53.それぞれの思惑
イリスは手の中に植物の種を握っていた。
魔法を使えば一瞬で大きくなる。
それがどう――と言われれば、そうなのだけれど。
お守り代わりにはなる。いざという時に。
イリスが腕を上げながら、大公を見つめた。
「閣下、お話があります」
「……くだらん」
イリスの意図ははっきりしていた。
クリフォードの自殺めいた動きを止めること。
こうして会ってみて、イリスはますます確信を深める。
クリフォードは……どうあっても大公を止めるつもりだ。
自分が死んだとしても。
そして大公は徹底抗戦するつもりだ。クリフォードをそばに置いているのは、まだ彼を信用しているから。
だが、どうだろうか。
エランとクリフォードの仲は大公も知っているはず。
(……ギリギリのバランスだ)
イリスたちはそれぞれ違う意図を抱えながら、集まっている。
心臓が物凄く痛い。
あまりに早く動きすぎている。
かつての自分なら、こんな賭けはしなかった。
でもやるしかない。
運命をたぐり寄せたいのなら。
「閣下にも利益がございます。進退に迷う貴族たちを味方にするのに、私の存在はマイナスにはならないはず」
「…………」
大公の視線がじっとりとイリスに絡みつく。
情勢は混迷を極めている。
ほんの一手がすべてを変えかねない。
大公はイリスをどう評価するだろうか。
「わざわざ人質になりにきた、というわけか」
「……そのようにお考えでも結構です」
イリス自身の価値がどこまであるのか。
◆
大公は思案していた。
クリフォードを動かすのなら、イリスの存在は悪くない。
彼女をそばに置いておけば、クリフォードも余計なことを……しづらくなるはずだ。
所詮は16歳の小娘。
浅はかで愚かしい。
大公は内心でほくそ笑んだ。
「いいだろう。来い」
「よろしいのですか、閣下――」
そばに控える将校のひとりが大公に進言する。
「彼女は魔力持ちのようですが」
「問題ない。魔法とはいえ、植物を操る程度の弱い部類だ」
注意するべきはクリフォードのほうなのは間違いない。
今のところクリフォードは……忠実だ。信用できる。
疑う理由は特にない。
しかし土壇場になって、エランとの衝突中に心変わりする可能性は拭えない。
妙な同情心や変心さえしなければ――クリフォードは自分の息子でもあり、もっとも信用できる。
そこに緊急の伝令が馬に乗って現れる。
「閣下、ご報告が!」
「言え」
「エラン殿下の本営が移動を開始しております! 移動先は王宮かと……!」
大公の軍がざわめく。
エランが大きく手を動かした。
だが、エランもまた大公からしたら若造だ。
確実な勝利を求めるなら、まず大公を押さえるべきはず。
それが流血を嫌ったあげくに王宮へ向かうとは。
正統性を得たいのだろうが、生ぬるいやり方だった。
(だが、王宮へと移動したこと自体は朗報だろう)
イリスの顔は青ざめ、クリフォードは平然としている。
日和見の貴族を味方につけ、エランを排除する。
(――そればかりではない。うっかり王宮の混乱で陛下がお亡くなりにでもなったら)
心の中で大公は笑う。
予期せぬクーデターではあったが、転がしようによっては、大公自身が王になれるかもしれない。
大公は高揚を隠しながら、腕を天へと突き上げた。
「よし! 我らも王宮へ進路を変更する! 逆賊を討ち、陛下をお助けするのだ!!」
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