。


 人間が魔獣を殺せたという話はイリスは聞いたことがない。

 そのような存在ではないのだ。


 というわけで、イリスはミラを鞄にセットしてルミエの屋敷へ向かっているのである。

 秋の日差しが心地良い、とても心地良いのだけれど。


 我ながら無謀だ。

 しかし、ミラを置いていけなかった……。


 イリスのすぐ後ろにはレイリアがついて来ている。


「……大丈夫でしょうか」

「多分……すごく静かだし」


 ちなみにもう一手、ミラの頭には鮮やかな赤のスカーフを巻いている。

 角を隠すためだ。


 スカーフを外さないとこの子がアルミラージだとはわからない、はず。

 

 歩いていると視界の端にルミエの屋敷が見えてくる。


 構造や雰囲気はイリスの屋敷に似ているが、大きさは桁違いだ。

 ざっと3倍は大きいだろうか。


 屋敷の外のテラスに女性らしき人影が見える。

 あれがきっとルミエだ。 


 しかしイリスは怖くなかった。

 昨夜、この敷地に連れて来られたのに比べれば。


 恐れることなど何もないのだ。

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