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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-3 平穏な日々を、ウサギと一緒に

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16.イリスの日常

 レイリアにどこまでの意図があったかどうか。


 (つる)であることは重要だ。


 イリスの花の魔法は活かすことはできるけれど、枯らす力はない。


 一度、影響させてしまった植物はそのままなのだ。


 敷地内は壁に囲まれているが、突破自体は今のイリスにもできる。


(壁を乗り越えるだけなら、木を生やすとかで可能でしょうけれど)


 しかし、大木を生やせば遠くからわかるし、証拠品を残してしまう。


 蔓ならそういった危険はかなり少なくなるのではないか。

 そこまでレイリアは考えたのでは……?


「ありがとう、レイリア」

「いえ――お嬢様の可能性のひとつになればと思いましただけで」

「十分よ。蔓は思った以上に伸ばせるし……自由にもできるわね」


 イリスが魔力を込めると、蔦がにゅにゅにゅーっと伸びる。


 伸ばしていく先は……こちらをきらきらと見つめていたミラ。

 

「きゅっ!」

「これも食べられる?」


 イリスが問うとミラはふんふんとアサガオの蔓にかじりついた。


「もっきゅ!」


 はむはむはむ……。

 ものすごい勢いで蔓を吸い込み、どんどん食べていく。


 ミラの食欲はかなりの底なしだ。

 イリスの魔法で生み出した花や植物が体積以上に入っていくのだから。


(まぁ、証拠隠滅も兼ねてるんだけど!)


 イリスが何をしているのか。


 生み出した植物を屋敷の外で処分するよりも、ミラに食べてもらったほうが良い。


 けぷ、と長い時間をかけてミラがアサガオを食べ切った。


「ありがとうね、ミラ」

「きゅい!」


 ミラはとても満足したみたいだ。





 その日の夜。

 イリスの屋敷にクリフォードがふらりと訪れた。


「困ったことはないか?」

「うん、今のところは大丈夫」


 騎士服を脱いだクリフォードはエプロンをつけて、料理を始める。


 もちろん黙って待っているわけにも行かず、イリスもキッチンにいた。


(クリフォードは絶対に手伝わせてくれないし)


 昔からクリフォードは料理にこだわりがある。イリスが手伝おうとするのを断固拒否するのだ。


 なので、イリスはせめてキッチンにいることが多い……。


 包丁で華麗に野菜や肉を切るクリフォードをじっと見つめる。


「なんか良くないことがあった?」


 キッチンにはふたりしかいない。

 だからイリスは率直に聞いた。


「……どういう話だ?」

「包丁さばきを見ての話」


 クリフォードの本心を読み取るのはとても難しい。嘘が上手い。


 だけど、その中で包丁を使っている時だけは――なんとなく、わかる。


 言葉には出来ない、微妙なブレ。全体のたたずまいで。


「君は本当に俺をよく見ているな」

「長い付き合いだから」


 クリフォードの端整な顔を見ながら、イリスは料理が出来上がるのを見守る。


「やっぱり、私のこと?」

「上手くやれているか、心配だ」

「それなら――本当に大丈夫」


 料理が出来上がる。


 今日はミネストローネとパスタ。

 それにちょっとしたステーキだ。


 屋敷のキッチンは広く、ちょっとしたテーブルもある。


 子どもの頃は出来立てをキッチンで食べることも多かった。


「ねぇ、ここで食べようよ」


 広間に戻って食べると、クリフォードの本音がわからなくなる気がして。

 

 イリスは椅子を掴んで、アピールした。


 クリフォードは眉を寄せたが、そのままナイフとフォークを用意して食べる体勢を整えてくれる。


(オッケー、ということよね)


 並べられた料理。イリスの隣にはクリフォードが座って。


 クリフォードは傷ついている、とイリスは思った。

 自分がここにいることが、彼に対する――傷になっている。


 だから、イリスは少し踏み出した。


 腕を広げて、クリフォードの腰に抱きついたのだ。


「……っ!」


 クリフォードは驚いたが、逃げなかった。


「私がここにいることは、クリフォードのせいじゃないから」


 彼のたくましい身体の奥から、鼓動が伝わってくる。

 

 クリフォードは本当に自分へ良くしてくれている。

 それに報いたかった。


「そんな、俺は――」

「私はクリフォードと会えるだけで、救われてるよ?」

「違うんだ、俺は……っ!」


 クリフォードは苦しんでいた。


 そう、彼は常に忠実だった。

 親に対しても陛下に対しても。


 でもその内面は違うとイリスは知っていた。


 本当の彼は壊れやすくて、傷つきやすい。思い詰めてしまう人だ。


 今も自分のことで壊れてしまいそうなのが、わかっていた。


「気にしないで。本当に。ね、冷めてしまうから食べましょう?」


 クリフォードから離れ、イリスは料理に向き合った。


「……ああ」


 クリフォードから苦痛の色が隠され、消える。


 それからはふたりで料理を分けて、食べ合った。


 子どもの頃のように。貴族の礼儀なんか、忘れて。


 それはとてもとても楽しい食事だった。

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