75.デリカシーのない男たち
明けましておめでとうございます。
2026年もどうぞよろしくお願いいたします。
ジュジュとディーターが話し込んでいると、少ししてからマンフレッドも加わった。
「おっ! 師団長! っていうか、アンタ入場が早くないか?」
「直前まで仕事をしていたから、入場時間は無視してきた」
マンフレッドにジュジュと同じような説明をする。マンフレッドは呆れたような顔をして肩をすくめた。
「全く……相変わらずだな。んで? そんな美女と一緒って……アンタも隅に置けないな!」
「あら、褒めてくれてありがとう。マンフレッドの口から私に対して美女だなんて出たら奥様に怒られるのではなくて?」
「え……? ええっ!? お前、ジュジュか!?」
「あら、気付かなかったの?」
「いやだって……顔、全然違うじゃないか……」
いつもと違う化粧のせいか、マンフレッドはジュジュと気付かなかったらしい。困惑した様子で、ジュジュの顔を見ている。
しばらくして「女ってこえぇ……」と呟いた。マンフレッドの良いところは表裏のないところだが、ときどきデリカシーに欠ける。
ジュジュは、ばしっとマンフレッドの腕を叩いた。
「あとで覚えていらっしゃい! 女性に対して気遣いのかけらもないって奥様に告げ口してあげるわ!」
「勘弁してくれよ! 怒られるじゃないか……」
二人の気の置けないやり取りに、ディーターは笑う。
「マンフレッドの負けだな。素直にジュジュと奥方に怒られてこい」
「師団長まで! 悪かった! ジュジュ! 今度、詫びにワイン持ってくる!」
「ワインね。いいわ、許してあげましょう」
思いがけずワインが手に入るのはとても良い。今度、結珠との食事会に持って行こうと決めた。今日のために結珠も色々と頑張ってくれたのだ。あとで慰労会でもやろうと提案しようと思う。
ちなみに、マンフレッドは妻に告げ口をされるかもしれないと結構焦っていたようで、給仕から受け取った果実水のグラスを一気に呷った。今のやり取りで緊張からか喉が渇いたらしい。
「ところで、師団長」
「何だ?」
「例のご令嬢……大丈夫なのか?」
マンフレッドも、先日のジュジュとの騒ぎを知っていたらしい。
ジュジュは瞬きを繰り返した。
「……マンフレッドも知っていたの?」
「まあな。師団長が報告書をもらったときに俺も一緒にいたから、見せてもらったんだよ」
なるほど。それにしてもこんな様子では、他にも知っている人がいそうな気配だ。
もしかしてそうなのかと問えば、マンフレッドは頷いた。
「王宮内でのやり取りだしなぁ……。騎士以外にも目撃者が結構いたらしいぜ。それに、茶会でも色々騒いでいたらしい」
「お茶会?」
「茶会で何かあったのか?」
ジュジュとディーターが揃って声を上げる。マンフレッドは空いたグラスを給仕へ戻し、新しいグラスを受け取った。
「何でも、今年中にお前と婚約出来なかったら隣国の侯爵家の後添えになるらしいぜ? 何か、この前の茶会で騒いでたって、ルイーサが言ってたし」
ルイーサとは、先程から話題にも挙がっているマンフレッドの妻だ。今はあいさつ回りでマンフレッドとは別行動らしい。その妻が出席したお茶会でゲンクローシ公爵令嬢がそう騒いでいたらしいと夫人や令嬢の間では有名らしい。
ちなみにジュジュは仕事を理由にお茶会は何度かパスしていたので、ゲンクローシ公爵令嬢が崖っぷちにいることなど、今初めて知った。
「え? そうなの?」
「ああ。ルイーサが言ってたから間違いないだろう? ジュジュ、お前も一応は子爵令嬢なんだから、そういう情報収集の場にはちゃんと出席しろよ」
「う……、耳が痛いわ」
マンフレッドの言う通りなので、ジュジュは何も言い返せない。
元々貴族の腹の探り合いの場は苦手だ。しかも最近はそれよりも、結珠との食事会の方が楽しくて、つい茶会等の欠席記録を伸ばしてしまったのはやっぱりよろしくなかった。
もう少し茶会にも出席しようと、反省をする。
そんなジュジュに苦笑しながら、マンフレッドは話を続けた。
「だから必死なんだろうよ。師団長は年齢のつり合いも取れてるし、何年も追いかけているから諦めきれなかったんだろうけど……」
そう言いつつ、マンフレッドはディーターを見る。ディーターは鼻で笑った。
「もう何年も前から断っている。さっきジュジュにも話したが、アレはどうやっても魔術師の妻になるだけの度量はない。無理だ」
