95.ぐるぐる悩んで、決意して
本作「おばあちゃんと孫と魔女の店 ~ 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について ~」(イラスト:フライ先生)の書籍版が、SQEXノベルより発売中です!
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「それにしても、ジュジュさんが唱えていた呪文ってどういう意味?」
色々考えているときに、ふと思い至った。魔術の呪文はどういう意味なのだろうかと。
ジュジュはすぐに答えてくれた。
「私たちが使う魔術の呪文は、魔法の種類・属性・効果の順に唱えているわ。さっきの呪文だと、ウンターは補助魔法、ニッヒは無属性を表していて、リーズィーは巨大化の効果を意味しているの」
「魔法の種類、属性、効果……」
「ええ。だから、風属性の魔術であれば、ヴィンになるし、水属性であればヴァッサ。攻撃魔術はアング、防御はフェアタになるわ」
「覚えきれない……」
いきなり色々言われても結珠は覚えきれない。
さっきまで杖のイラストを描いていたスケッチブックを開いて、もう一度説明を求める。ジュジュが再度教えてくれた魔術の呪文を書き留めていく。
「魔術はそういう風に成り立っているんだ……」
「創作物とは言えど、結珠の世界にも詠唱はあるのでしょう? どういう呪文なの?」
「どういう……? 意味なんてあるのかな?」
意味がある呪文もたくさんあるが、意味がなさそうな呪文もたくさんある。問われても咄嗟に思いつかない。
「多分ね、その創作物の創作呪文なんだよ。だから統一性があるわけじゃないんだよね。多分有名なのは『ファイヤーボール』とか?」
「ファイヤーボール? どういう意味?」
「火の玉の攻撃魔法? ファイヤーが火で、ボールが玉って意味」
「あら、ちゃんと意味があるじゃないの」
「そうなんだけど……。これは攻撃魔法だからね。魔法道具を大きくするための呪文じゃないから」
そういう呪文ほど、意味を成していないものが多い気がする。
感情を持て余した結珠は、呪文を描いた部分の横に、ぐしゃぐしゃとペンを走らせて黒く塗りつぶした。
「ああもう、いっそ自分で呪文作っちゃえばいいのかな……」
そうぽつりと呟いたが、今度はジュジュがぴしりと固まった。
「ジュジュさん? どうかした?」
「自分で呪文を作る……? 出来るの?」
「いや……だって、ないなら作るしかなくない? 当てはまるものがないんなら作るしかないでしょう?」
ないなら作る。途方もないことを始めたのだから、そうする以外にないだろうと結珠は思っているのだが、ジュジュには違うらしい。
「何か駄目だった?」
「駄目というわけではないけれど。新しい魔術はそう簡単に作れるものではないから、それこそ永遠の課題になってしまう可能性もあるけれど」
そこまで壮大な話になるのか。
ジュジュの表情からも察するに、多分手っ取り早い方法はなさそうだ。
「どうにかならないかなぁ。永遠の課題になるのはちょっと困るかな?」
「そうね……。あ!」
「え? 何?」
「ひとつ思いついたけれど、ユズは嫌がりそうなこと」
「嫌がりそうなこと?」
「ええ……。師団長の助言を仰ぐのよ」
ディーターの存在をほのめかされて、結珠は少し顔をしかめた。
「えー。師団長さん?」
「だから嫌がりそうだって言ったじゃない。ユズが本当に嫌ならば、無理に呼ばなくても良いとは思うわ。でも、師団長は個人で魔法道具の研究もされているし、色々助言してくれるとは思う」
「でも、前以上に厳しいことを言われそうな気がする」
ジュジュとナールでさえ、結構ビシバシと結珠の至らない部分を指摘してきた。
あの厳しいディーターであれば、二人以上にきついことを言ってくることは間違いない気がする。
そうほのめかすと、ジュジュは笑った。
「言われるでしょうね。でも、本気でやりたいのであれば、師団長の助言は絶対に必要になるわ。ユズがやろうとしていることは、それほどに壮大だということなの」
新しい魔法道具だけではなく、呪文すら作ろうと考え始めている。であれば、魔術が使えない魔女では手に余る。
