51.決着を
倉庫の内部は鉄筋とコンクリートで固められ、強固な造りになっていた。
豆電球がぽつりと照らす中、コートを着込んだレインドット大公がクリフォードを見据える。
部屋には重装備の護衛が数人。
武装解除されたクリフォードが、大公の前に立った。
「よくも抜け抜けとやってきたな」
「殿下の決起を見逃したのは、私の責任。しかしまさか、これほど素早く事を起こすとは……」
樫の木で作られた高級机に大公が肘を乗せる。
殺すつもりならクリフォードが正面からきた時点で、大公はそうしているだろう。
ひとりでやってきたクリフォードを奥まで招いたのは――迷いからだ。
ここまで来たクリフォードを信用すべきなのかどうか、大公は判断しかねている。
「エランめは貴様を信じていなかった、と」
「どうやらそのようです」
「……ふん」
投降するつもりなら、こんな指揮所に立て籠もる必要はない。
何か、意図がある。それは間違いない。
「鉄道警備隊と参謀本部も殿下に従うつもりとのこと。外堀は埋まりつつあります」
「問題ない……まだな」
大公の眼からは日頃の脂ぎった奢りが消え、鋭いものが宿っていた。
「反逆した兵の数は少ない。精鋭を集めてエランの本営を粉砕すれば、どうとでもなる」
やはり、か。
大公は微塵も諦めるつもりはないようだった。
ならばこそ、意味がある。
ここでクリフォードが刺し違える意味が生まれる。
「陛下は――」
「あの馬鹿はどうせ何もせん。操り人形がひとりで踊れるものか」
吐き捨てて大公は葉巻を取り出した。
「ただ、一目散に降伏するほど殊勝でもない。王宮で変わらず酔っておるだろうよ」
「…………」
大公の言葉は推測だけだ。
しかし、今は彼の言葉に力がある。
かつてローンダイト王国で悪徳貴族でありながらも辣腕を振るい、政敵を蹴落としてきた姿がそこにはあった。
「……どのようになされるおつもりで?」
「用意が整い次第、打って出る」
葉巻に火をつけ、大公は煙を吐き出す。
「エランめはどうせ、流血は最小限などと愚にもつかぬことを考えているに違いない」
そこで大公は目を剥いた。
「生ぬるい若造めが。国を動かすのは血だ。それを見せてやる」
クリフォードは大公に頷きながら、思考を巡らす。
生還は望んでいなかった。
あとは最善のタイミングで、大公と心中するだけで良いのだ。
(……どうにか隙を見つけられれば)
一対一にさえなれれば、武器がなくとも魔法で。
◆
イリスはミラに続いて川沿いを進んでいった。
王都の中心近くでも、この辺りは元々人が少ない。
今はさらに状況が状況――川を船で行き来する人もおらず、非常に静かだった。
川幅は徐々に広がり、家ではなく倉庫が増えてくる。
ミラは雪の上をぴょんぴょんと軽快に進む。
(ウサギだから……?)
勝手なイメージだが、ウサギは雪の上を走るのが得意なイメージだ。
ミラもそうなのかもしれない。
「……きゅ」
それまで足を進めていたミラが、初めて足を止めた。
「ミラ……?」
ふにっとミラが首を振り、遠くに目をやる。
そこには……あの敷地の中と同じ制服を着た、大公の警備がいた。
もちろんそれだけでは、大公がいることにはならないだろうが。
しかしミラが足を止めて、大公の手の者がいる……ということは。
「ここにクリフォードと大公がいる……」
どうするべきか。
イリスは迷いながらミラの後ろまで進む。
「ここにいるんだよね?」
「きゅっ……!」
イリスはミラを抱き上げ、倉庫を観察する。
今は動けない。
そう思っていたが……大公の兵がざわめき、中や外へ出たり入ったりと騒がしくなる。
(何か、動く……?)
少しして大公の兵が大勢、銃を持って倉庫から出てきた。
「……っ!」
目視できる距離なら魔力でも感知できる。
神経を研ぎ澄ませたイリスは、見つけた。
兵の最後尾に、大公とクリフォードがいる。
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