23.王弟と騎士
きらびやかな照明、派手な楽団の奏でる音楽、令嬢の視線を抜けてやってきたのは閑静なテラスだった。
クリフォードは集中を傾けて、周囲を探る。
樹木と自然の良い香り。
クリフォードとエラン以外に人の匂いはしない。
「他の人はいません、殿下」
「ありがとう。君の力はやっぱり便利だね」
やや薄汚れ、傾きかけた椅子のホコリを払い、エランが座る。
「君が来て、令嬢が色めき立っていたのが離れていてもわかったよ」
「あんなのは……殿下、何も知らないだけです」
憮然として答えながら、クリフォードがエランの対面に座る。
「国の大事も、本当の苦労も……」
「まぁ、そうだろうけれど。彼らのような人々の支持も無視できない。我々がやろうとしていることからすると……ね」
エランの目つきが鋭くなり、クリフォードをじっと見つめる。
「有力貴族への根回しは進んでいる。やはり兄への反感はかなり大きいようだ」
「でしょうね」
ローンダイト国王は日中から酒浸り。さらに、そばにいるのがアデス公爵とレインドット大公だ。
これで支持を繋ぎ止めるなど、不可能だろう。
「とはいえ、王都は近衛軍とレインドット大公の軍がしっかりと守っている。実力行使は容易ではない」
ローンダイトは国防費を削り、遊興費に回している。
陛下は国を良くしたいという気持ちも、自分を良く見せたいという気持ちもないようだ。
近衛軍まで削るのは警戒心のなさか、厭世的なのか。
しかしレインドット大公は別で、享楽的ながらも油断はしていない。
(……まぁ、真実を見抜く眼力は衰えているが)
「では、陛下の宴席に招かれるメンバーが最終的な壁ということですか」
「そうなるだろうね。反感を買っている連中だ……」
クリフォードは静かにその話を聞いていた。
そして、その中に自分も含まれていると感じる。
例え功績があっても。あの大公の息子というのは軽くない。
「私のことは伏せているので?」
「……まだ、ね。君は切り札だ。どこに大公のスパイがいるか」
エランは慎重に事を運びたいようだ。
確かにそのほうがいいだろう。
いざクーデターを起こすとしても、日和見する貴族が相当出る。
それがわかっていても、クリフォードは……身を乗り出した。
「私はなるべく早く進めて頂きたく思います」
「……クリフォード」
「お知らせした通り、父はもう殿下に疑念を持っている。先手を打たれたら……っ」
イリスを解き放ち、自由にする。
それが今のクリフォードのすべてだ。
そのために自分がどうなっても構わない。ただ、イリスだけは自由になって欲しかった。
「らしくないね。焦っているのか」
「焦りもする……! 彼女を……」
凄みを帯びたクリフォードが拳を握り、冷静になろうとする。
彼女への罪を贖うには。
死に場所が必要だ。
そこでエランがテーブルの上にあるクリフォードの手を取った。
「……わかっている」
エランもクリフォードとは子どもの頃からの付き合いだ。
アシャのことも知っている――王都の郊外にある、あの家を紹介したのはエランだからだ。
アシャ、イリス。
クリフォードは常に抑制を求められてきた。そうしなければならなかった。
「君の言う通りだ。大公がすでに動いているのはこちらには不利。できる限り、急ごう――この国を救うため」
「すまん、エラン」
クリフォードが顔を伏せる。
エランの冷静さがクリフォードの気持ちを落ち着かせた。
「気にするな。無理もない……」
そこでクリフォードはエランの手が震えていることに気が付いた。
「俺も心の中では煮えたぎっている。計画を早めよう。そのための機会もありそうだ――」
「機会?」
「イリスだ。……彼女も動いているらしい」
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