82.魔女と創造力
「創造力か……でも、何かわかる気がするなぁ……」
しばらく考え込んでいた二人だが、ふいに結珠がそう口にした。
「わかるの? どういう意味?」
「いや、そんなに難しい話じゃなくて。魔法道具としてでもなくて、こういうアクセサリーを作る立場としてね。新しいものを作っていかないと、やっぱりお客さんには飽きられるんだよね」
「そうなの?」
「うん。既存のデザインが好きって人もいるんだけど、でも同じものをいくつも持っている人ってそんなにはいないと思うの。同じ作者のアクセサリーが好きだったとしても、違うものを買ったりする」
「確かに。私も同じ魔法道具は持っていないわね」
「でしょう? 例えば、ジュジュさんが今身に着けているネックレスの魔法道具と全く同じものと、違うデザインの腕輪の魔法道具があったとしたら、どっちを買う?」
「それはもちろん腕輪でしょうね。同じものだと重ね付けも出来ないし、不便だわ」
「そうだよね。だからこそ、新しいものを考えないといけないの。そういう意味では、低価格魔法道具って新しいものだよね」
結珠の説明はわかりやすかった。確かにそうだ。
作り始めたときから見ていたので、ジュジュにもよくわかる。ワーカード王国にはない材料を使い、見事に新しい魔法道具を作り上げた。
なるほど、これが魔女の創造力というやつかと、腑に落ちた。
「ユズとは条件が違うけれど、ワーカード王国にいる魔女や魔法使いたちは何か新しい材料を使って魔法道具を作るという雰囲気ではないわね。皆、同じような材料を使って作っている。性能の差は魔石の質や、魔力量だけで競っている気がする」
「ワーカード王国の魔女たちはそんな感じなんだ。だからかぁ……。最近また、偵察みたいな人がお客に紛れて来ているんだよね。害はないから私も様子見をしているし、ただ見てるだけで何かしようってわけでもないから、お店の防犯機能にも引っかかっていないみたいなんだけど」
「相変わらずいるの?」
もう落ち着いたと思っていたので、ジュジュは驚いた。どうにも真似出来ないから、大体のところは諦めたのだと思っていたのだが、まだしつこく探る相手がいたとは。
「少しね。毎日来るわけじゃないし、手に取って確認したところで材料の見当が付くわけでもないし。でもそう思うと……やっぱり真似しようとしているだけで、そこから自分で何か新しいものを作ろうって感じじゃないね」
「そうね……。ということは、そうやって創造力を失っていった魔女たちは、同じものしか作らなくなっていったということ?」
「あ……。なるほど! そういうことか!」
二人は顔を見合わせた。辻褄が合ってくる。
かつて、体内に保有した魔力で魔法を使っていた人々。その創造力で様々な魔法道具を作り上げていった。
そのうち、創造や考えることをやめてしまった魔女たちに残された道は、誰かが作った魔法道具を真似すること。おまけに、自らが魔法を使う術を失ってしまった。
祖母も同じように創造力を失ったらしい。でも高祖父は違う。昔の正しい魔法使いだった。どこでその道が違えてしまったのだろうか。
「おじいさんって人……すごい人だったのかな?」
「え? リーナのおじいさん?」
「そう。だって、おばあちゃんの日記を見る限り、おじいさんって人は、創造力を失っていないし、自分で魔法が使える魔法使いだったってことでしょう?」
「あ……そうね。かつての魔法使いだわ……」
「だよね? それに、王宮にあるっていう魔法道具の設計図もおじいさんが持っていたわけじゃない? やっぱりまさかとは思うけれど、おじいさんがその魔法道具を作った人?」
言われてみれば、そう考えるのが普通だ。いや、ジュジュもその可能性はもちろん考えていた。ただ、そんな偉大な魔法使いがワーカード王国から姿を消したのであれば、絶対に騒ぎになっているはずだ。
王宮にそんな記録は残っていない。それどころか、魔法道具の設計図は失われ、製作者の痕跡も消えている。ディーターは恐らく意図的に行われていると言っていた。
「ねぇ、ユズ」
「なぁに?」
「師団長をこの店へお招き出来ないかしら?」
「え!? 何で!? あの人、来るの!?」
