15.アサガオ
ルミエとのお茶会から、数日。
イリスは平穏無事に過ごしていた。
(大公の訪問もなく、放置……まぁ、そのほうがいいのだけれど)
テーブルにべたーっと顔をつけながら、寝そべるミラを愛でる。
公爵令嬢にあるまじき姿だけれど、許して欲しい。
ミラのふわふわボディーを間近で観察するのは、とても大切なことなのだ。
「ミラは本当にふかふかねぇ……」
「きゅー?」
数日、ミラと一緒にいてわかったこと。
まず本当にミラは魔力しか必要ないみたいだった。
具体的にはイリスが魔法で生み出した花、植物だけで大丈夫。
「……まさか水もいらないなんて」
「もきゅ……!」
お気遣いはむよーです。
ミラがふんふんと頷く。
生き物としてはどうなのかと思うが……。
あとはトイレなどもない。
うーん、魔力だけで生きているから……?
疑問は尽きないが、そのような生態であると認識するしかない。
イリスが人差し指をそーっとミラの目の前へ差し出す。
「きゅ」
もにゅ。ミラがイリスの指を右前脚でキャッチする。
深い意味はない。
遊んでいるだけ。
「んふふ〜……」
しかし可愛い。可愛すぎる……。
ミラと遊んでいると心が落ち着く。
とはいえミラは1日の半分、12時間ほど寝ている。
ミラの睡眠中、イリスは自分の魔法やら何やらの確認に費やしていた。
花の魔法のルールに見落としがないかの再確認だ。
と、ノックが鳴り、レイリアの声が部屋の外から聞こえる。
「お嬢様、よろしいでしょうか?」
イリスはしゅたっと背筋を伸ばし、淑女に早変わりする。
「……きゅ」
ミラが右前脚でイリスの髪の乱れを指摘する。
それも手ぐしで素早く修正し、イリスはレイリアに答える。
「大丈夫よ、入って」
レイリアは様々な植物の鉢植えやら種やらを調達してきていた。
今もレイリアは大きな鞄を持って、部屋のテーブルの上に乗せる。
「色々と手に入れて参りました」
「ありがとう、見てみるわね」
まず袋の中にあったのは、アサガオの小さな種であった。
前世でも見覚えのある、乾いた殻に包まれた種子だ。
「蔓はどうなのかと思いまして」
「なるほど……。蔓ね」
レイリアもイリスの魔法を見て、様々な視点からアイデアをくれる。
ありがたいことだ。
(植物の成長はある程度、コントロールできるけど……蔓までは考えたことがなかったわ)
イリスはこれまで、花に集中して魔法を使ってきた。
花を咲かせる魔法なのに、花を咲かせないでどうするのか……と。
しかし、今は色々な挑戦が必要だった。何が可能で何が不可能なのか。
(もう一度、ゼロから確認しないとね)
何が役に立つか、わからないし。
イリスはアサガオの種を手のひらに乗せて、じっと意識を傾ける。
少ししてわっとアサガオが芽吹いた。
ここから、これまでとは違う意識の傾け方をしてみる。
花ではなく、蔓のほう……伸ばして、伸ばして。
「すごいっ……!」
レイリアは何回見ても驚いてくれる。
ちょっと嬉しい。
アサガオは蔓だけをどんどん伸ばして伸ばしていく。
思ったよりもスムーズに蔓だけを成長させることができるようだ。
床にまで大いに蔓が伸びてから、イリスは魔法を止める。
「蔓も可能なようですね」
「ええ、そうね……アサガオの蔓は思ったよりも伸ばせるかも」
イリスの魔法では、通常サイズよりも大きく植物を成長させることはできない。
だが、アサガオの蔓は剪定することが前提になる。
アサガオを伸ばし放題にする人はいないわけだ。
(……だから蔓はかなり伸ばせるわけね。剪定しなかったサイズが基準になるから)
これをどう使うのか、という疑問はあるが。
しかし、こうした知識がいつか役に立つかもしれない。
と、そこでふとイリスは思った。
なぜ蔓性植物のアサガオをレイリアは持ってきたのか。
レイリアはレイリアで考えがあったはずだ。
イリスが蔓を手に取って束ねてみる。
かなりの丈夫さ。イリスの魔法は植物を活性化して、強くする――。
(これって……もしかしてロープ代わりになるのかしら?)
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