48.クーデター③
イリスは号外新聞を受け取り、大通りの隅っこに身を潜めた。
まずは情報だ。
通りの人間を警戒しながら、号外新聞に目を通す。
「殿下がクーデターを……っ」
やはりこの事態はただ事ではなかった。
しかし、通りの人たちは……冷静である。発砲音も遠いし、すぐに戦闘が行われるような気配はない。
号外新聞は次のように情勢を伝えている。
・本日午前、エラン殿下が近衛軍の一部を率いて蜂起。
・蜂起をしたのは堕落した現国王とその近臣の排除のため。
・殿下は王都各所に対し、横暴なる現国王政府から離れ、指揮下に入るよう呼びかけ。
・市民はどうか冷静さを保ち、混乱しないように。騒ぎに乗じての犯罪行為は厳罰に処する。
(……この内容は、多分……殿下が書かせた? 報道機関からの支持は取り付けてあるということ?)
書かれている内容は極めてエラン寄りと言える。
まぁ、現国王を支持する新聞なんてほとんどなかったので当然ではあるが。
「ふきゅ!」
ミラが鼻先を通りに向ける。
馬に乗った軍人がゆっくりと群衆に呼ばわっていた。
「諸君! 殿下の義挙に鉄道警備隊と参謀本部が加わった! 従軍経験があり、殿下に賛同する者は私に続いてほしい!」
おおお、と群衆から歓声が上がる。
大公の屋敷のすぐそばで、このような状況になるとは……。
この辺りには官僚や貴族の家が多い。
そのような人たちは今の国王陛下の状況をよくわかっている。
今こそ立ち上がる時だと思っていることだろう。
「状況は悪くない、ということかしら。でもこれから……」
殿下のことだ。
根回しや見込みがあっての決起なのは間違いない。
だけど、そう思えば思うほどに胸が苦しくなる。
クリフォードは……この渦中のまさに中心にいるはず。
エランのそばにいるのなら問題はない。彼の隣で指揮を執っているのなら……でもそうではない気がした。
さらに別の軍人が馬に乗って通りを歩く。
「軍人だけでなく、魔力を持った人間も大歓迎だ! 殿下はひとりでも多くの志ある者の参加を求めている!」
「――!」
ふきゅっとミラも反応する。
その軍人は珍しいことに魔力持ちだった。
魔法が重んじられていない世界だとはいえ、今はひとりでも戦力が欲しいということか。
イリスは意を決して、その軍人の足元に駆け寄る。
「すみません!」
「おお、お嬢さんは……」
イリスは隠していた魔力を一部、解放する。
これで目の前の軍人にも自分が魔力持ちだとわかるはずだ。
軍人が馬上から鷹揚に頷く。
「なるほど、きちんと魔力を持っておられる」
イリスは胸に手を当てて、迷った。
クリフォードへ会いに行くにしても、いくつもの方法がある。
一番確実そうなのはエラン殿下の元に行き、クリフォードを辿ること。
しかし大公の妾になった自分がそう簡単に信用されるだろうか。
イリスの現状がどこまで広がっているかわからないが……。
もし殿下に会うまでに足止めされたら……。
イリスは賭けに出ることにした。
「実は前に殿下のご親友、クリフォード様のお世話になって……! 彼は今、どこに!?」
「なんとクリフォード様の?」
軍人は馬からさっと降りて、イリスの前に立った。
大げさに見えるくらいの調子でイリスが続ける。
「クリフォード様は殿下のおそばにおられるのでは……!?」
「それが……クリフォード様の行方は我々にもわからぬ。あの方ならば殿下の元に馳せ参じると信じているのだが……」
イリスは衝撃を受けた。
やっぱりだ。
クリフォードはエランの元に合流していない。
背中から嫌な汗が浮かんでくる。
冷たい雪の感触とは逆に、イリスの頭と身体は熱に晒されようとしていた。
「……もしやレインドット大公の元に駆けつけたのかも」
「そ、そんな……」
何のために――決まっている。
クリフォードは刺し違えるつもりなのではないか。
父であるレインドット大公と一緒に。
あるいはギリギリまで陛下のそばにいて、クーデターを敵側から成功させるつもりなのでは。
本心からクリフォードが大公に従うとは思えない。
だが、必要があればどうあれクリフォードはそうするだろう――。
どうしよう。
クリフォードを探さなくては。
そこでイリスは、はっと別の魔力を感知した。
「お嬢様!」
それは防寒具に身を包んだティリルであった。
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