54.王宮へ
兵が北に向けて隊列を整え、行進を始める。
雪はなおも強く、激しく降っていた。その雪道を踏みしめ、軍靴が進む。
イリスとクリフォード、レインドット大公は最後尾だ。
隊列の進みは早くない。
イリスでも十分、ついていける速度である。
(殿下は本当に王宮に向かっているの……?)
ここからではもう、他に情報を得られない。
大公の兵の報告以外はまったく不明だ。
ティリルはエラン殿下に伝えてくれただろうか。
その上での行動なのだろうか。
わからない――不安に押し潰されそうになる心をなんとか奮い立たせる。
大公の兵は倉庫街を越えて、川沿いに王都の貴族街に差し掛かってきた。
雪まみれの街路樹と塀の道だ。
クーデター騒ぎと大雪から家に引きこもる人も多いのだろう。
通行人はまばらであった。
「な、なんだ……この兵は……」
「大公閣下の……っ!」
隊列を見守る市民は戦慄していた。
大公の兵は銃を装備しての行進なのだ。降伏するのに、このような武装は不必要。
市民も予感している。
この隊列の向かう先に何が待っているのか――。
「ふん、庶民どもが慌てておるわ」
「……威圧もほどほどにすべきかと。市民は味方です」
静かに言葉を発するクリフォードに、大公は前を向いたまま答えた。
「だからあえて、緩やかに行進しておるのだろうが」
大公は悠然としながらも周囲への警戒を怠らない。
この男は――今までは腐敗した姿しか見たことがなかったが、かつてはこのような人物だったのだろうか。
「兵力は互角であろうが、恐れることはない。向こうは所詮、寄せ集めの急ごしらえ。理想に血が昇っているだけだ」
吐き捨てた大公の目には確信があるようだった。
クリフォードは注意深く、大公の話を聞いている。
「いざ戦闘になれば、士気は急速に落ちるだろう。すぐに片付く」
「そう上手くいくでしょうか」
「クリフォード、お前もわかっているはずだ。前線から遠い近衛軍など、ぬくぬくした連中に決死の覚悟などない」
「……確かに」
イリスから見てクリフォードは、不本意ながら同意しているように見えた。
(じゃあ、やっぱり……)
クリフォードは大公を止めようとしている。
だが、いつ動くかが問題だ。
ギリギリのところ――確実な局面でないと大公の兵は止まらない。
それがいつなのか、イリスは見極めないといけなかった。
貴族街も隊列は問題なく通り抜けていく。
ローンダイト王国の、雪に覆われた王宮が遠くに見えてきた。
心臓が痛い。
あともう少しでエラン殿下と衝突するかもしれないのだ。
「エランめはどうするつもりだ……?」
王宮の近くに人影はほとんどなかった。
市民も大公の軍が接近すると聞いて、避難しているのか。
散発的な銃声が雪の向こうから聞こえるが、それだけだ。
「エランの軍はどうしておる?」
「はっ……周囲には見当たりません。どうやら王宮に入ったようで」
「チッ……陛下の兵はどうなった?」
周囲の将校が顔を見合わせる。
「ほとんど抵抗なく……殿下の軍は王宮への侵入を果たしたと」
「少数の兵が王都各所に散らばり、治安維持を担っているようです」
「あの馬鹿が……」
大公は大きく息を吐いた。
どうやら殿下の軍が王宮にすんなり入るとは思っていなかったようだ。
「このまま我らが王宮に強行突入すれば、双方ともに被害は甚大でしょう」
「…………」
大公がたるんだ顎に手を当てて、自身の兵と近付く王宮に目を向けた。
「構わん。計算違いは起きたが、突入だ」
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