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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-3 平穏な日々を、ウサギと一緒に

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17.クリフォードの悔恨、イリスの日常

 イリスの優しさが、痛い。

 身を裂かれんばかりに痛い。


 どうして彼女はここまで人に優しくできるのだろうか。

 

 なぜ大公の息子である自分に優しくできるのだろうか。


(今、ここですべてを明らかにしたら――)


 クリフォードが作った、トマトソースたっぷりなパスタを頬張るイリス。


 本当に美味しそうに食べてくれる彼女に、真実を明らかにすることはできなかった。


(俺は卑怯者だ)


 父からイリスを抱くように言われて、そして今日も。


 彼女を連れて逃げようかと思ったことは何度もある。


 だが、できなかった。

 アシャがいるからだ。


 あの家の前、アシャの状態は本当に良くなかった……あの場所はようやく見つけた安らぎの場所なのだ。


 他の国に良い場所などあるだろうか。


 アシャとイリスを連れて、上手くいく可能性などほとんどない。

 それがクリフォードの判断だった。


(――それにそんなことをイリスに求めて、彼女を動かして。それでは父と何も変わらない)


 父は人を思いのままにする技術に長けていた。

 今の状況もそうだ……。


 だから、クリフォードにできることはイリスを安らかにすることだけ。


 卑怯で、臆病。


 いっそ腰に下げた剣に身を投げて、この身を自分で切り裂ければ良かったのに。


 イリスの優しさが、今のクリフォードには――ひたすら痛かった。



 対するイリスはそんなクリフォードの想いを知ることなく。

 美味しく彼の料理を味わった。


 クリフォードはいつもイリスを甘やかしてくれるけれど、近頃の彼はさらに良くない方向に向かっているような気がする。


(……でも私には何もできないし)


 せめてと思って。


 彼の帰り際、イリスは魔法でパンジーの花を咲かせる。

 

 これはアシャのための花でもあるけれど、彼のための花でもある。


 レインドット大公はクリフォードを決して甘やかさず、優秀な道具として扱ってきた。


 今もきっとそうだ。


 だから、イリスは花を捧げる。

 せめて自分と会った日の夜は、心穏やかにいられますようにと。


 寝支度を整えたイリスがベッドに入り込む。


「ふきゅ」


 イリスの枕の隣にはミラもいた。

 出会った日から隣同士で寝ているのだ。


「きゅー……」

「うん、おやすみ」


 ミラのふにっと垂れた耳、ほわほわの顔を見ながら、イリスは眠りにつく。


 明日はルミエに呼ばれて、2回目のお茶会だ。


 そこでティリル商会の人と会うのだ。


(頑張らないとね……!)


 前向きに、粛々と。

 ひとつひとつ、やっていこう。


 翌日、秋晴れの下をイリスとミラ、レイリアは歩く。


 目的地はルミエの屋敷。

 イリスはなるべく遅く、嫌そうに歩く。


「うっ、うう……」


 これはルミエとの仲を疑われないための細工。

 ルミエとイリスの仲は良いと思われないほうが好都合だからだ。


(ちらっ)


 警備の人間と数回、すれ違う。


 顔に表情はないがイリスたちをしっかり視認している。


 レイリアによると、各夫人のメイドや執事は主たる夫人の味方。


 だが、警備の人間は大公の直轄でどの夫人の指揮下にもない。


(壁にも監視塔があるしね……)


 この数日、敷地内を見聞してわかったのは思ったより遥かに警備が厳しいということ。


 広大な敷地には警備の詰め所が点在し、壁には監視塔がいくつもある。

 

 出入り可能なのは2か所の門だけで、当然のことながら門の周囲の警備はさらに厳しい。


(……無線もあるようだし)


 まだこの世界では一般的でないはずの通信機器も、大公は警備に使っていた。


 だからこそ、演技は大切だ。

 今のイリスはルミエに絞られるに行く、かわいそうな公爵令嬢……。


「うっ、うっ……」


 警備が完全に見えなくなって、少しだけ演技を弱める。


「……きゅ」


 鞄の中のミラが鳴く。

『うーん、演技としてはあんまり……』と言っていた。


 厳しい。

 大根役者なのは許して欲しかった。


 というわけで、ルミエの屋敷に到着する。


 案内されたのはちょっとした広間だ。


 今日のルミエは眼鏡をかけていないが――これも演技。いつもレイリアの眼鏡をかけては疑われるから。


 で、ルミエの隣にひとりの女性がいた。


 彼女がティリル商会の人だろうか。

 快活そうな長身、強めの赤みを帯びた金髪……年齢はルミエと同じくらいだろうか。


「おおっ、あなたがイリス様ですねっ!」


 イリスが部屋に入るなり、その女性はだだーっと走り寄って、イリスの手を興奮気味に握った。


「王国一の魔力をお持ちとか! いや、確かに! これは……す、すごいっ!!」


 そこでイリスは気が付いた。

 目の前の彼女も、魔力持ちだ。

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