不可解な点が多い。ジュジュの感覚では、これ以上は自分たちの手に余る気がしている。
やはりここはディーターの協力があった方が良いだろう。彼も店へ来たいと言っていたし、切り出し方としては不自然ではなかったはずだ。
しかし予想通り、結珠の顔は歪んだ。それはもう嫌悪感たっぷりだ。
「えええ……。嫌って言ったら、怒る?」
「怒りはしないけれど……。でももう私たちの手には余る感じはしている気がするの」
「そうだけど……。でも別にそんなに急いで考えなくても良くない?」
ああ、これはまだ絶対に来てほしくない雰囲気だ。さすがにジュジュも見落とせない。
何より結珠の気持ちの方が大事だと思う。これほどまでにジュジュに良くしてくれる彼女に、不快な思いはしてほしくない。
ジュジュはあっさりと結珠に味方をした。
「そうね……。今、解決しなくても良い問題だわ。師団長には諦めてもらいましょう」
「え!? いいの!?」
「私から言いだしたけれど……。そもそも師団長があのネイルの魔法道具に興味を持たれて、あなたを訪ねたいから聞いてきてくれないかって言われたのよ」
ジュジュはあっさりとネタばらしをする。結珠は嫌そうな顔をした。
「来なくていいよ……。そりゃ、危ないことになっちゃったのは申し訳ないとは思うけど。えー、私また説教されるの?」
「それは多分ないと思うわ。私が怒られたのも、危ないことはするなってぐらいだったし、ユズに対しては『魔女として、客の要望に応えた結果だろう』って理解も示していたし」
「そうなの?」
「ええ。やっぱり、あのネイルが魔法道具であるということが興味の対象だと思うの。あと本音では、師団長があのネイルの実証実験をしたいんじゃないかしら?」
「ええ!? あの師団長さんがきらきらのネイルするの!?」
結珠の言葉に、ジュジュも想像してしまった。
派手な色で魔石粉で輝いている爪をしたディーター。非常にヘンテコである。
「ぷっ! そ……それは似合わないかも!」
「でしょう!? そりゃ、男の人でネイルする人もいるけれど、大体が黒とかで女性がするような綺麗な色のじゃないし!」
「だったら黒で作ればいいんじゃない?」
「でも魔石粉を混ぜないといけないじゃない! 男の人のは単色が多くて、こういうきらきらした粉入れてる人は滅多にいないの! それに、ネイルリングもねぇ……駄目だ、想像しただけで笑える! ぷっ……くくくっ!」
結珠もキラキラネイルをしたディーターを想像したのか、お腹を抱えて笑い出した。
しばらく二人で笑っていたが、何とか笑いをおさめた。
「はー、笑った! でも師団長さんなら、ネイルチップとかネイルリングじゃなくて、ネイルカバーの方が良い気もするけど、どっちにしてもネイル系の商品は作らないことにしようと思って」
結珠の発言にジュジュは驚いた。
「作らないの!?」
「うん。さっきも話したように、多分魔女が定義すれば、魔法道具として成立するんだとは思うけど……でも需要がなくない?」
「そんなことはないと思うわ」
「でも、ネイルってやっぱり女性が主流のおしゃれなの。男の人もやるけれど、少数派。低価格魔法道具であれば、すでに安全確認も取れている別の商品がある。夜会とかに身に着けたいのであれば、それこそ髪飾りで魔法道具を作る方が良いと思うし、男性用であれば、上着の襟元を飾るデザインのものも作れるよ。そっちの方が有用性があると思う」
ジュジュに贈った、マント用の留め具にも使用出来るブローチに似た魔法道具であれば、通常サイズの魔石で作れる。ディーターほどの人物であれば、低価格魔法道具ではなく普通の魔法道具を購入することも容易いだろう。
今後、夜会会場での魔術行使に対抗するのであれば、そういった魔法道具の方が良いはずだ。
それに王立魔術師内の女性魔術師はそう多くない。需要がないという結珠の意見は正しい。
「ユズの言う通りだわ。ネイルである必要性はないわね。私も諦めるわ」
「ごめんね、ジュジュさん。色々期待させちゃったのに、こんな結果になっちゃって」
「いいえ、謝らないで。ユズは色々と心を砕いてくれたわ。ありがとう」
ネイルの魔法道具はこうしてお蔵入りとなった。