ジュジュとて、王立魔術師の第三席として、それなりの強さを誇っているが、ディーターの足元にも及ばない。今のところ、彼が間違いなくワーカード王国で一番の魔術師だ。
知識も力も申し分ないくらい持っている。おまけに独自に魔法道具の研究も行っている。ジュジュが知るなかで一番の適任なのだ。
それにディーターも、結珠との和解を望んでいて、それとなくまたこの店へ来店出来ないか、ジュジュに探ってほしいと言われている。
今がその絶好の好機だ。ただそれを結珠に無理強いするつもりはない。あくまでも決めるのは結珠自身だとジュジュは思っている。
「ユズが嫌ならば、師団長へはこの話は持ちかけないわ。でも、私からも厳しいことを言うけれど、ユズが求める魔法の杖を作りたいのであれば、師団長の力は絶対に必要になる。どうする?」
「どうって言われても……そんなにすぐには決められないよ」
魔法の杖が作りたいという話から、話の急な流れについていけない。何故ディーターを呼ぶという提案まで話が飛ぶのか。
でも頭の片隅では、ジュジュの提案が正しいであろうこともわかる。
結珠の知識では足りない。
「あ! そうだ! おばあちゃんの日記を読んでみるのもありじゃない?」
この期に及んで苦しい言い訳だと思いながら、結珠は提案してみたが、ジュジュは少し困ったように眉をひそめた。
「あるかないかで言ったらありだとは思うけれど、解決するとは思えない。別にユズが嫌ならば師団長へはこの件は言わない。それにすぐに答えを出せとは言っていないわ。よく考えてみて」
ジュジュはそう言うと、今日はもう終わりにしましょうかと提案してきた。
確かに、色々言われて結珠も考えがまとまらない。結珠はジュジュに同意をして、その場を片付け始める。ジュジュはほどなくして帰っていった。
□■□
その夜、結珠は風呂に入りながら頭では色々なことを考えていた。
魔法使いならば杖! という発想から、もっと簡単に出来るものだと思っていた。
だが、そういうわけにもいかず、話はどんどんと壮大になっている。そしてついに、ジュジュからはディーターを頼ろうと提案された。
本音を言えば、あまり会いたくはない。
きっと彼は、結珠の考えの甘さを指摘し、ジュジュたちよりももっと魔法の杖を否定してくるかもしれない。
ボロクソに言われてしまえば、設計図のときよりも立ち直れなくなるだろう。
「諦めようかな……」
ぽつりと呟いた声は、バスルームに反響した。
そうだ、杖を作ることを諦めてしまえば、ディーターにも会わなくて済むし、今まで通りだ。
でもふと思う。諦めていいのかと。
心はぐちゃぐちゃでまとまらない。相反した感情が、さっきから結珠の中で行ったり来たりしている。
一体何が怖いのだろうか。
ディーターに怒られること? 会うこと?
いや、違う。ジュジュがワーカード王国で一番の魔術師と言ったディーターに、魔法の杖を完全に否定されることが一番怖いのかもしれない。
国一番の魔術師に「魔法の杖なんて作れない」と否定されてしまえば、もうそこで可能性が潰えてしまうのだ。
「嫌だな……それは……」
そう言って結珠は顔を上げた。バスタブから立ち上がる。両頬をばしっと叩いた。
諦めるのは嫌だ。例え失敗しても、作ろうとした感情まで否定したくはない。
そもそも自分はこんな風にうじうじ悩む性格ではないはずだ。やりたいと思ったことはまずやってみる! 失敗したらまたそこで立ち止まって考えて、別の道を考える。
「やってやろうじゃないの! 気の合わない上司が何だっての! 伊達に社会人やっているわけじゃないわ!」
そうだ! 会社勤めのときだって、気の合わない上司はいた。何とかやっていたじゃないか。
ディーターは厳密には結珠の上司ではないけれど、気の合わない上司でも、いけすかない取引先のお偉いさんでも何でも良い。
そういう相手に認めてもらえたら、多分色々な自信に繋がるはずだ。
「待ってろ、クソ上司! 絶対に認めさせてやる!」
結珠は立ち向かうことに決めた。
一週間、頑張った!!!(笑)
というわけで、発売記念更新強化期間終了です!
次回更新より通常更新に戻ります。
ひぃん……。倒れそう……。
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