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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-3 平穏な日々を、ウサギと一緒に

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18.ミナ・ティリル

 ルミエが後ろから呆れたような声を出す。


「ティリル、イリスが引いているわよ」

「あっ、ああっ! す、すみません……」

「い、いえいえ」


 女性が手をぱっと離し、後ろに下がる。

 所作は貴族らしくないが、動きには気品が漂う。服の材質もとても良い。


「紹介するわね。彼女がティリル商会の長、ミナ・ティリルよ」

「どうかお見知り置きを。ティリル侯爵の出になります。いや、まぁ……どうかティリルと呼んで頂ければ」


 ティリル侯爵家は今のローンダイト王家に対して、距離を置いている。


 王宮の乱痴気騒ぎには加わらない貴族だ。


(反対派、というほどではないけれど……中立的だったかな?)


 元々、ティリル家は大商人だった。 

 それが建国時に王家へ多額の資金援助を行い、叙爵されたはず。


「アデス公爵家のイリスと申します。こちらこそ、どうか宜しくお願いいたします」

「これでも商会長なのよね、ミナが」

「まぁ、まぁ……運良く。たまたまですよ」


 なんと、このティリルが商会長。

 だとするとかなりの財力を持っていることになる。


「お若いのに重責を担っておられるんですね」

「そうなんですよ、わかって頂けます? 目がちょっと良いからって」


 ティリルが自分の目のすぐ下に指を当てる。


 イリスが少しだけ集中を傾けると、ティリルの目に魔力が宿っているのがわかる。


「……目に関する魔法でしょうか?」

「素晴らしい、そこまでわかるとは」


 イリスの指摘にティリルがふんふんと頷く。


「まぁ、この魔法で『ティリル』の名前を継ぐことになりまして。いえ、爵位としての侯爵は兄なのですが。私は商会の代表としてのティリルということで――」

「相変わらず話が長いわ」


 ルミエがばっさりと切る。

 彼女はいつの間にか、広間の椅子に座って紅茶を楽しんでいた。


「ごめんなさい。ティリルはものすごくお喋りなの。全部に反応しなくていいからね」

「そんなー!」


 ルミエに続き、イリスとティリルも席につく。

 はぁ、と一息紅茶を飲んで。


「それで……私を呼びましたのは?」


 口火を切ったのはティリルだった。

 

「イリスの力になってあげて欲しいと思ってね」

「ほうほう……」


 イリスはティリル商会のことを伝聞でしか知らない。

 だが、ティリル商会こそイリスが求めていたものだ。


 なぜなら――。


「ティリル商会は食材の輸出入を手掛けておられると聞きます。私の力がお役に立つかと」

「……イリス様の?」


 おや、とイリスは思った。

 この反応は……イリスの魔法を知らない反応だ。


 ルミエが紅茶をすする。


「あなたの許可なしに、あなたの魔法について話すわけにはいかないから。詳細は伏せているわ」


 ティリルもルミエに頷く。


「かくいう私も、神官様や伝聞でイリス様の魔力についてだけ聞いていたので……。どのような魔法をお持ちで?」


 なるほど、イリスの魔力だけ知っていたのか。


 確かにイリスの魔法は「役立たず」としてアデス公爵は評価していなかった。

 だから知られていないのかも。

 

「では、実践しますね」


 イリスはゼラニウムの種をレイリアに持ってきてもらい、手に乗せた。


 先日、咲かせたのと同じ種類なので……成長させるのは容易だ。


 あっという間に可愛らしいピンクのミニサイズのゼラニウムが手のひらの上に現れる。


 それを見て、ティリルがガタガタっと席を立った。


「ま、まさか!? そんな……っ!」


 父であるアデス公爵やキャロルとは全然違う反応だ。

 

(よし、まずは第一関門突破……!!)


「そんな、種から? 植物に作用する魔法ですか? しかもこんなに早く……」

「やっぱり凄い魔法なのね」


 ルミエがクッキーに手を伸ばしながら、ゼラニウムを見つめる。


「貴族で魔力持ちはそう、多くないし……大半の貴族は魔法を評価しないけれど」

「物質に直接効果のあるような魔法は……希少ですからね。それに……貴族は魔法を重視したくないようで」


 ティリルが後半言い淀んだのだが、その話は初めて聞いた。


「そうなのですか?」

「この世界における魔法は、血筋に関係なく目覚めます。イリス様もそうでしょう、近親者に魔力持ちはいないはずです」


 言われてみれば、そうだ。

 イリスもクリフォードも他の身内には魔力持ちがいない。


(なるほど、貴族制を揺るがすかもだから……)


 今まで違和感のあった部分が、商人であるティリルから明言されて、腑に落ちる。


 アデス公爵がイリスを遠ざけたのは、本能的な恐れもありそうだ。


 だからといって、された仕打ちに納得はしないが。


「しかし、ここまで物質に作用するとは……これならいくらでも御力(おちから)になれそうですが」


 こほんと咳払いしたティリルがゼラニウムの花びらに触れる。


「……イリス様はこの力をどうしようと?」


 そこだ。問題はここから何をして、ティリルの力を借りるのか。


 この数日、イリスは考えて考えて――ひとつの結論を出していた。 


 ティリルを見つめてイリスははっきりと言った。


「私の魔法でバニラを生み出せば、大きな利益になるのではないかと」

「……バニラ?」


 ルミエが「バニラ」という単語がわからず、首を傾げる。


 そう、この世界ではまだほとんどバニラは使われていないのだ。

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