「それは……確かになぁ……。根っからの貴族令嬢だからな」
ディーターの意見にマンフレッドも同意する。
これは、魔術師というだけではなく、騎士の妻としても当てはまるだろう。魔術師も騎士も有事の際には、命を懸けて、国や民を守らなくてはならない。ゲンクローシ公爵令嬢にそんな夫を持つ妻の覚悟があるとは到底思えない。
ましてや、ディーターは魔術師団の長にまで上り詰めてしまった。その覚悟は他の魔術師たちよりも数段上を持ち合わせていないといけない。
もちろん高位貴族として、貴族に娶られるという自覚はあるだろうが、彼女は恐らくそれだけだ。命のやり取りと直結する職に就いている夫を持つだなんて理解していないだろう。
今でこそ平和な世の中だが、過去に近隣諸国との小競り合いがなかったわけではない。
それに争いはなくとも魔物討伐の任務は現在もある。そういった任務で命を落とした魔術師団長もいたのだ。
万が一、そうなったときに彼女は家を守るためにどれだけの采配を振るえるのだろうか。
どうやってもただ甘やかされて育ったように見える、ゲンクローシ公爵令嬢に務まるとはディーターには思えなかった。
「でも、師団長もさっさと結婚しないからこういうことになったんだぜ?」
「俺自身が結婚しないことと、アレと結婚しないことは関係ない」
「そりゃそうだけれどよ……。アンタがさっさと婚約でもすれば諦めもついたんじゃないのか?」
マンフレッドが言うことも正しいが、ディーターが言うことも正しい。
「父親である宰相閣下が、娘を諦めさせれば良かった話だ。それを甘やかして、何年も放置していたから問題なだけであって、俺自身は拒否の姿勢を最初から貫いている。今後も変わることはない」
「だからジュジュと結婚するんじゃないかとか噂も経つんじゃないのか?」
「それもないな。そもそもジュジュと結婚するのであれば、もう何年も前に申し込むだろう。今さらじゃないか?」
ジュジュの婚約者で、ディーターの親友とも言うべき男が亡くなったのは、もう十年も前だ。
傷心から立ち直ったジュジュと結婚するにしても、もっと早い段階で申し込んでいるというのがディーターの本音だ。それが現時点でも申し込んでいないのだから、対象外なのは明らかだ。
それにジュジュも別にディーターとの結婚を望んでいない。上司としては尊敬しているが、夫としては……無理。というのが対するジュジュの本音。
仕事も私生活も、上司と部下のままのような気がする。そんな公私のない生活は御免こうむりたい。
「だが……。まぁ、最後の引導を渡すには……ジュジュに協力してもらうのも良いかもしれないな」
ディーターの口から出た爆弾発言に、ジュジュは目をむいた。
「ちょっと! 待ってください、師団長! これ以上私を巻き込まないでください!」
「ここまで来たら乗り掛かった舟だろう? 協力してくれ」
「い・や・で・す! 大体、私には何の利もないでしょう!?」
「では利益があれば良いのか?」
「そういう問題ではありません! ご自身で! 何とかしてください!」
絶対に断る! と、ジュジュは怒ってその場から離れて行った。男二人はその後ろ姿を見送る。マンフレッドはディーターの発言に呆れているし、ディーターは器用に片眉だけ動かして肩をすくめた。
「いや……さすがの俺でもないわーって思うぜ、師団長」
「そうか? 俺が一番近い女性と言ったらジュジュだろう?」
「そこに関しては否定しないが……何かあった場合、アンタがジュジュをちゃんと守るのか?」
「協力してもらう以上は守るが? それにジュジュを守り切れなかった場合、テオにも申し訳ない」
「……だからって巻き込んでやるなよ」
「アレの鼻も明かせる良い機会だと思ったんだがな?」
「それは……どちらかと言えば、肉を切らせて骨を断つってやつでは」
相変わらずの強硬派なディーターに、さすがのマンフレッドもドン引きだった。
この男は、魔術と政治以外はからっきしである。
改めまして、本年も更新ペースをなるべく崩さないように頑張っていきたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。
お知らせ等があります場合は、後書きや活動報告にてお伝えしていきます。
多分近々、色々お知らせが出来ると思いますので、どうぞお楽しみに!




