90.久々の魔石取引
本作「おばあちゃんと孫と魔女の店 ~ 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について ~」(イラスト:フライ先生)の書籍版が、SQEXノベルより発売中です!
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ナールが突然店へやってきてから一週間後。
通常サイズの魔石の納品に、改めて店を訪れた。
「今回は妙に良い魔石が掘れてな……。質は保証するぞ」
「そうなんですか……」
そう言われて、結珠はカウンターに並べられた魔石をひとつ手に取って透かして見てみる。
正直に言えば、どこがどう違うのか……いまいち良くわからない。ただ、以前納品してくれた魔石に比べると澄んでいる気もする。
「何となくですけど……やけに透明感があるというか……」
「わかるじゃねぇか。そうなんだよ。不純物がないような……非常に高品質な魔力が空気中に混ざった感じでな……」
ナールはそう言いながら何故か結珠を見ている。その視線を受けたが、意味がわからず結珠は首を傾げるばかりだ。
「え? 何ですか?」
「俺が思うに、急に魔力の質が変わった感じがするんだよなぁ……。ばあさんがいなくなって質が少々下がったんだが……お前さんが継いでからばあさん以上に質が上がった。多分そういうことだろう」
「どういうことですか?」
全然意味がわからない。まるで奥歯にものが詰まったかのような言い方に、結珠も焦れる。
ナールは呆れたように息を吐いた。
「前に説明したじゃねぇか。魔石は普通の鉱石とは違って、魔術を使うと大気に魔力が溶けるんだ。それが土にかえって、魔石がうまれるって」
「ああ! そういえば、聞きました」
言われて思い出す。ナールに出会った最初の頃にそう教えてもらった。
「つまりはどういうことですか?」
「察しが悪いぞ、嬢ちゃん。つまりは魔女が込める魔力の質が魔石の生成に大きく関わる。ばあさんがいなくなって、魔石の質が落ちた。この意味はわかるか?」
「ええっと……。おばあちゃんが亡くなって、魔法道具に魔力が込められなくなって……大気に溶ける魔力が減った?」
ナールに問われて、頭をフル回転させて答える。しかしナールは結珠の回答に首を横に振った。
「半分正解で半分違うな。魔力が減ったわけじゃなくて、質が変わったってことだ」
「……ということは、おばあちゃんの魔力は質が良かったということですか?」
「そうだ。んで、嬢ちゃんが店を継いだ」
「私?」
まだ意味がわからずきょとんとする。少し考えて気付いた。
「おばあちゃんの跡を継いで魔女になった私が、魔法道具を売り始めた」
「売るだけじゃなくて、魔力込めも始めた。で?」
「今度はおばあちゃんじゃなくて、私の魔力がワーカード王国に溶け始めた……」
「そうだ。それがばあさん以上の質だってことだ。嬢ちゃんの魔力が王国内に浸透し始めて、質の良い魔石がうまれはじめている」
「えええっ!? そうなんですか!?」
「今頃驚くのかよ……」
ようやくナールが言いたいことがわかって、結珠は驚いた。
自分の魔力の質が良いなどと言われてもさっぱりだ。結珠には魔力の流れも何もかも見えていない。
だからどれだけ第三者から結珠の魔力の量やら質やらを指摘されても、自覚はほぼない。魔力に対して鈍感だからこそ、ナールが言いたいことについても正解にたどり着くまで時間がかかってしまった。
「そうなんだ……。魔力と魔石ってそういう関係なんですね……」
「他の魔石掘りがどれだけ気付いているのかはわからん。そもそも魔石の質が向上したことに気付いても原因にたどり着けるヤツはいないとは思うが……」
ナールが気付いたのは、結珠を直接知っているからだ。祖母がいなくなった時期と結珠が現れた時期から推理したにすぎないが、そんなことを知らない者からすれば、答えにたどり着くことはないだろう。
「へぇ……。でもやっぱりそんな風に言われても全然実感はないですね」
「まぁ、バレねぇとは思うがな。嬢ちゃんも気をつけろよ」
「ああ……はい」
そう返事をしつつも、結珠は大丈夫だろうと思っている。
店の防犯機能を過信するつもりはないが、今のところ百発百中で危険からは回避している。
ナールも言う気がなければ、恐らく外部に結珠の魔力の質が漏れることはないだろう。
口に出しては言わないが、ナールがもしも誰かに言ってしまえば、店に入れなくなる可能性が高い。ナールから何かを聞いて、誰かが結珠を脅かせば、結珠の安全を害したということになるだろう。
