68.夜会の髪型って?
ジュジュの次の公休日は三日後。運よく、結珠の店も定休日の日である。
打ち合わせに長く時間がかかることも想定して、ジュジュには昼前に店へ来てもらうこととなった。
もちろん夜会向けの髪型で来ること。ドレスのデザイン画と布の端切れを持ってくることも約束された。
三日後の約束の時間、ジュジュはフード付きのマントを羽織ってやってきた。
「ジュジュさん、いらっしゃい。あれ? どうしたの? フードなんて被って」
「こんにちは、ユズ。さすがに夜会用の髪型でそのまま来たら目立つからフードで隠してきたのよ」
ジュジュはそう言うと、フードを下ろした。華やかに結われた髪型のジュジュが見えた。ものすごく派手というわけではないが、複雑に編み込まれ頭頂部がやや高く盛られているから、確かにドレスではない格好だと髪型だけ浮いてしまうかもしれない。
「おおお。へぇ……ワーカード王国の夜会だとそういう髪型なんだねぇ……」
「これでも大人しい方よ。高位の家の方だともう少し盛っているわね」
「ははぁ……そうなんだ。準備するの大変そう……」
どういう技術で盛っているのだろうかと、ついまじまじと見てしまう。普段の髪型は、結珠たちとそんなに変わりがないはずなのに、どうして夜会だとこんなにもりもりなのか。とても興味深い。まぁ、いわゆる日本での夜会巻きと言われている髪型も前髪を高く盛っている印象があるので、それに近いのかもしれない。
そう思いながらジュジュへと近寄って見ていると、若干気まずかったのか、ジュジュも結珠の髪型を見ていた。
「今日のユズ、何だかいつもと違うわ。夜会向け……に近い髪型ね」
「あ、ホント? ワーカード王国の夜会でも通用するかな?」
今日の結珠の髪型は、綺麗にまとめてある。もちろん結珠が自分でやった。複雑に編み込むことは難しいので、いわゆるくるりんぱと呼ばれる技法を多用して、まるで編み込んだように見せかけている。結う前にヘアアイロンでカールを作ってからやったので、かなり華やかな髪型になっている。まるで結婚式にでも出席するような髪型だ。
「ええ、男爵令嬢や子爵令嬢だったらそういう髪型の方もいるわ。あら? じゃあ私でもユズみたいな髪型で夜会へ出席しても問題ないかも……」
「よかった! 私が提案出来る髪型だとこういう感じになるんだよね。だから参考までにって思って自分でやってみたんだけど」
「え!? ユズが自分でやったの!?」
「うん。そんなに難しくないよ」
「近くで見ても良いかしら?」
「もちろん! どうぞ!」
今度はジュジュが結珠の髪型をじっくりと観察した。ジュジュからしてみたら、これを結珠が自分でやったとは思えないくらい綺麗に整っていた。
「……この前のネイルといい、ユズは何でも出来るのね? 魔女だからこそ?」
「そんなわけないよ。私、ものすごい器用ってわけでもないからね。単純にこういう技術を提供してくれる場がいくつもあって、気軽に真似できる環境があるんだよ」
今日の結珠の髪型は、もちろんネットの動画を参考にして結ったものだ。『華やか パーティー向け』といった検索ワードで調べれば、海外の動画を含めてたくさんの解説動画が出てきた。
いくつか気になった動画はブックマークを付けてある。もちろんジュジュに紹介出来たらと思っている。
一通りジュジュが観察を終えたタイミングを見計らって、結珠はカウンターから出来上がったばかりのヘアアクセサリーを持ってきた。ジュジュにはカウンターのスツールへ座るように声をかけた。
「この前のパーツ、組み合わせたらこういうヘアアクセサリーになったんだけど、どうかな?」
結珠が見せたアクセサリーは、先日結珠の結婚した友達に依頼されたのと似たような雰囲気のワイヤーレジンフラワーのヘアアクセサリー。
違うのは色合いと形だ。色は寒色で、紺色に近い濃い青や水色、紫色などの花で品良くまとめられている。
「わぁ! 素敵ね! これが頭飾りになるの?」
「そうなの! 髪型によって着ける位置を考えればいいんだけど、今の私みたいな髪型だったら後頭部にこうやって着けるとかね」
結珠は自分の後頭部にヘアアクセサリーを当ててみる。髪型がより華やかに見えた。
「綺麗ね! じゃあ、私に着けるとしたら?」
「そうだねぇ……。今のジュジュさんの髪型だったら、このサイドに斜めに着けるのが綺麗かな?」
今度はジュジュの髪に当ててみる。カウンターに予め置いておいた鏡を覗き込むと、ジュジュの顔が輝いた。
「あら? 何だかちょっと違う気がするわね」
「……そうだね。多分だけど、髪型とあんまり合ってないんだろうね」
似合うかと思ったが、そうでもなかった。恐らく派手めの髪型にヘアアクセサリーの方が負けてしまっている。
結珠はジュジュをじっと見て、考え込んだ。すぐに思いついたような顔をした。
「よし、ジュジュさん! 今までの髪型はやめようか!」
「え? やめる?」
突然の提案に、ジュジュは驚く。
「そもそも流行の先端をいきたいのであれば、今までと同じようなものは駄目だと思うんだよね。それに良いものだったら、みんなが真似をすると思うの。だからこそ、今までとは違う髪型にして、このヘアアクセサリーに合うようなのを考えようよ!」
結珠の提案はもっともだろう。おまけに今回は公爵令嬢の鼻を明かすのも目的に含まれている。だったら今までと同じでは駄目なはずだ。結珠の提案はさらに続く。
「私だったらドレスもアレンジして、髪型変えて、あとはお化粧の方法もちょっと変えるとか……。今ね、私の世界では整形メイクっていうのも流行っているの」
「せい……けい……メイク?」
ジュジュには馴染みのない言葉に首を傾げる。
「整形メイクっていうのは、まるで自分じゃないみたいに顔形が変わって見えるお化粧方法ってこと。陰影をつけたりしてお化粧すると全然雰囲気変わるんだよね。本当に別人になったくらい顔が変わるの」
「そんな技術があるの!?」
「うん。私の世界は化粧道具も多種多様に揃ってるし、日々進化してるからこっちの化粧道具使ったら多分ジュジュさんも別人みたいなお化粧が出来ると思うよ?」
夢のような話だ。まるで別人のような顔になれる化粧方法だなんて思いつかなかったし、ワーカード王国の人間からしてみたら、そんな技術があること自体知らなかっただろう。もちろんジュジュもその一人だ。
しかし結珠は、それを当たり前のものとしてジュジュに提案してきた。結珠の暮らしている世界はやはり高度な技術を擁した場所なのだと改めて理解する。
「とりあえず、今日は髪型の研究をしてみない? せっかく作ってきてもらったけど、髪型崩しても良いかな? 私が出来る範囲で新しい髪型に結ってみるけれど」
「も、もちろん! 大丈夫よ! ぜひやって!」
「ありがとう! じゃあ、ちょっと道具とか準備してくるね」
さらりと言って、結珠は居住スペースの方へ道具を取りに行ってしまった。
これから何が起きるのか。ジュジュにとっては全部が未知数だ。怖いと思う反面、わくわくもしている。それはまるで、この前の小さな魔石を使った魔法道具を作ったときの感情にも似ている。
本当に結珠はジュジュに変化をもたらす救世主のような存在かもしれない。
ジュジュの手は期待からか、少し震えていた。




