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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-2 花の魔法の可能性

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11.お節介

 ルミエがイリスにじろりと目を向ける。


「何を根拠に、そんなことを?」

「……不躾(ぶしつけ)なのは承知しております。私の勘違いでしたら申し訳ございません。ですが、見えるのなら私の手のひらに咲く花がおわかりになるはずです」

「…………」


 イリスは花の種類を言っていない。


 もちろん、見えていればミニサイズのヒマワリだとすぐわかるはずだ。


 しかし見えていなければ――ヒマワリは匂いがとても弱い。

 花のサイズも通常と違う以上、当てられないだろう。

 

(多分、完全に見えていないわけじゃない……。カップはきちんと手に持ってるし、私のほうも見てる)


 恐らくルミエは弱った視力を聴覚と嗅覚でカバーしているのだろう。


 だから紅茶の入ったカップは持って飲めるし、イリスのほうを向いて話ができる。


「ユリオプスデージー、じゃないの?」


 ルミエは匂いのしない、黄色くて秋に咲く花を答えた。

 

 推測材料から得られる解答としては満点だ。

 だが、違う。


 ルミエの背後にいるメイドが身じろぎした。


 イリスが静かに正解を述べながら、花をテーブルの上に置いた。


「……違います。これはヒマワリです」

「そんな小さなヒマワリがあるの? それに今は秋よ」

「私の魔法は、ミニサイズで花を咲かせることもできます。種や芽は必要になりますが、季節も関係ありません」


 イリスの答えを聞いて、ルミエは首を後ろに回した。


「ヒマワリなのね?」

「はい……奥様」


 ルミエのメイドが震える声で答える。それを聞いて、ルミエは首を戻して微笑んだ。


「今まで結構、長い間隠していたのにバレちゃったわね」


 目元を緩めたルミエは垂れ目になって、最初よりも遥かに可愛く見えた。

 これが本来の彼女の顔なのだろう。


 目を細めたり吊り上げたのは、視力のためだった。

 だが、隠す理由はわからない。


「なぜそんなことを?」

「ずっと前にとある人に殴られて、それから視力が悪くなったからよ」


 とある人。

 イリスが息を呑む。


 仮にも大公夫人のルミエを殴れる人間なんて、どんな人間なのか――そんなのはひとりだけだ。


 この敷地内でひとりだけ、そんな横暴を通せる人間をイリスは知っている。


 レインドット大公、その人。

 イリスがそこまで考えた時、ルミエがかすかに頷いた。


「だから医者にも言えないし、隠すしかなかったわ。眼鏡をかけてみても目の悪さに追いつかないし」

「多少、見えてはおられるんですよね?」

「ぼんやりと、ものすごく乱れた姿で。あなたの着ている服は黒よね。髪色はわからないけれど」


 完全に見えているわけではないが、相当に悪い。

 これでは日常生活にも支障が出るに決まっているが……やはりか。


 封筒からミントの香りがして、紅茶も強めの香りがするのは。


「……こんなことを話すことになるとは、思ってもみなかったわ」


 ルミエは話題を変えたいらしい。

 しかし、イリスはもっと……なんとかしたかった。


 もちろんそうする義理はない。

 きっと、今までの自分ならこんなにも首を突っ込まなかっただろう。


 だけどどうしてだろうか。

 今のイリスはかなりお節介だ。


(大公の被害者だから?)


 これは同情なのかもしれない。

 あるいは、魂の年齢でルミエが自分より年下だからだろうか。


 イリスはもう少しだけ、さらに踏み込むことにした。


「レイリア、あなたの眼鏡を貸してくれる?」

「は、はい……」


 レイリアは眼鏡をかけているのだが、かなりの度である。


 まぁ、現代人はだいたい目が悪い。

 なので眼鏡のガラスの厚みや光の曲がり方でおおよその見当がつく。


 レイリアから受け取った眼鏡を確認し、イリスはレイリアをじっと見る。


 レイリアが頷くのを確かめ、イリスはルミエへと眼鏡を差し出した。


「ルミエ様、この眼鏡をかけてもらえますか?」


 ずいっと、ずずいっと身を乗り出して。


 手を少しさまよわせたルミエにイリスは眼鏡を渡す。


「眼鏡を試さなかったと思う?」


 ルミエの声には失望がにじんでいた。

 もちろん試しただろうが、イリスは現代の知識とこの世界の両方の知識を持っている。


 この世界の眼鏡や眼科はまだ未発達。

 だがその中でもレイリアの眼鏡はとても高品質だ。


 恐らく、レイリアの眼鏡は国外で作った最新鋭の眼鏡のはず。


(なんでここまで、とは思うけれど――)


 イリスはルミエと対立したいなんて思ってない。

 むしろ大公の被害者なのだ。


 だから何とかできることは何とかしたかった。

 今のイリスには他にやることもない。


 ルミエがレイリアの眼鏡をかける。

 分厚いレンズの向こうから――テーブルを見つめる。


「…………嘘」


 ルミエは震えながら、ヒマワリへと手を伸ばしていた。

 自分で見ているものが信じられないかのように。


 遅くはあるが、指は確実にヒマワリへと近付いていって。


 ゆっくりとヒマワリの花びらにルミエの指先が触れる。

 それをじっくりと確かめながら、目に見ているものを感じながら。


 ルミエがしみじみと言った。


「確かに、ヒマワリね……」

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