88.ジュジュと女の闘い
本作「おばあちゃんと孫と魔女の店 ~ 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について ~」(イラスト:フライ先生)の書籍版が、SQEXノベルよりついに明日 4/7(火)発売です!
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こうしてひっそりと修道院へと送られたゲンクローシ公爵令嬢を見送ったジュジュは、その日何食わぬ顔で仕事を終えた。
ディーターもジュジュが見送ったことを知っていたのにも関わらず、何も聞かなかった。
ジュジュは仕事を終えると、結珠の店へと向かった。すでに閉店時間を過ぎていたが、結珠はいつもと同じ顔でジュジュを迎えてくれた。
「いらっしゃい、ジュジュさん。来るかなって思って、準備しててよかった」
そう言われて、ジュジュは今日特に結珠と約束をしていなかったことに気付く。でも身体は無意識にここへと来てしまった。
「……約束していなかったわね。ごめんなさい。でも、来るかなって……?」
「だってジュジュさん、この前言っていたじゃない。今日はあの公爵令嬢さんが、修道院へ行く日だって」
そういえば、前回店に来たときにそんなことを結珠に言った気がする。
判決だけを伝えたつもりだったが、彼女の旅立つ日まで教えていたらしい。
「だからジュジュさん、何にも言っていなかったけれど、来るかなって思ったの。夕飯、用意してあるよ。一緒に食べよう」
今日はね、初めての料理に挑戦してみたんだ。味見してみたけれど、おいしく出来たと思う! と、普段と変わらない様子で食事の準備を進めていく結珠。
ジュジュはたまらなくなって、結珠に抱き着いた。
「ジュ、ジュジュさん!? どうかした!?」
「後味が悪くて……やっぱり私が戦わなければよかったって……そう思って……」
見送りの際に、ゲンクローシ公爵令嬢はそう言っていたが、やはりジュジュにも原因があるように思えてしまう。気にするなと言われても無理だ。
結珠は抱き着いてきたジュジュの背中をぽんぽんと優しく叩いた。
「そっか……。でも私はジュジュさんが戦ったこと、悪いことだとは思わないけれどな」
そのまま受け入れてくれると思ったジュジュは、思わぬ結珠の反応に顔を上げた。
「この前……私もいとこと揉めたでしょう? 別に私は悪いことなんてしていないのに、あることないこと色々言われて、迷惑かけられて。そりゃ私が知らない何かもあったかもしれないけれど、私が知らないことって、それは私に関係のないことでしょう?」
自分の知らない他人のことは、自分には関係ないこと。
突き放したような言葉にも聞こえるが、確かに正しい。
ジュジュははっとしたような表情を見せた。
「誰しも、その人が抱えた事情はある。でも、知らないってことは、本人が他人に知らせたくないことか、あるいは知らせるほど仲が良い関係ではないかのどちらか」
「……そうね」
「その知らない事情を加味して、配慮しろって無理な話なのよ。だから私はいとこの心情なんてわからなかったし、何で私にばっかりきつい態度を取るのか……理解出来なかった」
そうだ。ジュジュはあのとき、結珠のいとこという人物に一切共感は出来なかった。
他人ばかり羨ましがって、攻撃してくる。今回のゲンクローシ公爵令嬢も同じだろう。
ディーターに近い女性ばかり目の敵にして、何らかの手段で攻撃をしていた。
「人に自分の醜い姿を見せるのって勇気がいるよ。だって、それを見た相手がどう思うかなんて、自分にはどうすることも出来ないもの」
「あ……」
ディーターはずっとゲンクローシ公爵令嬢のその姿を見ていた。その上で、彼女は自分の伴侶には向かないと判断した。
それをゲンクローシ公爵令嬢は自分のせいではなく他人のせいとして、周囲にさらに酷い態度を取り続けた。
抗う人間が出てもおかしくはない。おまけに今回ジュジュは正攻法でそれに立ち向かった。
ジュジュを称賛する声は聞こえてきても、ジュジュを非難する声は今のところ社交界からは聞こえてこない。それが周囲の答えなのだ。
「私たちだって感情を持つ人間だから、落ち込むことは仕方がないと思う。もしかしたらああいうことも出来たかも……って、選ばなかった未来が最良に繋がっていたかもしれないって思うこともある。でも、どれもたらればで、正解じゃないの。だって、私たちはもう未来を選んでしまったから」
そうだ。もう未来は選ばれ、ゲンクローシ公爵令嬢は修道院送りとなった。過去を悔やんだところで、決定は覆らない。
