43.決意
エランが退出しても、ルミエはメイドを部屋に戻さなかった。
なので部屋はまだイリスとルミエだけだ。
「クリフォードとは久しく会っていないけれど、どうやら大変なようね」
「……恐らく」
ルミエは恐ろしく聡明だ。
イリスの様子から様々なことを察しているだろう。
本当は隠したほうが良かったのかもしれないが、無理だった。
嫌な予感のほうが顔に出てしまったのだ。
「殿下が何をしているのか、私は知らないわ。でも――不思議に思っていることがある」
ルミエがやや顔を伏せた。
「今、クリフォードは大公閣下の忠実な臣下として奔走しているのよ。至るところから、そう聞こえてくる」
「彼が……?」
「ティリルが出席する、商人の会合でも大公の代理人として振る舞ったらしいわ」
イリスの思うクリフォードではない。彼は、違う。
そんなことを本心からするような……そんなわけはない。
だが、そう思うほどにクリフォードが何をしているのか恐ろしくなる。
もし心を押し殺して大公に仕えて奔走しているのなら、その目的は――。
(エランが変装して会いにきたのは、やっぱり……っ)
何か計画があるのだ。
そうでなければ、クリフォードが2か月も顔を見せない理由がない。
あんなことを言うはずがない。
「イリス、あなたも知っていると思うけれど……今の陛下の評判は最悪よ」
「存じております……」
それはまともな貴族なら誰もが思っていることだ。
今のローンダイト王はあまりに遊び呆けている。
国政も近臣に任せっぱなしで、その筆頭がレインドット大公なのだ。
「しかも新聞では増税もするのだとか。北とのいざこざは片付いたはずなのに」
「南の諸国が騒がしい、という理由も納得する国民は少ないでしょうね」
それはそうだろう。
この敷地に囚われてるイリスでさえ、そんなのは建前だと思っている。
国全体がおかしくなる中で……クリフォードとエランは何かをしようとしていた。
「ルミエ様、私……とても嫌な予感がするんです」
「そうね、私もするわ。クリフォードはいつも何かに耐えている子だけど……」
ルミエもクリフォードのことを見ていた、とイリスは思った。
忍耐、それこそがクリフォードがずっと強いられてきたことだからだ。
「イリス、殿下が会いに来たのはあなたなら――クリフォードを変えられるから、じゃないかしら」
「……私が」
「クリフォードは忍耐が過ぎて、それを自分への罰だと思っている。思い込もうとしている。あの子に責任なんてないのに」
肩で笑うルミエはどことなく寂しげであった。
「もし罪があるとすれば、それは大人の……私たちのほうなのに。彼はもう十分に背負っている」
「ルミエ様……」
イリスはルミエを心強く思った。
彼女はやはり色々なものを見て、しかもイリスと同じように見ていた。
エランで無理ならば、クリフォードを変えられるのは多分イリスとアシャだけだろう。
「……わかりました」
イリスは頷く。
エランはもうひとつの手がかりを残した。
雪。それが恐らく何らかの――エランとクリフォードの計画の実行日だ。
それは奇妙にもとても静かな日になるはずで、イリスの考えている脱出決行日でもある。
「きゅー」
ミラが首を傾げる。
そのふかふかな背中をイリスは撫でた。
単に逃げるだけではない。
イリスに会いに来ないクリフォードへ、会わなくては。
(あれが最後だなんて、クリフォード……!)
その次のことは、彼に会ってからだ。
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