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57.指輪のちから?それとも?



 ようやく諦めがついたらしい美奈子を引きずるようにして、みはるの兄が連れ帰った。

 父は自分の実妹の家族が結珠や妻に迷惑をかけたことに対して、少し落ち込んでいた。

 祖母が完璧に相続対策をしていたが、人の感情は別だ。大なり小なり、金が絡むと人は狂うのかもしれない。改めて、結珠もあの家の扱いについて、気を引き締めようと思った。

 やっぱり忙しさにかまけて先延ばし気味な日記の読破を急ぐ必要がある。

 知る必要のないことは読めないとは書かれていたが、これだけ騒ぎが起きたのだ。また新たに読める部分が増えているかもしれない。帰ったら読んでみようと決意を固めた。




 結局、日記には特に新発見な詳細は書かれておらず、注意事項のようなことばかりが並んでいた。

 日記を読みながら、ふと考える。

 みはるが店に弾かれたのは、ワーカード王国側の人間に起きる現象の、悪意のある者を跳ねのける防犯機能と同じではないかと。

 しかし、何故日本に住んでいるみはるがその対象になったのか。

 唯一考えられるのは、ジュジュから預かった指輪だ。

 指にはめたら抜けなくなったらしい、エメラルドの指輪。病院にいた際に、見慣れない指輪に家族が気付いたと言っていたので、恐らく結珠の家に襲撃をかけたときにも身に着けていたのだろう。

 ワーカード王国の指輪で、本来であれば日本には存在しないもの。

 まさかそれがトリガーになっているのではないだろうかと、結珠は結論に至った。それに、祖母の言うことが正しかった場合、かなり薄まっているとはいえ、自分にもみはるにもワーカード王国の人間の血が流れている。

 そう考えてしまえば、ますます結珠の推理は正しいものに思える。だが、その確信を得るためには、ジュジュに話を聞かなくてはいけない。

 こういうときに連絡を取れる手段がないのはかなりめんどくさい。結珠はジュジュが店へ訪ねてくるのを待っている以外にないのだ。次の約束は、ワインを楽しむ女子会で、まだあと一週間以上ある。結珠はため息をつきながら、ひたすら店番を続けた。



 小椋家と木村家の話し合いからしばらく経った約束の日。結珠はやきもきしながらも、女子会の準備をしていたのだが、夕方になってジュジュがようやく店へと訪れた。


「ジュジュさん! 良かった! 来てくれた!」

「あら、どうしたの? 何かあった?」

「あったもあった! ねぇ! ジュジュさんが預けてくれたエメラルドの指輪って何かあるの!?」


 何か? まさか呪いの指輪であることが結珠に知られた!? と、ジュジュはドキッとした。だが、そこは貴族の端くれ。顔には出さない。


「何かってどうしたの? 何か起きたの?」

「起きた! 起きたのよ! あのね、やっぱりいとこが勝手に持って行ってたんだけど。お店に入れなくなっちゃって!」

「は? お店に入れない? 待って、どういうこと?」


 結珠から聞かされた内容が理解出来ず、ジュジュがポカンとする。それはまさしく演技でもなくただ純粋に驚いた表情を見せていた。


「ユズ、あの指輪にそんな力はないわ! 少なくとも私は聞いてない!」

「あ、やっぱりそうなの? ジュジュさんは単なる指輪って言ってたし、何かの魔法道具なのかと思ったんだけど、そういうわけじゃないんだね」

「ええ、魔法道具ではないわ。そもそも作り手の魔女であるユズに魔法道具を渡しても仕方がないじゃない」

「そうだよねぇ……。別に作れるだけで使えるわけじゃないし。じゃあどうして入れなかったんだろう? やっぱり薄くても私たちの中にワーカード王国の血が流れてて、そこにワーカード王国の指輪が加わっての反応なのかな?」

「えーっと、ユズ? 申し訳ないんだけれど、最初から順を追って説明してもらえないかしら? 非常に断片的でわからないわ……」


 ジュジュの指摘は正しい。結珠はジュジュが来たことに興奮して、要点しか話をしていない。ごめんなさいと謝って、結珠はとりあえず作った料理をカウンターに並べ、ディーターから貰った高いワインを持ってきた。

 しかしジュジュは首を振った。


「少し深刻そうな話だし、今日はこのワインじゃなくて普通のワインで飲まない? 出来れば楽しい話で良いワインを飲みたいわ」

「……そうだね。こっちはまた改めてにしようか。待ってて普通のワイン持ってくる!」


 結珠はそう言うと一度家へと引っ込み、高いワインを再び箱に収め、お手頃価格のワインを持って再度店へと戻った。

 ジュジュへ手渡すと、手慣れた手つきでワインを開けてくれる。グラスの半分くらいまでワインを二人分注いで、乾杯をした。料理もつつきながら、結珠は先日起きたことをジュジュへ順を追って説明した。

 一応、みはるが植木鉢で店を叩いていた部分は結珠も動画で見せてもらっていたが、ジュジュに説明してもわからないだろうと判断し、そこは目撃証言があったということにして説明する。


「そうだったのね。それで、目撃者の証言だと、まるで店に膜が張ったように見えない何かがあって、それがいとこの攻撃を阻んでいたと」

「うん。ちなみにワーカード王国で、お店に入れない人もそんな感じなの?」

「ええ。恐らく同じ現象だと思うわ。そう……結珠の世界でもこちらと同じことが起きたのね」

「ジュジュさんがそう言うんなら、多分同じ現象なんだと思うけど……。私としては、高祖父がワーカード王国の人間であるということと、本来私たちの世界では持つことの出来ない、ワーカード王国の品物を持ったということで、お店に悪意を持ったワーカード王国の人間と錯覚させたのかなって」