そして彼もそれを正しく理解している。
互いのためにもその秘密は守られるはずだ。
少しだけ悪くなった店内の雰囲気を破るかのように、ナールは咳払いをした。
「まぁ、そういう辛気臭い話はさておき。今回も申し分のないくらい良質の魔石だ。どれを持っていく?」
空気を換えてくれたナールに感謝しつつ、結珠は魔石をじっと見た。
「どうしましょう……。とりあえず、このサイズの魔石を少し多めにほしいですかね。やっぱりこの大きさが一番の売れ筋です」
あまり大きくても高額になってしまって売れない。かといって小さいと魔術を使える回数も少なくなるので、人気がない。
適度な大きさというものがある。
結珠は一番売れやすいサイズの魔石を選ぶ。
「やっぱりこのくらいの大きさが人気か。ばあさんのときもそうだったしな。多めに用意しておいたから欲しいだけ提供出来るとは思うぞ」
「ありがとうございます」
いくつ必要かなと、結珠は頭の中で数をカウントする。
必要な数をナールに告げると、ナールは次々と麻袋から魔石を数えながら取り出した。
「これで全部だ。数えてくれ」
「はーい。いち……に……」
籠に入れてくれた魔石を数える。確かに必要数あった。
「大丈夫です。えっと、おいくらでしょうか?」
告げられた金額は結構な大金だったが、結珠は用意しておいた金貨で全てを支払った。
「こっちも数えてくださいね」
「おう。あ、酒の代金、引いてくれたか?」
「あ! 忘れてました……。ちょっと待ってくださいね」
さっき、店にナールが顔を出した際、結珠も酒の準備は出来たと教えてあったのだが、しっかり覚えていたらしい。
結珠は酒瓶が入った箱を簡易キッチンの奥から店内へ運んできた。十本もあるので、さすがに重い。家にも酒屋が配達してくれた。さすがに結構な金額分を買ったので、酒屋から配達をしてくれると申し出てくれたときはすぐに飛びついた。
この前突然店に来たときから、次の来店が一週間後というのは、ナールが魔石を加工する時間を取るためのものでもあり、また結珠が近所の酒屋でナールが飲みたい酒を手に入れるための時間でもあった。
結珠は酒屋のレシートを確認する。大体総額十万円くらいになるくらい買ったので、酒屋も驚いていた。
「えっと……全部で金貨一枚ですね」
「はぁ!? 安すぎやしねぇか?」
「いえ、一応高いのと安いのと混ぜて、お店の人にも相談して金貨一枚分くらいでいいかなって」
そうは言っても十本もある。
たまたま高価なウイスキーが入荷されていて、それだけが値が張ったが、あとは大体お手頃価格のものが多い。
全然ウィスキーはわからない。知人へのプレゼントで、大の酒好き。恐らくザルどころかワクに近い人で、高いのと安いのを混ぜて贈りたいと正直に酒屋の店主に伝えたら、色々と細かく相談に乗ってくれた。
向こうも結珠が以前大量にウイスキーを買ったことを覚えていてくれたらしい。
「そうか……。これだけあるから、金貨十枚くらいはくだらないかと思っていたんだが……」
「百万円……それはちょっと……」
金貨十枚は百万円だ。十本の酒があるのだから、平均で一本金貨一枚、十万円だ。そんな高価な酒が、こんな片田舎の酒屋に何本も置いていないはずだ。
ナールは拍子抜けした顔をしている。
「ナールさんはそうは言いますけど、以前あげたものよりも高価なものもありますよ。これとか……」
今回買った中で一番高い酒瓶を指さす。これだけで四万円くらいだ。
「へぇ? これか。前のより高価だったらうめぇかな……」
それは結珠にはわからない。高いからといって口に合うかはわからないのだ。もちろん丁寧に作られているだろうが、人にはそれぞれ好みというものがある。
事前にナールにはどういうのが良いのか聞いて、酒屋では相談したので、多分ナールの好みには近いだろうが、実際に飲んでみないことにはわからないだろう。
「早速飲んでいきます? おつまみくらいなら用意出来ますけど」
「お、いいか!? 納品も終えて肩の荷も下りたし、一杯やりてぇ気分だったんだよ! つまみ代は出すぜ」
「それは……別に大丈夫ですけど」
結珠の提案に、ナールはすぐに飛びついた。
実はそうなるかなと思って、結珠も色々と買っていたのだ。
「お腹空いてるんでしたら、食事にしますし、とりあえず一杯だけなら簡単にしますけど」
「味見程度に一杯飲んで帰るから、ちょっとでいい」
「はーい」
だったら、ナッツやドライフルーツあたりで良いだろう。
結珠は簡易キッチンに置いてあったつまみを皿に開けた。




