3.クリフォード
イリスにとって公爵家の食事はいつも寂しいものだった。
家族の誰もイリスと一緒に食べてくれないからだ。
だから、クリフォードが席に座ってくれたことをイリスはとても嬉しく思う。
早速、イリスは用意された料理を食べ始める。
まずはローストビーフから。タマネギの炒めたソースが絡んだローストビーフを口へと運ぶ。
「んん~っ!」
じゅわっとした辛味と熟成された肉の旨味。
こんなに美味しい料理はクリフォードにしか作れない。
噛むごとに肉の味が染みて口内に踊る。
空きすぎた腹が少し満たされ、頭の中に多幸感が押し寄せる。
「いい牛肉だっから時間を置いて、料理したんだ。……口に合うか?」
「うん、もっと食べたくなっちゃう」
イリスはフォークを動かし、ローストビーフを頬張る。
他にもふっくらとした、温かなパンを切り分けて――イリスは口に運ぶ。
小麦粉の強い味にバターが練り込まれ、外はさくっと……中はふわふわだった。
(前世の記憶と比べても、本当に美味しい……っ!)
優雅な表参道にクリフォードのパンが置かれてても、きっと話題になって売れるだろう。
イリスが食べているこのパンはそこまでのパンであった。
幸せに浸っていると、レイリアが目を拭っているのに気が付く。
目に埃でも入ったのだろうか。
確かに屋敷自体はきちんとしているが、やや古びている。調度品も少なく、手をかけた様子はない。
(古い屋敷を慌てて私のために綺麗にした……とか?)
もぐもぐ。口を動かすのを止めないまま、イリスが思考を続ける。
(掃除も大変よね……。私が住む場所でもあるし、あとで私も手伝おうかしら)
ここに来てから、イリスは何をせよとかは聞いていない。まぁ、こんな16歳の妾にやらせる仕事もないだろうが。
大公は現国王のお気に入りで、多忙を極めるはず。昼間は……恐らくイリスも暇だろう。
(とりあえず――色々とやっていかないとね)
自分の人生は自分でなんとかする。掃除もまず、その一歩と思おう。
いつもは少量の食事で満足してしまうイリスだが、今日はかなりの量を腹に入れられる。
最後に残るフルーツタルトも、難なく食べ切れそうだ。
艶あるキャラメルでコーティングされた、季節のフルーツ。ブドウと桃、それに合間にブルーベリーだろうか。
紫と白のコントラストが美しい。
ナイフを走らせると、ざくっとした手応えですぐ切れる。
(うーん、チーズの香り……)
どうやらフルーツの下はレアチーズが敷かれているようだ。
味に期待して、フルーツタルトを食べ始める。
「んー……最高……」
濃厚なチーズのもちもちとした味わい。そこに負けないようキャラメリゼしたフルーツ。
ブドウとブルーベリーの織りなす計算され尽くした酸味。
重層的なデザートの奥底に、彩りを添える桃……完璧だった。
甘味は人生を豊かにする。
心の底からクリフォードに感謝しつつ、残さずフルーツタルトを食べ尽くす。
「ご馳走様でした」
「……食べ切れたようで良かった」
クリフォードのほうもきちんと食べたようだ。
気にできなかったが……あまりに空腹だったので許して欲しい。
食事が終わり、皿が片付けられると……さてどうしたものかとイリスは思った。
何から話すのがいいのだろうか。
……自分の身の上は話題にしづらい。昨夜のことはアンタッチャブルにして欲しいし。
無難なところで、クリフォードの仕事のことから聞いてみることにする。
そもそもがクリフォードは王国一の騎士であり、かなり忙しいはず。
それがこんな午前から料理を作ってくれることのほうが異例なのだ。
「クリフォード、お仕事のほうはいいの?」
「ああ、しばらくは――北の油断ならない国も大人しいと報告があった。王都に移る」
イリスたちの住まう王国は、北側に非友好的な国を多く抱える。
なのでクリフォードも北の勤務が多い。それが多少、情勢が変わったらしい。
「配置換えということ?」
「そう思ってもらって構わない。君のそばにいられる」
クリフォードのエメラルドめいた瞳がイリスを映す。
そこにはある種の決意がはっきりと浮かんでいた。
父である大公の思い通りにはさせない、と。
(そこまで抱え込む必要はないと思うけど――)
しかしクリフォードは昔から、このような人間だった。自分のことでもない責任も感じる男なのだ。
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