31.プリンとお礼
自分の魔法で生まれたバニラ。
それを惜しげもなく、最高の技術で使ってもらったプリン。
漆黒のカラメルソースと一緒に、イリスは口へと入れる。
まず感じたのは焦げ付いた砂糖の甘さ。カラメルソースだ。
そこから卵と牛乳、プリン本体の味わいが重層的にやってくる。
それらを優しく包むのがバニラの芳醇さだ。
「んんっ……」
目を閉じて天井に顔を向ける。
卵も牛乳も砂糖も、どれも間違いなく味の濃い一級品。
ともすればバラバラになりそうなくらいだけれど、そこはクリフォード。
「……美味しい」
浸っていたい。
バニラでまとまってくれた、固めのプリン。
前世でも今の人生でも。
こんなに美味しいプリンは食べたことがないレベルだ。
しばらくじんわりプリンを味わっていると、グラタンを食べ切ったミラがイリスの服の裾を前脚で掴んだ。
「きゅっ!」
「あっ、ミラも食べたいよね?」
こくこくと頷くミラ。
ミラはグラタンがかなりお気入りだったので、たっぷり時間をかけていた。
その間にイリスはプリンへと移行したわけだけど、ミラも追いついてきたのだ。
プリンはきっちり大きめのが3個あるので問題ない。
ミラ用の小さめスプーンでさくっとすくい取り、ミラにも食べてもらう。
スプーンを顔先に寄せると、ミラが顔をぎゅっと引き締めた。
「……きゅ」
「なんて?」
「『気合いれて食べます』みたいな……」
ミラの言っていることがなんとなくイリスにはわかる。
今の顔はそんな顔だ。
正確には『結構本当に満足しつつあるけれど、しかしこの人の料理はめっちゃ美味しいので期待して食べます』くらいだけど。
長すぎるのでイリスは要約した。
「ふきゅー!」
ミラもプリンは気に入ってくれたようで、ぶるぶると天井を見ながら震えている。
「……きゅ」
「あはは、イリスと同じ反応だね」
「?!」
いや、さすがにここまででは……と思ったが、否定できない。
そんな可能性も大いにある。
「きゅっ!」
「およ?」
プリンを堪能したミラが、とことことクリフォード用のデザートスプーンへと這っていく。
そしてきゅむっと。
両前脚でスプーンを器用に掴むと、クリフォードのプリンをすくい取った。
そしてクリフォードへとプリンの乗ったスプーンを掲げる。
……ちょっとぷるぷる震えているが。
それでもミラの意図ははっきりしている。
お礼に食べさせてあげる算段らしい。
「ありがとう、ミラ。頂くよ」
クリフォードはミラのお礼ににっこり笑い、背を屈める。
というのもクリフォードは身長が190センチ近い。
ミラの差し出したスプーンでは到底届いていないのだ。
ミラへの感謝を示すように、クリフォードはじっくりミラを見つめながら……プリンを食べる。
「んっ、ふふっ……これも美味しくできた」
「きゅい!」
微笑ましい光景にイリスもほっこりする。
しかし、ミラの『お礼』はそこで終わらなかった。
「きゅーい!」
「え? 私?」
「きゅ、きゅー!」
ミラがスプーンを持って、とととーっとイリスの元にくる。
そしてミラはスプーンを持ちながら一緒にはむっとイリスの服を前脚で掴んで――。
目的のわからない行動にクリフォードは小首を傾げる。
「ミラは何をしようとしてるんだい?」
「……えーと」
わかってしまった。
イリスはミラの行動の意図を察した。
ミラはイリスもクリフォードに食べさせるよう言っているのだ。
(ミラが食べさせるのと、私が食べさせるのでは……結構な違いがあるんじゃない!?)
そんなイリスの考えとは裏腹に、ミラは決意を秘めていた。
「きゅっ」
一緒にお礼をしませう、と。
そこには抗えない説得力があった。
まぁ、簡単に言ってしまうと。イリスもほぼ食べていただけなので……。
バニラへの貢献度も、イリスとミラはほぼ同じようなものであった。
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