元気になってよかったけどな
喫茶Clannad 月曜午後7時
からんころーん
「……店長、俺ちょっと気分悪いから奥行ってるね」
「……」
ぱたん
「………瀧本くん、何かしたの?えらく嫌われちゃってるねぇ」
「……」
「店長さん、こんにちはー」
「ああ、君はこないだも来てくれた……恵庭くんだったかな。いらっしゃいませ」
「今日はこの落ち込んだライオンちゃんの保護者で来ましたー」
「はは、そうなんだ。なんだか一層元気なくしてるみたいだけど大丈夫かな?」
「……………」
「お待たせしました、ハニーラテとアイスコーヒーです。で、瀧本くんはミケに何したの?」
「…………」
「いやー俺らも『三池』って名字聞いて気付けば良かったんすけどねぇ。実は、三池くんの兄貴、俺ら《Leone》の敵対チーム《Cielo》で幹部やってるんですよ。
……つーのがわかったのが、昨日ちょーっと《Cielo》の奴らボコボコにしたんですけど、その中にその兄貴がいたんですよねー」
「……ふーん。ミケのお兄さんはいくつの子なの?」
「18だったかな?ね、獅郎……ダメだこりゃ、どんだけ情けない顔してんのお前」
「……………」
「…それでね店長さん、最悪なことに、ケンカしてるとこに偶然、三池くんが通りかかっちゃって。しかも、そんとき丁度、獅郎が三池兄を蹴り飛ばしたところで」
「わあ」
「………」
「すごかったですよ、三池くん。『ざけんなクソ金髪テメーぶっ殺すぞ!!』って、あんなに小さい体のどこから?ってくらいデカい声で怒鳴って。全体重かけたクソ重いワンパン獅郎に叩き込んで」
「あ、それで滝本くんの左のほっぺ湿布貼ってるんだ」
「地面に転がる獅郎に、『つぎ春風に手ェ出したらマジで殺す』って言って、憎しみしかこもってない目で睨んで。あ、春風っつーのは三池兄の名前です。で、自分よりデカい兄貴を負ぶって去って行っちゃって……。
それが、昨日の話。で、今日、です」
「…はぁ、なるほどねぇ」
「謝りに来たんですけど、やっぱ今さら取りつく島もないですよねぇ……」
「……」
「……う~ん、それはちょっと違うかなぁ…おそらくだけどね」
「え?」
「ちょっと僕に任せてみてくれる?」
10分後
からんころーん
「……ゲッ、瀧本!恵庭も! て、店長さん、どーいうことだよ!?」
「え?《Cielo》の三池…?」
「……」
「獅郎、そろそろなんか喋りなよ」
「……」
「来てくれてありがとうね、春風くん。おやおや、随分痛そうだね~」
「………そこに座ってる奴にやられたんすよ。…それはいーでしょ、さっき電話で言ってた『青空のことで頼みたいことがある』ってなんすか?」
「ああ、うん。春風くんさ、昨日ミケ…青空くんに、『ウザい』とか『邪魔するな』とか言わなかった?」
「………言ったけど」
「やっぱり。あのね、青空くんがそれで凹んじゃったからさ、慰めてあげてくれない?」
「え?」
「……」
「でも店長さんっ、あいつ俺のケンカに勝手に入って来て、勝手に手ェ出して…っ」
「うーん、まあ納得いかない部分もあると思うけど。そこは二人で話し合いなよ。ともかくね、青空くんはいま、ウチのお客さんに八つ当たりして、仕事をサボっている状況です。その原因には春風くんも関わっています」
「……ぐっ」
「奥の部屋にいるから。よろしくね?」
「………はぁ。マジめんどくせぇ…」
「…店長さん?いまの話……」
「あはは、そーいうこと。ミケは瀧本くんに怒ってるわけじゃないよ。まあ、春風くんを蹴ったことは怒ってただろうけど、昨日殴り返してるからね。
いま聞いてわかったと思うけど、ミケは春風くん大好きなんだよ。そんな春風くんにうぜーとか言われたショックを、君たちを見て思い出したんだろうね。だから今は、本当に具合が悪くて引きこもってるだけ」
「………本当か」
「あ、獅郎しゃべった」
「うん、大丈夫。いまに元気な姿を見せてくれるから、ご飯でも食べて待ってようか?何か作るよ」
「あ、じゃあ俺ナポリタンお願いしまーす」
「…カレーひとつ」
「はいよ~」
5分後
「てんちょー!お待たせしました!この三池、ちゃんと働きます!」
「おや、不良店員。元気になったの?」
「はい!春風が『サボってねーで働けよ』って言うので!いや~俺の春風はやっぱり天使だと思……あれ、まだいたのかよクソ金髪不良。さっさと帰れよ」
「オイ『俺の』とか『天使』とか変なこと言ってんじゃねーぞクソ空!!!」
「コラ春!!汚ぇ言葉遣いするんじゃねえ!」
「……」
「言い返すタイミングを失ったあわれなライオンちゃん、カレー一口ちょーだい」
「うるせえ。やらねえ」
「三池くんが獅郎に怒ってなかったの、ホッとする反面、『俺関係ないのかよ』って悲しくも思ってるでしょ」
「うるせえわざわざ言うんじゃねーよ」