35.雪が降り始めて
「きゅうきゅう、きゅー」
「えーと……渋みが強くて癖があるけど嫌いじゃない?」
ミラはその後、何回も紅茶を飲ませるようせがんでくる。
正直、イリスの舌には合わない紅茶なので……ミラが飲んでくれるなら、大歓迎だった。
「……きゅ」
しかし飲むたびにきゅっと顔をしかめるのは、渋いからか。
「あの、無理はしなくてもいいんだよ?」
「きゅうん」
コーヒーのようなものだから、大丈夫! らしい。
いや、これは紅茶なのだけど。
しかし高級コーヒーにも渋みの強い品種はある。
もちろんエスプレッソという飲み方もあるのだし。
というわけでミラは美味しく紅茶を飲み切ってくれた。
が、イリス自身はこの紅茶での商売は厳しそうだと考える。
「きゅー」
ふきのとうみたいなのも大好きです。
ミラは普段から葉っぱをたくさん食べる。なので苦みには強いのだろう。
ミラを愛でながら冬の日々が過ぎていく。
前回クリフォードと会ってから、早くも2週間。
彼は姿を見せてくれない。
不安になる気持ちはあるのだが、彼は彼で仕事が忙しい……はずだ。
(そうよ、ここ最近が会えていただけで)
直近の数年、クリフォードは北の備えとして公務に励んでいた。
その時も手紙はくれたりしたのだが、顔を会わせる機会はごく少なかった。
王都に戻り、きっと別の公務を仰せつかったのだろう。
(そうよ、きっと……)
イリスは会えない日々になんとか理由付けを試みる。
「きゅうんー」
その日、窓の外にはぱらぱらと小雪が降り始めていた。
今年最初の雪だ。
ミラは窓ガラスにむににーっと顔を押し付けている。
もしかして雪に触れ合いたいのだろうか。
イリスは窓側に歩いていき、ミラの背中にほんのかるーく顎を乗せる。
ほわっと温かい……。
「雪を見たいの? 窓を開けよっか?」
「きゅっ」
ミラがぶるんと首を横に振る。
寒いのでそれは嫌らしい。
この屋敷には暖房も冷房もある。
今もガス式(多分、そのはずだ)の暖房がフル稼働していた。
室内は暖かいが、外気温との差はきっと物凄いに違いない。
「……今年は寒くなりそうなのかな?」
ふにふにと鼻を動かしたミラが頷く。
「きゅっ!」
かなり雪降る冬になるかもです。と言っている気がする。
「…………」
手元の資金は思ったよりも貯まってきている。
ティリルはかなりの商売上手で、毎回ちゃんとバニラビーンズを売り切るらしいからだ。
(この分だと春までに、目標の金額まで到達できるかも……)
お金が手元にあると色々考える。
イリスはちらりと部屋の金庫に目を向けた。
この大公家の屋敷を脱出するための資金。具体的な計画。決行日。
「警備の動きもだいたい、把握できたし……」
毎日の散歩で警備の巡回ルートと要注意ポイントは把握できた。
どれくらいの頻度で見直しがあるかわからないが、脱走ルートの構築は可能だ。
(……しかも雪)
雪は音を消して、白く塗り潰す。
防寒対策をすれば脱出するのに、好都合なのではなかろうか。
「ごくっ」
手が少し震えてくる。
逃げ出す構想が現実味を帯びてきていた。
それがわかってきてしまう。
(……クリフォード)
彼と会ってどうするのか。
彼もイリスのことは察しているようにも思えるのだが。
わからない。
だけど、今のイリスにとって重要なのは自由になることだ。
雪はまだ小粒で、地面はまだ温かくて積もる気配はない。
しかし、この雪が積もったら。
その時は……この屋敷から抜け出す絶好の好機なのは、間違いない。
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