 結珠の推理に、ジュジュはふむと考えた。確かに結珠の推理は矛盾点がない。そう考えるのが自然かもしれない。まさか、あの呪いの指輪にそんな副作用があるとは思ってもいなかった。ある意味、ジュジュにとっては幸いとも言える。


「ユズの推測、正しいかもしれないわね。まぁ、確かめる術もこれ以上はないんでしょうけど……」

「だよね。それにね、いとこが持ち帰った指輪、外れなくなっちゃったらしくて。まるで根でも生えているかのように固定されて指輪が回りもしないんだって」

「…………まさかそんなことまで起きているの?」


 そこについてはジュジュにも少し心当たりはある。対象者が呪いとの親和性が高い場合、その呪物が取れなくなるケースがあるのだ。みはるから指輪が取れなくなったのは恐らくそのせいだろう。

 親和性が高くなるのは、もちろん様々な理由があるが一番は対象者の恨みつらみの感情が呪いと融合して対象者と呪物が一体化するからだ。そうなると対象者は大体が破滅への道を歩むこととなる。それもそうだろう。対象者そのものが呪物みたいなものだ。そして増幅された呪いが酷くなった場合は、討伐対象にもなったりする。

 もちろんそんなことにならないよう、呪物を扱うときには注意するように必ず言い含められるが、当然忠告を無視する者も一定数いる。闇に生きる者たちなどが良い例だろう。

 しかしその一方で取れなくなった呪物がある日外れる人間もいる。そういう人間は大体が更生しているケースが多い。

 そのため、呪物が取れた対象者は心から反省し、罪を認めた人間だなんて、ワーカード王国では言われている。実際、そういう人たちは己の罪と向き合い、自分が悪かったと認めた人間ばかりなので、その信憑性は高い。


「きっと、ユズのいとこが今回のことを心から反省したら、いつか取れるわよ」

「え? なにそれ」

「ワーカード王国に古くから伝わる言い伝えなの。盗んだものを身に着けると取れなくなってしまう。けれど、心から反省したときに取れるって」


 古くからの言い伝えとして、結珠に教えた。彼女の事情を知り、その上で真実を教えることの出来る人間は、今のところジュジュとナールとディーターだけだ。だからこそ、真実を知ることは恐らくないだろうと判断して、そう伝える。

 結珠はそれを聞いて、苦笑した。


「ワーカード王国の指輪を勝手に持って行っちゃったから、そういうことが起きるかもってことか。そう考えるとあり得るかもしれないね」

「外れることを願っていましょう」

「いや、外れてもらわないと困る! ジュジュさんに返せないじゃない!」

「そうね。でも気長に待っているわ」


 最初は返さなくても良いと思っていたが、思いもよらない現象が起きているのであれば、回収した方が良いだろう。もしもいとこからまた別の第三者の手に渡り騒動が起きても大変だ。

 正直に言えば、軽い悪夢でも見て反省してくれればという軽い気持ちで渡したのだが、まさかそんなことが起きるだなんて、ジュジュは夢にも思わなかった。それはジュジュに呪いの指輪を託したディーターも同様だろう。

 今回は結珠の言う通り、薄くともワーカード王国の血が流れる人間が起こした騒動だからこそ、起きた現象なのかもしれない。

 だが、結珠の高祖父が何らかの方法で、結珠の世界へ渡ったというのであれば、ジュジュが知らないだけで他にも同じような人間がいるかもしれない。

 少しでも可能性があるのならば、不安要素は排除しておくべきだろう。

 ただ、対象者が心から反省した場合という前提が付くのだ。それがすぐなのか、長期間に渡るのかはみはる次第なので、期間は定かではない。

 ジュジュが自分で言った通り、気長に待つしかないのかもしれない。


「それで? 一応、騒動は終わったの?」

「うん。念書は交わしたよ。やむを得ない場合を除いて、接触は最小限に留めるって」

「じゃあ、遺産相続についてはもうこれで完全に問題は収束したかしら?」

「多分ね。私は今後また同じような騒動が起きないように、またおばあちゃんの日記をちゃんと読むよ」

「あら、まだ全部読んでなかったの?」

「というか……ほら、閲覧制限かかっている部分もあるから、今、読める部分は全部読んであるけど、また時間が経てば新しく読める部分も増えるからね」

「そうね。早く読める部分が増えるといいわね」


 果たしてあれだけ自分本位なみはるが反省するのか。甚だ疑問だが、更生してくれればいいなと結珠も思っていた。


これまた突然ですが、もうすぐ連載1周年となります!

そこで本日より1週間は連載1周年記念ということで、毎日更新します!

来週からはまた元の更新速度に戻りますので、この1週間だけ毎日お楽しみください。

なお、更新時間は変わりません。

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― 新着の感想 ―
念書ほど不正確で無意味なものはありませんけどね。裁判所から接触禁止命令が出たのではない限りはね。念書って結局のところは書いた本人の意識次第ですし、強制力はありませんから。本人が他者のせいして自分を正当…
>そうなると対象者は大体が破滅への道を歩むこととなる 本人はまあ、破滅してもしなくてもうん・・・とは思うけど 半自動で道連れになるみはる兄があまりにも悲惨すぎる・・・幸あれ幸あれ
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