33.最後の抱擁
イリスの様子があまりにいじらしくて、クリフォードの頭はどうにかなりそうだった。
彼女はいつもそうだ。
自分の魔法で人を幸せにできればと願っていた。
クリフォードは知っている。イリスが自分の魔法を使って、資金を稼ごうとしていると。
そう知らせてくれてのは、エランだった。
彼は北の諸国にも幅広い人脈を持っている。
(恐らくは……父の第二夫人ルミエの線か)
ルミエは大公家にあって、真面目で芯がある。
正直、クリフォードはルミエとは難しい関係にあるので、すんなりと手放しで称賛はできないが。
イリスの魔法は悪用しようと思えば、恐ろしいことが起きる。
なぜならトリカブトのような毒性植物やケシなども量産できてしまうのだ。
(……しかし、彼女が選んだのはバニラか)
それこそが彼女らしいと思った。
自分も苦境にあるはずなのに、他人を喜ばせる植物を生み出そうとする。
(対して俺は――)
クリフォードは自覚していた。卑怯にもまだ真実を告げられないでいる。
恐ろしい。
彼女が離れてしまうのが。
耐えられない。
彼女の優しさにつけ込んでしまうのが。
イリスがふっとクリフォードに少し寄って、顔を見上げる。
「……次はいつ来れそう?」
「近いうちには、必ず」
言って、クリフォードはイリスを抱きしめた。
それは衝動的だった。
「ん……」
イリスは逆らいもせず、クリフォードの抱擁を受け入れた。
そっと――クリフォードの背中に腕を回す。
「あの頃みたいだね」
子どもの頃、クリフォードとイリスは寂しかった。
イリスの母はローンダイト王国から去って、クリフォードの母も心を壊していた。
泣きそうな時は……こうして誰にも言わずに、お互いを慰め合っていた。
切り株のすぐ横で、日の当たらない庭の隅っこで。
「今の俺たちもあの頃と変わらないのかもな」
クリフォードが自嘲気味に呟く。
大人の都合に振り回され、狂気の世界に足を踏み入れる。
家族でさえも愛することができない、そんなふたり。
「かもね」
イリスの言葉は祈りのように聞こえた。
彼女が何をしようと邪魔をする権利などない。
クリフォードはもう、イリスからたくさんの物を受け取った。
できるのは恩返しだけだ。
「4か月……いや、3か月待ってくれ」
「え?」
それ以上クリフォードは伝えられなかった。
エランと進める謀議。
悪ではない――これは正義のはず。
しかしその過程で血は流れるだろう。無血とはいかない。
「クリフォード……?」
不安げな声を出すイリスからクリフォードは離れた。
「君と一緒にいると勇気をもらえる」
「……うん」
イリスが微笑もうとする。
「じゃあ、また今度ね」
「ああ――必ず」
これにて第3章終了です!
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