自分があの場で行動しなかったとしても、いずれ似たような騒ぎは起きていたに違いない。
「夜会では、ひとりの負傷者も出さなかったんでしょう? もしも誰かが怪我をしていたり、最悪死者が出たとしたら、ジュジュさんは今以上に後悔するかもしれない。今回の件も、これが最良だったんだよ」
「ユズ……。そうね、そうかもしれないわね」
ジュジュはじっくりと結珠が言った言葉の意味を考える。
これ以上の良い結果があったかもしれないなんて、それはジュジュの傲慢だ。
そもそも負傷者を出さずにゲンクローシ公爵令嬢を制圧出来たのは、結珠が作ったネイルの魔法道具のおかげだ。あのネイルも、魔法道具ではなく普通のネイルだったらどうなっていただろうか。
あのときゲンクローシ公爵令嬢へ言ったとっさの嘘が、多くの人を救った。偶然とはいえ、魔法道具の定義を持っていたからこそ誰ひとり怪我をすることはなかった。
ディーターには危ないことはするなと怒られたが、結果的にジュジュは多くの人を救ったという理由で近々褒賞が与えられる予定だ。
それを受けるのも実は心地が悪かったが、過程はどうであれ、結果だけ見たらジュジュの功績は大きい。
自分のせいで……とずっと悩むことは簡単だ。いつまでも落ち込んでいればいいだけだから。
でも、結珠と話しをして、それは違うと思った。もう変えられない過去を見るのではなく、これからを考えなくてはいけない。
ジュジュはもう一度結珠に抱きついた。
「ありがとう、ユズ。落ち込むのはもうやめるわ」
「落ち込んだっていいと思うよ。そのあと、また立ち直ればいいんだし。ねぇ、食事にしようよ! ほら、師団長さんに貰ったお酒もまだまだいっぱいあるし。今日はどのお酒開ける? 料理に合わせるんなら、白かなぁ……」
今日のメニューはじゃがいものガレットの上に、パプリカやアスパラなどの焼き野菜とエビのマリネを乗せたものと、鶏もも肉とぶどうの煮込み、グリーンサラダだ。
ジュジュにとっては、どれもあまり見たことのない料理だったが、良い香りがしている。結珠が作ったもので、おいしくなかったものはほぼないので、きっとおいしいだろう。
見た目が淡泊なので、濃い味の酒よりもさっぱりした方が好ましく思える。
「そうね、白の方が合うかも」
「冷やしておいたのがあるから、それ持ってくるね! ジュジュさんは座ってて!」
結珠は店の奥へと消える。すぐに戻ってきた手には冷えた酒瓶とグラス。
「料理が冷めないうちに乾杯しよ!」
「そうね。お酒、私が開けるわ。こっちに貸して」
「ありがとう! お願いします」
結珠は素直にジュジュへ瓶を渡した。
ジュジュが話したくないことは積極的には聞いてこない、人の距離感をわかっている結珠。彼女の隣はなんて心地が良いのだろうか。
腹の探り合いばかりしている貴族社会で、こうして垣根のない友人を持てたことは、ジュジュにとって非常に幸せなことなのかもしれない。
「それじゃ、今日もおいしい料理に乾杯!」
「何それ。これから食べるのに?」
「大丈夫大丈夫! 味見はちゃんとしたから! おいしかったから!」
「本当?」
「本当! それじゃあ、ジュジュさん! 女の闘い終決、お疲れ様でした!」
「……っ! ありがとう!」
ジュジュは結珠にお疲れと言われ、ようやく終わったのだと実感する。何だか肩の荷が下りた気分だ。
結珠に促され、二人はグラスを合わせる。酒をひとくち飲んで、ジュジュは結珠が作った鶏肉料理を食べた。
「あら、本当においしい」
「でしょ? こっちは何度も作ってるからおいしいよ。味が足りなかったらこのソースかけてね」
じゃがいものガレットもすすめてきた。
ナイフとフォークで切り分けると、中から溶けたチーズがあふれてくる。
「あら、チーズ! おいしそう!」
「これ、好きなんだよねー。簡単だし」
「うん、おいしいわ! ユズは料理上手ね」
「本当? 嬉しい~。よし! 食後はデザートも出そう!」
「太りそうだわ……」
「それは言わない約束です……」
いつも通り笑い合いながら、いつも通り過ごした。
ただ、やはりいつもとはどこか違っていて、ジュジュはひとりで酒を二本以上開けた。悪酔いしたのだろうか。どこかのタイミングでジュジュが少しだけ泣いていたが、結珠は見ないふりをしていた。
というわけで、第5部これにて終了です。
次回からはどうなる!? と含みを持たせておきます。(笑)
さて、前書きにも書きましたが、明日書籍版発売です。
発売記念で、今日から一週間毎日更新予定です。
頑張ります!
途中で力尽きたらごめんなさい……。




