83.結珠の憧れ
「また新しい魔法道具が出来るかと思っていたのだけれど、残念ね」
話をしながらお茶を飲み終えてしまったので、結珠が新しいお茶を淹れてきた。それに口をつけながら、ジュジュがぼやく。
「そうだねぇ……。でも別に他のものでも考えればいいんじゃない? それこそ夜会で目立たず着けるんなら、髪飾りだよね」
今回の夜会も結珠が作った髪飾りを身に着けて参加した。ワーカード王国にはない、珍しい形だったのでどこの品かと声をかけられることはそれなりにあった。
宝石は使用していなかったが、婦人たちのお眼鏡にはかなったらしい。
それを魔法道具に挿げ替えてしまうのは、確かに良いアイディアだ。
「髪飾り……例えばどんなもの?」
「そうだなぁ……。今回作ったような形でも出来るし、普通サイズの魔石を付けたものも出来るよ。そういう場合は、櫛みたいなのとか……あとはかんざしとか!」
「かんざし?」
ジュジュにはかんざしはわからないらしい。結珠は売り物として陳列していたかんざしを手に取る。
「これ! これがかんざし。結った髪にただ挿すだけだよ」
「この魔法道具、髪飾りだったの? 使い方がわからなくて、手に取りにくかったんだけれど」
「やっぱり馴染みがないのか! 私のところだとすごく普通に売ってるんだよね」
使い方は色々あるが、一番簡単なのはお団子に結って挿すだけだ。そう説明すると、ジュジュは驚いていた。
実際にやってみる? と聞くと、やってみたいと言われたので、結珠はブラシでジュジュの髪をとかしてさっとお団子に結ってからかんざしを挿した。
鏡でその様子を見せてあげる。
「本当に挿すだけなのね。あっという間だわ」
「でしょう? でもこれ、ワーカード王国のお客さんには不人気なの。かんざしそのものを知らないから、用途がわからなくて売れないってことか」
納得である。結珠が店を初めてからかんざしの作品は作っているが、魔法道具として作ったものはほぼ売れない。
魔石を使わない普通のアクセサリーとして作ったかんざしは、ハンドメイド通販やアートイベントに出店した場合、それなりに売れている。
魔法道具で売れなかったものは、魔石を天然石などに付け替え販売しているので、在庫過多になったりはしないが、やっぱりかんざしは馴染みがないのだと納得した。
「かんざしって、一応女性の髪飾りだから、男の人は尚更買うわけないよね」
「そうなの?」
「まぁ、お客さんの中には男の人でも髪の長い人はいるけれど、そんなに派手な髪飾りしていないでしょ?」
「していないわね。大体は紐で結んでいるだけね」
根本から間違っていたわけである。結珠はがっくりと肩を落とした。
「あーあ。魔法って言えば杖だから、かんざしでそういうの作りたかったんだけどなぁ……」
結珠がかんざしにこだわっていた理由はそこだ。
日本でも魔法道具を模したアクセサリーを作る作家は多いし、そういうシリーズも人気だ。
結珠が作っているものはある意味本物だが、ワーカード王国で持っている人は見かけたことはない。
だからこそ結珠は、魔法使いや魔女、魔法少女が持っているような魔法の杖を作りたいと思っていたのに、ワーカード王国ではかんざしはないと言われ、目標を失った気持ちになる。
一方、ジュジュは魔法の杖? と首を傾げている。
「魔法の杖って何?」
「私の世界だと、魔女とか魔法使いとかって魔法の杖を持っているの。それを振って魔法を使うんだよね」
「へぇ……。面白いわね。じゃあ、私たちにとっての魔法道具が、ユズの世界では杖ということ?」
「そういうことだね。杖も色々な種類があるよ。木製で枝みたいに見えるものとか、魔石みたいな宝石が付いたものとか」
「魔石が付いているの?」
「厳密には魔石じゃないかな? でもそういう魔石っぽいものが付いてて、それこそこういう商品みたいなデザインのものが多いかな?」
結珠は店頭に並べてある他のかんざしを二~三個手に取って、ジュジュに見せる。
「どういう見た目かはわかったわ。それで、この杖をどうするの?」
「魔法を使うときに振る? 改めてどう使うのかと言われると悩むね……。どういう意図なんだろう? 使うもの……っていう思い込みがあったけれど。一説には自分の体内にある魔力を行使するための媒体とか……杖そのものにも魔力が宿っていて……とか?」
「杖の形状をした魔法道具ってこと?」
「……当たらずとも遠からず、かな?」
改めて魔法の杖の存在意義を聞かれると、結珠にも明確な答えは出せない。
── 創作において、魔法使いたちが持っているもの。
というしかない。
頭からそう思い込んでいた。
「ちなみに、ユズが言う杖ってどのくらいの大きさなの? このかんざしという髪飾りと同じくらいの大きさ?」
「大小様々かな? このくらいのサイズのもあれば、ジュジュさんの身長よりも長いものもあるし、この日記の鍵くらいの大きさから呪文を唱えて大きくしたりとか……」
「待って! ちょっと待って、ユズ!」
「え? 何?」
こめかみを指で押さえながら、ジュジュは眉間に皺を寄せている。
「どうしたの、ジュジュさん」
「あのね、ユズ。この売り物の大きさの魔石ならば普通だけれど、私の身長よりも長い杖だとか、小さいものが大きくなるとか……。そんな大きさの魔石があると思う?」
「あ……」
そうだった。以前聞いていた。人の頭の大きさくらいの魔石で国宝級だと。
杖が大きくなれば大きくなるだけ、魔石も大きくなる。すなわち、そんな杖を作ったら、あっという間に国宝だ。
「魔石……大きいのは国宝だっけ……」
「そうよ! こぶし大だって個人が持つには大きいのよ。大体、そんな大きな魔石に込められた魔力で魔術を行使したら、どれだけ大規模な魔術を展開するつもりなのか……」
要するに全て規格外らしい。
「そっかぁ……ダメかぁ……。魔法使いの杖、憧れだったんだけどなぁ……」
「ユズの世界では、一体魔女はどういう存在なの……?」
ジュジュの知識とはかけ離れたことばかり言う結珠。ジュジュの方こそ、結珠の魔女の知識はどうなっているのかと問いたい。
「どういう存在って……。色々あるけれど……悪の組織と戦ったり、冒険して魔物を倒したり……戦争ものもあるけれど」
「魔物を倒すことは私たちも任務であるわね。でも悪の組織って何?」
「悪の組織は悪の組織だよ! 世界征服を目論んでたりとか?」
「え? 世界征服? 創作よね? 実際の話ではないわよね?」
「創作だよ! 闇魔法とかそういう感じ……」
結珠の話を聞いて、ジュジュは若干引いている。さすがに結珠にもその雰囲気は伝わっていた。
「……おかしい?」
「おかしい……というか、結珠の世界の創作はずいぶんと物騒なんだなって思ったわ」
「…………物騒」
アニメであれば、可愛い衣装に身を包んだ少女たちが戦っていて、どちらかと言えばコミカルに描かれている。
敵も倒されるもののあれば、浄化されて良い人間に戻るといった内容が多い。
物騒だなんて考えたこともなかったが、そういうものを知らない人間が言葉だけで聞いたらそういうものかもしれない。
まだ怪訝そうな顔をしているジュジュを見て、結珠はそう思った。




