37.己の罪をもって
「各々の懸念は承知しております。今の国家財政にご不安があるのでしょう?」
クリフォードの言葉に商人たちは……頷かなかった。
そこまで迂闊な人間はやはりいない。
無論、内心は違う。
ここにいるのは才覚ある人物ばかりだ。
国王陛下のおこぼれで美味しい思いをしていても、それがどのような結果に繋がるかわかっていないはずはない。
(まして、俺の前ならな)
「もちろん財政の不足はあってはならないこと。我が父もその点については、きちんと考えております」
「ほ、ほう? どのような?」
商人たちがクリフォードの言葉を聞き漏らすまいと前のめりになる。
そう、わざわざ意見を聞くためだけにこれだけの人を集めるわけがない。
内々のナニカがあるはず……それにクリフォードは触れたのだ。
「実は、商取引にかかる税を見直そうかと」
「……どのようにでしょうか?」
顎髭の商人長が重々しく尋ねる。
「今より5%ほど上げれば、財政への不安もなくなるかと」
それは増税の宣言にも等しい。
ここにいるすべての商人へと降りかかる天災のような話であった
あまりのことに商人たちが顔を見合わせ、口々に話し始める。
「そ、それはいつから!?」
「やっと北が落ち着いたと思ったら、さらなる負担ですと……!」
「国民も疲弊しております!」
騒々しくなる会議室で言葉を聞きつつ、クリフォードは静かに意識を集中する。
人にも当然、匂いがある。
他の人間は気にもしないだろうが、人間も無意識に左右されて、反映される。
そして焦り、不満、怒り……ストレスは判別しやすい。
クリフォードは自身の魔法と観察力で反応を見抜くことができる。
(……数人は本当に不満を持っているな)
顎髭の商人長とティリル、その周囲は本気でクリフォードの宣言にストレスを感じているようだった。
この者たちなら、エランの接触も無駄にはならないだろう。
商人の言葉を聞きながら、クリフォードは明るく話す。
「ご懸念は承知しております。しかし、状況が落ち着いた今だからこそ余裕のある財政を構築しなければなりません。負担は重きものですが、後回しにすればより大きな痛みを伴いましょう……」
自分で言っていて、吐き気がする。
要は増税を飲め。
それ以外に中身のない言葉だからだ。
しかもローンダイト王が放蕩三昧なのは、ここにいる全員が知っていた。
当然、こんなことをしていけば反感が広まるばかりだろう。
今のローンダイト王とその側近は気にしないだろうが。
(これでいい。俺は大公の子として振る舞う。そして人物を見つけ出し、エラン殿下へ知らせる……)
憎まれても構わない。
敵味方を見分ける最良の方法は、自分が敵になることだ。
そうすればエランの側に立つ人間は明白になる。
(悪いな、エラン。お前は反対していたがやはりこれが最短なんだ)
このやり方をエランは決して望まなかった。
だが、事を早めるには有効だ。
その行く末の最期にどうなるかなど、クリフォードは気にしていなかった。
許しなどない。許されようとも思わない。
大公の息子として。
自分だけがこのように振る舞えるのだから。
ただ、正義だけがなされれば、クリフォードは満足だった。
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