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おばあちゃんと孫と魔女の店 ~ 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について ~  作者: 秋本悠
第一部 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について
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07.おばあちゃんの日記



 土井弁護士から渡された日記を家に持ち帰り、結珠はリビングにかばんを放り投げると、慌てて寝室へと向かった。

 祖母からもらった鍵は、寝室のアクセサリーボックスに入れておいたからだ。

 鍵を手にすると、日記の鍵穴へ鍵を差し込んだ。

 回すとかちりと音がして、鍵が外れた。

 表紙をめくると、日記とは違う白い紙がホチキスで止まっていて、そこには祖母の字で【結珠へ】と書かれていた。


「あ……手紙?」


 結珠は祖母からの手紙を読み始める。




 ───── 結珠へ


 この手紙を無事に読んでいるということは、あなたにはあの家の後継者たる資格があったということ。

 大変喜ばしく思います。

 あなたが相続した家を含む、おばあちゃんが築いた財産は、あの家からうまれたものです。

 そこらへんは土井さんからも簡単に説明があったでしょう。

 日記に詳しいことは書いたから読んでください。


 この日記の後半部分には、家の正しい使い方についての説明も書いてあります。

 あと、一番うしろの表紙のところに、いくつか鍵を残してあります。

 その鍵についても、説明をしっかり読んでください。


 結珠……あなたが、欲にかられず楽しい生活をおくることを望みます。


 ───── おばあちゃんより



 鍵? 慌てて一番うしろの表紙を開くと白い封筒がガムテープで貼られていた。

 封筒に触れると硬い凹凸があり、中身が紙ではないことがわかる。

 結珠は日記を傷つけないように慎重にガムテープをはがす。

 少し装丁をガムテープと共にはがしてしまったが、比較的綺麗に取れた。

 封された封筒を開けると、鍵が大小三つ入っていた。


 結珠は再び最初のページへ戻ると日記を読み進めていく。

 日記は、祖母の日常も交えた、結珠のために残したと思われるものだった。




 ○月×日

 明日、結珠の作品をひとつだけ、店に置いて反応を見ることにした。

 誰かが気付けば、結珠にはこの家を継ぐ資格があるかもしれない。


 ○月△日

 開店時間からしばらくして、常連さんが結珠の作品に気付いた。

 「また、すごい品を仕入れたものだな。めちゃくちゃ欲しいけれど、自分の手持ちでは買えない金額だ」と嘆いていた。

 少し高めの金額を設定しただけはある。

 結局、午後に王宮魔術師が「何とか手持ちで買える!」と購入してくれた。

 さすが、結珠! これで、家の後継者は決まりね。

 あとは、いつ何が起きても良いように準備を進めるだけだわ。




 日記の日付を見て、ふと思い出す。

 そういえば、この頃に結珠は祖母のすすめで、ひとつ作品を預けた。

 この石で作品を作って、店に並べてみないかと言われて、祖母に言われるがまま、祖母から渡された石を使って、魔法の杖のようなデザインのかんざしを作った。

 わざわざ祖母から参考にとデザイン画まで渡されたので、「ここまでするんなら、自分で作れば?」と結珠は言ったのだが、祖母は「あんたが作るから意味があるのよ」と答えた。

 そう言われた結珠は、祖母のデザイン画から少し結珠らしさを加えた形でかんざしを完成させて、祖母へと託した。

 まさかこんな形でテストされていたとは思ってもみなかった。

 確かにすぐに売れたと言われて、売上金を後日貰って、家の近くのお気に入りの古民家イタリア料理の店で、休日にランチまでごちそうになった。

 ただ結珠としては、石以外のパーツは結珠の手持ちのものを使ったものの、祖母に言われた通りに組み立てた気分だったので、いくら少し自分流のアレンジを加えたとはいえ、祖母の作品に近い感覚を持っていたので、自分の作品と言われてもあまり実感はなかったのだが。

 でも祖母が妙にご機嫌で、普段はあまり頼まない少し高めのランチコースを頼んで、車できたせいでお酒が飲めなかったことを嘆いて、帰りがけに地元で人気のパティスリーで家族全員分のケーキまで買ってくれて、結珠に持たせてくれたのだ。

 たまの孫孝行よ、なんて笑っていたけれど、昨日結珠が貰った金貨を察するに、結構な売り上げだったのだろう。

 けれど、それをそのまま結珠へ還元するわけにもいかず、食事のおごりで労ってくれたようだった。


 そのあとは、病気が見つかったこと、いよいよもって相続について遺言書の作成をしたことなどが綴られていた。


 ☆月▽日

 遺言書の作成が終わった。

 結構財産は貯まっていたのだなと改めて思う。

 でもこの財産は、ある意味目くらましに過ぎない。

 全て、この古い家を守るための財産だ。

 自分の子供たちを飛ばして、家を孫の結珠に譲るなんて言ったら、きっと皆が訝しむだろう。

 正当な資格を持たない者にとっては、単なる古い家だ。

 でも結珠以外の人間が相続人になって、更地にされてしまったら、おしまいだ。


 結局私は、自分の手であの家を消し去ることが出来なかった。

 本来ならば、祖父が亡くなった時点で壊してしまえば良かったのだ。

 でも出来なかった。


 私は、この家が好きなのだ。


 結珠、ごめんなさい。

 もしかしたら、私はあなたに厳しい選択をさせることになるかもしれない。


 □月◇日

 いよいよもって、私は長くないかもしれない。

 祖父から託された店を、私はちゃんと守ることが出来ただろうか。

 そして正しく結珠へ託すことが出来るだろうか。


 この家は、諸刃の剣だと思う。


 余計な欲を持たなければ、とんでもない富をうむ家だ。

 でも悪いことを考えれば、途端に自分自身へ向けて牙をむくだろう。


 自分にそのつもりがなくとも、第三者の悪事に巻き込まれる可能性もある。


 私の時代はまだ良かった。

 高度経済成長期にかかっていたから、多少の辻褄合わせも難しくなかった。

 でも、生活が便利になった今の時代は違う。

 色々とごまかしも難しくなってきている。

 弁護士さんや、税理士さんたちにもたくさん迷惑をかけた。


 どうか結珠が危険な目にあいませんように。

 願わくば、結珠に幸いを。




「お……おばあちゃん……」


 気付けば結珠は涙を流していた。

 最後の日記は、祖母が亡くなる三日前の日付。

 祖母はこの家で結珠の母親の前で倒れて、そのまま搬送された病院で亡くなった。

 日記が土井弁護士の手元にあったということは、この日記は最後に書いたあと、亡くなる前日までに大急ぎで弁護士に託したのだろう。

 祖母は最後まで家の心配と、結珠の将来を案じていた。



 家の秘密とは何なのか……。

 結珠が家を継ぐ資格を持っているということは、どういうことなのか。

 祖母の前の家の持ち主である、祖母の祖父はどういう人物なのか。


 結珠は涙をぬぐうと、再びページをめくった。



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